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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
静電気の功罪 東京電気技術高等専修学校 講師  福田 務

静電気は私たちの生活のいろいろなところに存在し、多くの役に立っている反面、思わぬ障害や災害をもたらす困り者でもある。ここでは静電気がどのようなところで役に立っているか、またどのようなところで迷惑を及ぼしたり、危険性があるかなどについて解説する。
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01 役に立つ静電気

 静電気の最初は、医療への応用であると伝えられている。それは静電気の研究を始めたギルバート(1540〜1603)がイギリスの医者(エリザベス1世の侍従医)であったことにも関係する。しかし、目立った効果はなかったようである。その後ほぼ200年経ってイタリアのボルタによって、化学電池が発明されたことにより継続的に流れる電流を得たため、電気の研究開発は電流の利用中心になり、静電気に対する関心は更に薄れていた。ところが、19世紀後半になってアメリカを起点として、静電気利用の実用化を図る機運が急に盛り上がった。それは工場から出る大量の排煙や煤塵による環境破壊を防ぐために、微粒子を含んだ塵の回収に静電気の働きを利用しようとする研究者が現れたためである。
 

(1) コットレルによる電気集塵装置の開発が静電気応用を促進させた

 1905年、カリフォルニア大学のコットレルは高圧用変圧器に整流装置を組み合わせた直流高圧電源を考案し、この電源装置を使って工場用の電気集塵装置を開発した。たとえ交流電圧で高圧を得ても、帯電した塵(微粒子)も交互に向きを変えて移動するので、交流高電圧では微粒子を回収することはできない。しかし、直流高電圧であれば、帯電した微粒子は一方向にしか移動しないので回収することができる。
  コットレルの集塵装置の構造原理は、第1図のように円筒形の電極の真ん中に絶縁した細い針金電極を張って、針金電極にはマイナスの直流高電圧をかけておき、円筒電極は接地しておく。針金電極の電圧を上げていくと、針金電極からマイナスイオンが流れ、針金電極と円筒電極の間で火花放電が発生する。この状態で円筒電極の下から排煙などのガス流を送り込むと、ガスの中の微粒子がマイナスイオンと衝突してマイナスの電荷をもち、円筒電極の内壁に引かれて吸引堆積する。この堆積層を機械的衝撃を与えて容器に回収するのがコットレル集塵装置である。
 集塵装置は使用時は高電圧をかけても、流れる電流は極めて小さいので電力消費は少ないし、構造が簡単で騒音が少なく、装置の保守が容易であるなどの利点がある。
  その後、コットレルの業績によって静電気に対する関心は再び高まり、静電気がもつ性質を有効に活用しようとする研究が一段と進むようになった。この装置の開発のあと、静電プロセスと呼ばれる新しい技術が次々に登場してくるようになるのである。
 

(2) 粉や毛を変身させる静電気(粉体塗装、人工植毛の原理)

 野球場を彩る人工芝、あるいはゴルフのパターマットは、人工植毛の技術を生かしたものである。人工芝を形づくる1本1本の毛は薄緑色の透明なナイロンの毛で、1本の長さは約4.5mmある。芝やマットにするには第2図のように、これを1枚の金属電極板の上にたくさんまいておき、ナイロンの毛を植え付ける方の布地ベースは、もう1枚の金属電極板上に固定し、毛を引き寄せる表面に接着剤を塗っておく。そうして直流40,000V程度の電圧を加える。すると、プラス(+)に帯電したナイロンの毛は激しくマイナス(-)側の電極板に向かって飛び上がり、ベース表面に付着する。このときあたかも電気力線を描くように電界の向きに毛が飛ぶので、毛はベースに垂直に立つように、きれいにそろって接着されるのである。
 ところで、野球場の人工芝のように広大なものは、小区分ごとに作ってファスナーでつないである。このため着脱が可能になり、野球場が多目的に使えるのもこういう工夫があるからである。
  さて、自動車ボデーなどの塗装の仕組みの原理はどうなっているのであろうか。パイプいすを例にとって説明すると、第3図のようになる。
 手に持ったガン(粉出機)から勢いよく粉を噴出させているが、これは粉の塗料である。しかし、ただ粉が出ているのではなく、ガンの先端にある細い針状電極に直流の高電圧(70〜90kV)を加えてあるため、粉はプラス(+)に帯電されている。パイプいすのほうはアース線(-)につながれているため、粉はパイプいすめがけて飛び出すことになる。つまり静電気力で粉が付着することになる。塗装したあとオーブンで焼き付けて塗装完了となる。高電圧をかけているが、電流は100μAとわずかである。塗装される側(自動車など)がマイナス電極の役目を果たしていないと塗装はできないことがわかる。
 

