〜終わり〜
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電磁気現象は微分方程式で表され、一般的には微分方程式を解くための数学的に高度の知識が要求される。ラプラス変換は、計算手順さえ覚えれば、代数計算と変換公式の適用により微分方程式が解ける数学知識への負担が少ない解法である。このシリーズでは電気回路の過渡現象や制御工学等の分野での使用を念頭に置いて範囲を限定して、ラプラス変換を用いて解く方法を解説する。今回は、直流RL回路の過渡現象の解き方について解説する。
ラプラス変換法による過渡現象計算の第1ステップは、「回路の電圧方程式を立てる」作業である。
電気回路は起電力をもった電源があり、これと回路素子とで閉路が形成されて電流が流れることになる。例えば、第1図で回路素子が接続されていないときは、電源に起電力に相当する電圧が現れているだけで、回路素子には電圧はない。第1図のようにスイッチなどで両者が接続されると回路に電流が流れる。このとき、回路素子端に現れる電圧を電圧降下といい、この状態では起電力と電圧降下との関係は、
起電力=電圧降下
となる。換言すれば、上式の関係が満足されるような電流が流れることになる。ただし、上式が成立するためには、起電力、電流、電圧降下のそれぞれについて正の方向を次のように決めておく必要がある。
① 起電力の正方向は電流を流す方向とする。
② 電流の正方向は起電力の正方向と一致させる。
③ 電圧降下の正方向は電流の正方向と逆の方向とする。
[注] 起電力と回路素子とが複数ある閉路の場合は、電流を任意の方向に仮定した後、閉路を一巡する計算ルートCを仮定し、Cの方向と起電力方向が一致する起電力は正値として扱う。また、Cと仮定した電流の方向とが一致した電圧降下は正値として扱う。Cと一致しない起電力及び電流の正方向が一致しない電圧降下はすべて負値とする。このような約束の下で、上式のように起電力と電圧降下を等値する。この結果、電流が負値であれば、実際に流れる電流の方向は仮定と逆であることになる。
以上のことから第1図の場合、正方向の取り方は図示のようになる。
第1図 電気回路の電圧と電流
回路素子に電流が流れたことが原因で素子端に現れる電圧(電圧降下)は、回路素子の性質によって電流の流れる方向に対し第2図に示す関係として扱う。
第2図 回路素子の端子電圧(電圧降下)と電流との関係
① 抵抗Rに生ずる電圧降下 は図中の(1)式となる。
② 自己インダクタンスLに生ずる電圧降下 は図中の(2)式となる。
③ 静電容量Cに生ずる電圧降下 は図中の(3)式となる。
第3図(1)のように起電力Eと、抵抗Rと自己インダクタンスLの直列接続とからなる回路で、t=0 のときスイッチSを投入したとすれば、回路にはどのような電流が流れるかを求めてみよう。
第3図 RL直列回路(1)と回路各部の電圧と電流(2)
【電流を求める手順】
手順1 回路方程式 ———→ 時間関数によって回路の電圧方程式を立てる。
第3図(2)のように電源の起電力方向に合わせて起電力eの正方向を定め、この方向(点線矢印)と同じ方向に電流iの正方向を決める。そして電流の正方向と逆の方向に電圧降下の正方向を定める。この結果、回路各部の電圧は図中の各式で示されるので、t=0 でSを投入するので、時間関数による回路の電圧方程式は次式となる。
本来、時間関数はi(t)と表記すべきであるが、特定の時刻の瞬時値を表す場合のほかは、上式に示すように単に「i」 と表記するものとする。
手順2 ラプラス変換 ———→ 電圧方程式をラプラス変換する(s関数化する。ts変換)。
iのラプラス変換である {i}をI(s)と表すことにして、(4)式の電圧方程式をラプラス変換する。同式の左辺はE=E・1 であることに注目すれば、結果は次式となる。
S投入前は回路に電流が流れていないので、i(0)=0 である。このため上式は次式となる。
手順3 s回路計算 ———→ (5)式のs回路方程式を、求めたい量のs関数(I(s))について解く。
手順4 ラプラス逆変換 ———→ 求めている量のs関数(I(s))をラプラス逆変換して、その量のt関数(i)を導出する(st変換)。
