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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電動機の絶縁処理技術 旭化成EICソリューションズ(株) 電気技術部 大川 美彦

 発電機、電動機などの高圧回転機は冷却方式の進歩及び新しい絶縁システムの適用によって単機容量が急激に増大するとともに、小型・軽量化が促進されてきた。ここでは高圧かご形誘導電動機を中心に電動機メーカーの絶縁処理技術について解説する。

1.高圧電動機の構成

 電動機の機器構成図(高圧かご形電動機)を第1図に示す。

2.固定子巻線の構成事例

 第2図は低圧及び高圧電動機の固定子巻線の構成事例を示すもので、その違いに着目してほしい。高圧電動機の固定子スロット内はコイルとなる素線絶縁の集合体を対地絶縁のマイカテープで巻き、上・下2段に組み込んでいる。コイル間、鉄心間にはスペーサが入り、スロットからの飛び出し防止用にくさび(ウェッジ)で固定されている。鉄心スロット内での対地絶縁層表面と鉄心との間のスロット放電、スロット出口部での対地絶縁層表面の沿面放電を防止する構造がとられている。スロット内部のスロット放電に対しては、通常6kV使用の場合は対地絶縁のマイカテープ上にコロナ防止シート(低抵抗シート)を巻き、部分放電の発生を抑制している。

3.絶縁処理の組み合わせ事例(低圧、高圧)

 第3図に低圧及び高圧電動機の電線、絶縁紙、樹脂、処理について、絶縁処理の組み合わせ事例を示す。低圧電動機の処理「立てスローデッピング処理(Dip)」とは、固定子の鉄心及び巻線を縦形に置き、空気層が出来ないように加熱したエポキシ樹脂(基本液状樹脂、可とう性樹脂、硬化剤、添加剤)を下部から張り全含浸させる方式である。

4.絶縁材料の種類(加工、耐熱分類)

 絶縁材料における「マイカ材、薄葉材、樹脂の加工分類」を第1表に、「薄葉材、電線、含浸樹脂の耐熱分類」を第2表に示す。素線絶縁は直接導体に接しているため、電界の強さや温度などの条件が厳しく、コイル絶縁システムの中で重要な構成要素となっている。このため固定子コイルの素線絶縁にはフィルム巻二重ガラス巻線またはマイカテープ巻線を採用し、絶縁基材としては耐部分放電性に優れたマイカが、コイル絶縁には不可欠な材料として広く使用されている。今日では天然のはがしマイカから均質で電気的、機械的特性が良好な集成マイカが多用され、合成樹脂はエポキシ樹脂が主流である。

5.樹脂処理方法(高圧電動機)

 固定子コイルの絶縁システムは部分放電の発生を防止するため、絶縁層内のエアギャップをできるだけ少なくする必要がある。このためのコイル絶縁の製造方法は第4図に示す「高圧電動機の樹脂処理方法」で右項の「ドライタイプマイカテープ材→絶縁テープ巻→鉄心へ挿入・結線→真空加圧含浸(VIP方式)→加熱硬化」という全含浸方式が採用されている。真空加圧含浸における樹脂含浸度合いを絶縁層の静電容量で検証したものが第5図であるが、製造現場では9時間/バッチで処理されている。

6.絶縁処理技術の進歩

 絶縁処理技術の進歩を第6図に示す。

7.製造工程(固定子巻線)

 一般的に下記の工程で固定子巻線が製造される。

 ①電線メーカーからの絶縁素線をボビンで購入 → ②コイル製作 → ③亀甲形など成形 → ④対地絶縁巻き → ⑤固定子鉄心のスロット組み込み → ⑥口出線引き出しおよび絶縁処理 → ⑦鉄心とともに真空加圧含浸 → ⑧加熱硬化 → ⑨仕上げ

 製造現場では製品の均質化を図るため自動化技術が導入されている。②、③工程には成形用NCスプレッダーマシンが、④工程には自動テーピングマシンが採用されている。⑤〜⑥の工程は複雑で人が介在する作業となる。⑦では真空含浸装置に10〜30台を同時に入れ、9時間/バッチで取り出す。処理台数及び時間の関係から製造の生産能力を制限している。