(3) 煙が変身する(移動用消煙装置の原理)

 電気は取扱いを誤れば火災につながるが、その反面、扱い方によっては消火に役立つということがある。ビルの地下室などの消火作業をする際に、まず必要な条件は部屋の中が見えることである。消防士にとって、屋内に煙が充満しているような状態では中にどんな危険物があるかもしれず、うっかり踏み込めないことになる。そこでこのような場合、第4図に示すような消煙装置を消防車に載せて現場に駆け付けるのである。
 消煙装置の動作原理は、第5図に示すように室内の充満した煙をファンでこの装置の中に導き入れて、装置内部のコロナ放電中を通過させる。すると煙の中の粒子(0.1〜10μ)はプラス(+)に帯電(イオン化)されて室内空間に放出される。消煙装置内のコロナ放電を起こす放電線には12kVのプラス電圧がかかっている。この消煙装置が集塵装置と異なるところは、集塵装置は排煙を1回通過させるだけであるが、消煙装置は室内の煙粒子を反復してイオン化しているのである。
 この繰り返しが続けられることによって、電荷をもった煙粒子は周囲の壁面、天井に接近して、それらの表面に吸引、付着していく。また、電荷をもった煙粒子は、まだイオン化されていない煙粒子とお互いに結合して大きな粒になり、急速に床面に落下する。この消煙装置は非常用電源設備に接続して使われるのであるが、1kVAのエンジン発電機を用意すれば、2台を働かせることができる。
 

(4) その他の静電気応用例

 (ア) 事務書類や報告書の作成に欠かせないコピー機
 (イ) パソコンで処理した文字や画像データを出力するレーザプリンタ
 (ウ) パソコンやテレビの液晶表示装置
 (エ) コンデンサマイクとスピーカ
 (オ) 鉱石の選別などに使われる静電選別機
 (カ) 農薬の静電散布など


02 静電気による迷惑 (日常生活と製造業の場合)

 人が動くと、床や着用している衣服や靴などとの摩擦によって人体に静電気が蓄えられる。冬場の乾燥期には、大地と人体との間の電圧は10kVを超えることもある。この状態で金属ノブやベランダのアルミサッシなどに触れると瞬時に放電するのでショックを受けることになる(このような時にはいったん部屋の壁など手を触れてから金属部分に触れるとよい)。また、ほうきで部屋を掃除するとき、ほうきで帯電したほこりがほうきや畳に付着して、ほこりが取れないことがある。
  そのほか製造業で起こる静電気は生産の邪魔をすることがある。例えば、綿糸や絹糸の製造工場では、帯電した糸が機械に巻きついて切れてしまったり、印刷工場では帯電した紙どうしがくっついて破れたりすることがある。また、小麦粉などの粉を扱う工場では、粉が輸送ダクト内に付着して輸送できなくなったりすることが起きる。
 


03 静電放電による致命的な弊害と対策

 静電気放電は放電電圧が極めて高いことと、放電電流の立ち上がりが極めて急峻である。このため静電気放電による電磁ノイズは、電子機器へ誤動作の誘引や電子部品の絶縁破壊を招いたり、可燃性物質の着火・爆発などの危険性をはらんでいる。また、引火性の液体の蒸気は、極めて小さいエネルギーによっても容易に引火する。静電気の発生を抑制することは難しいが、次のような処置をとることは静電気による火災を防止することになる。
  ① 静電気が蓄積されるものと大地を導線でアースする。
  ② 室内の湿度を75%以上に上げて不導体表面の水分を増やす。
  ③ 給油ホースに導線を巻き込んだゴムホースなどの導電材料を使う。
  ④ 不導体表面をカーボンブラック・金属粉などを塗布し導電性を向上さ せる。