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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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理論計算の落とし穴(7)不平衡三相負荷の計算 東京電気技術高等専修学校 講師  福田 務

電気理論や電力などの計算問題は、電気工学の法則の意味を理解し、幅広く数学の知識を応用して解かなければならないが、試験会場ではあまり時間をかけることはできないため、方針を素早く決定し要領よく計算する必要がある。しかし、その方針次第で落とし穴にはまり、誤答したり時間がかかって解答が求まらないことがある。このシリーズでは、このような落とし穴の例をいくつか取り上げ、計算運用の上手なテクニックを学ぶ。今回は、不平衡三相負荷の計算について解説する。

 〔問題〕 第1図に示す不平衡回路に

  formula003 formula003 の平衡三相電圧

 を加えたときの相電流IaIbIcを求めよ。

 この回路を見て、あっさりと次のような解答を作成した生徒がいたが、これは誤りである。どこに誤りの原因があるのであろうか。

 〔答〕 負荷の各相に加わる電圧をベクトルオペレータ formula004 formula004 を用いて表すと、

   次のようになる。

formula005
formula005

 したがって、

formula006
formula006

 この答案の内容はいかにもあっていそうな感じがするかもしれないが、正解にはほど遠いものである。まず、誤りを確認する方法としてキルヒホッフの第一法則を適用し、負荷側の中性点(Ot)にこれを当てはめてみると、 formula007 formula007  にならなければならないが、実際に答案の数値を当てはめてみると、

formula008
formula008

 となって、0にはならない。0にならないことはキルヒホッフの法則に反し、この答が正しくないことを示している。

 更にこの答案の誤りの原因は、この回路は不平衡回路なのであるから、4、2、8Ωの負荷の両端に生じる電圧は、それぞれ異なっていることに気がついていないことである。

 したがって、電源側の中性点Oと、負荷側の中性点Otとの間に生じる電位は、等しくないはずであるから、電源側の中性点Oと負荷側の中性点Otとの間には電位差が生じていることになる。この電位差を計算の過程で考慮しなければならない。

 この問題を正しく解くには、この中性点間に生じている電位差をE0と仮定して、このE0を用いて次のようにこの第2図の回路を三つの部分に区分けして考え、キルヒホッフの第二法則を適用し、IaIbIcを求めることである。

 すなわち、第3図は   formula009 formula009

        第4図は   formula010 formula010

        第5図は   formula011 formula011

がそれぞれ成立していることになる。再びキルヒホッフの第一法則を用いて、第3、4、5図から得られた式を  formula012 formula012 に代入して計算し、0と置いてE0を求める。

formula013
formula013
formula014
formula014

 この式から、E0を求めると、

formula015
formula015

 ここで、 formula016 formula016 は平衡三相電圧であるから、

formula017
formula017

となり、上式に代入すると、

formula018
formula018

となる。ここで得られた formula019 formula019 の値を formula020 formula020 に代入すれば、不平衡負荷を流れるそれぞれの値を求めることができる。

formula021
formula021
formula022   formula023 formula023
formula022   formula023 formula023
formula024 〔A〕
formula024 〔A〕
formula025
formula025
formula026
formula026
formula027 〔A〕
formula027 〔A〕
formula028 formula029 formula029
formula028 formula029 formula029
formula030
formula030
formula031 〔A〕
formula031 〔A〕

 ここで、念のため検算をしてみると、

formula032
formula032

となって、答が正しいことが分かる。

 このように不平衡回路の計算は苦労が多いと思われるかもしれないが、複素数を上手に生かした処理ができる方法もあるということを知って、ベクトルオペレータ formula033 formula033 の取扱いにも慣れてほしいと思う。

 実際には三相不平衡回路は仮にこの例題のように、電源起電力が平衡三相電圧であったとしても、電源内部、電路、負荷の各インピーダンスのうち、少なくとも1種類は不平衡であるから、各電流の状態は異なるものになり、簡単には電流は決定できない。厳密には対称座標法で扱うわけであるが、一般には電源は対称起電力を発生するものであり、内部インピーダンスも平衡しているのが普通であるから、不平衡電流が流れても独立性を失うことなく、変動しないものと扱っても、大きな相違はないものとして処理する。