付表1のラプラス変換表のt関数とs関数の関係は互いに可逆的な関係にある。
つまり、ラプラス変換の演算子を 、同逆変換の演算子を とすれば、例えば、
の関係にあるが、これをs関数側からみれば、
でもある。また、s関数が の形であれば、これをt関数で表すと となる。つまり、
の関係にある。
これはs関数が分かれば、付表1からそのs関数に対応するt関数を知ることができ、s関数がt関数へ変換されたことを意味する。
したがって、ラプラス逆変換の具体的作業は、「求めている量のs関数式を付表1のs関数欄にある関数群からなる式(多項式など)に整形すること」である。
☆☆☆☆ 部分分数分解(1) ☆☆☆☆☆
上式の両辺に を掛けると、
I(s)を表す(8)式を部分分数式に直すには、(16)式において、α=0、β=R/Lとおけばよく、
とs関数式を整形し、付表1からそれに対応するt関数をみいだし、(20)式が求まる。
自然対数の底「e」とは、
であり、exのデータを第1表に、そのグラフを第4図にそれぞれ示す。
第1表 exのデータ
第4図 のグラフ
電流iの初期値及び最終値は次の2式となるので、その波形は第5図となる。
第5図 RL直列回路を流れる電流
iは とおけば、 の大きさによって第6図のような流れ方をする。
第6図 RL直列回路に流れる電流の時間的変化
いま、iの接線こう配は、
[注]
であり、t=0での接線こう配値は、
となるので、第6図でイ点に至る時間をTとすれば、
の関係にあり、T は次式となる。
ここで、T はiの時間的変化の程度を表す指標となるので、これを時定数と名付ける。
第7図(1)のようにRC直列回路で、t=0のときスイッチSを閉じて回路に直流電圧を印加したとき、回路に流れる電流を求めてみよう。
ただし、CにはS投入前、電荷はなかったものとする。
第7図 RC直列回路(1)と回路各部の電圧、電流(2)
第7図(2)のように回路各部の電圧、電流の方向を定めると、次式の電圧方程式が成立する。
上式をラプラス変換すると、
となり、この式を電流のs関数I(s)について解くと、
となる。この式を次のようにラプラス逆変換すると、電流のt関数iが求まる。
この結果、電流iのグラフは第8図となる。
第8図 RC直列回路を流れる電流
また、t=0 での接線こう配値は、
となるので、第9図で最終値のイ点に至る時間をT とすれば、下式が成立する。
上式より時定数T は、
となる。
第9図 時定数
第10図(1)のようにRとCからなる回路で、t=0でスイッチSを開いたとき、回路に流れる電流(放電電流)を求めてみよう。
第10図 RC放電回路(1)と回路各部の電圧、電流(2)
第10図(2)のように回路各部の電圧と電流の正方向を定めると、回路の電圧方程式は次式となる。
上式をラプラス変換すれば、
上式をラプラス逆変換すれば、
第11図 RC放電回路を流れる電流
(1) ラプラス変換計算法の計算手順を理解し、実際の問題に対応できる応用力を養う。
[計算手順] ① 電圧方程式 ② ラプラス変換(ts変換) ③ s回路計算 ④ ラプラス逆変換(st変換) の4ステップ。
(2) 電気工学で使用頻度の高い時間関数(主要関数)について、「t関数からs関数に変換する」あるいは「s関数からt関数に変換する」という計算の方法に慣れる(付表1)。
(3) ラプラス変換に関する諸法則(基本法則)(付表2)の応用法を理解・実践する。
(4) 逆変換のポイントである「部分分数分解」が間違いなくできるように習熟する。
(巻末の参考にそのほかの分数形態に対応する分解法をあげておいた)
付表1 主要関数のラプラス変換表 付表2 ラプラス変換の性質(基本法則)
参考 その他のs関数の部分分数分解
***** 部分分数分解(2)**************************************
分母が3因数の場合
***** 部分分数分解(3)**************************************
分母にsの2乗を含む2因数の場合
***** 部分分数分解(4)**************************************
分母がsの2乗を含む3因数の場合