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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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据置蓄電池の劣化診断技術と長寿命化 旭化成EICソリューションズ(株) 電気技術部 大川 美彦

据置蓄電池は、良好な使用条件で、かつ良好な保守がなされた場合、実際には期待寿命の上限以上の期間使用された例もあるが、一般的には電池の使用条件は千差万別であり、さらには保守の良否も考え合わせると、期待寿命の範囲で新しい電池と交換される例が最も多いようである。ここでは蓄電池の劣化モード、劣化診断技術及び長寿命化について解説する。

[1]鉛蓄電池の期待寿命

 第1表の「UPS用鉛蓄電池の概要」にその期待寿命を示す。電池容量の低下度合いは寿命期に近づくと徐々に早くなり、電池容量が80%まで低下した鉛蓄電池では解体調査の結果、正極板の劣化も顕著となって格子はほとんど原形をとどめないボロボロになっているケースが多い。このことから定格容量の80%まで容量が低下した時点を電池寿命期と定めている。しかし、その寿命も画一的に決められるものではなく、その使用条件、保守条件に大きな影響を受けるため、適切な保守と電池の寿命期の判断が必要不可欠となる。

[2]鉛蓄電池の劣化モード

 第1図に「鉛蓄電池の基本劣化パターン」を、第2図に「MSE形鉛蓄電池の劣化モード」を示す。正極活物質の軟化は、活物質粒子間の結合力の低下によるもので、サイクル使用(特に深い放電)時の劣化モードの一つである。格子の腐食は過充電や高温で促進され、浮動充電状態では格子の腐食で電池の寿命が制限されることが多い。Pb-Ca系格子では格子の伸び、それに起因する短絡により性能が低下することがある。一方、負極板については、リグニンの分解とサルフェーションが代表的な劣化モードである。前者は過充電や高温によって加速されるのに対し、後者は不完全充電状態で使用した場合に起こる。このほかにシュリンク(活物質の収縮)と呼ばれる劣化モードもある。

(a) 鉛部品の劣化

 電解液にある鉛部品、特に正極板(グリッド、格子体)及び極柱は使用中にその表面が酸化され徐々にやせていく。その為内部抵抗が増加すると同時に物理的強度も低下する。また、付随現象として正極板(群)の酸化を伴い、その寸法が増大し極板(群)の伸びとなって現れる。

(b) 活物質の脱落

 正極活物質も徐々に脱落し電池容量を低下させたり、脱落活物質が負極板に付着しスポンジ状鉛となり成長しセパレータを超えた場合、あるいは脱落した活物質が電槽の底にたまりその量が著しく増加した場合は内部短絡する可能性がある。

(c) アンチモン(sb)の析出

 極板の格子及び鉛部品には、物理的強度及び耐食性を増加させるため、アンチモン合金が使用される。このアンチモンは(a)項の腐食に伴い電解液中に溶出し、さらに負極板表面に付着していく性質がある。この結果、① 自己放電の増加、② 充電時の電圧低下、③ 充電効率の低下する現象をもたらす。

(d) その他部品の劣化

 (a)項による劣化で寸法の増大が更に進むと、この伸びは電槽・ふたの持ち上がりとなってコンパウンドに亀裂が入ったり電槽から剥がれて隙間が生じ電池の気密性が損なわれ、電解液が電池外部ににじみ出し、外部部品(端子・接続かんなど)にも損傷を与える。

[3]劣化診断技術

 蓄電池の内部が見えない制御弁式鉛蓄電池が普及し、保守・点検作業の省力化及び蓄電池更新の適正時期の判断を行うために、状態検知や劣化診断技術が検討されてきた。

 蓄電池は、[2]項で述べたように使用途上において各部品が徐々に劣化し、その性能が低下し、初期値の80%まで低下した時点を「寿命」としている。このことから、蓄電池の劣化度合いを診断する方法としては、蓄電池の容量試験を実施することとなる。しかし、蓄電池は非常用電源設備として常に負荷に接続された状態で使用されており、蓄電池の一部もしくは全数を放電して容量試験を行うことは、通常の場合極めて困難である。そこで、次の3ステップで劣化・寿命診断を実施していく。

(a) 一次診断

 ・定期点検により異常の有無を見る。

(b) 二次診断

 ・簡易診断器などを用いて、蓄電池の容量を間接的に診断する。

 シール形鉛蓄電池の内部抵抗値は寿命期には急激に増加する特徴がある。この特徴を利用して浮動充電中の蓄電池の内部抵抗を測定し初期値と対比した増加の傾向と度合いから蓄電池の劣化状況を診断し寿命期予測に役立てるもの。この診断は全セル実施することを原則とし、診断の結果、「注意」もしくは「寿命」と診断されるセルの割合や程度によって、全体の更新の要否を検討する。

(c) 三次診断

 ・容量試験器を用いて、通常の電池容量試験を実施する。

 容量試験は原則として次の手順・方法で行う。

 ① 一次診断、もしくは二次診断の結果を参考にして抜取り検査とする。

 ② 抜取り電池を電池群から外し、容量試験器に接続して容量試験を行う。

 ③ 容量試験の条件は原則としてJIS Cで定める容量試験に準じて行う。

 ④ 抜取り電池は容量試験が終わった後、回復充電を行ってから群に戻す。

 容量試験には以上のように多くの工数を必要とするため、当然ながら診断のための費用が必要となり、したがって実際の運用面を考えたとき、ある程度の設備規模以上でないとコストを掛けた容量試験を行うことの利点が生じない。

 一方、近年、蓄電池の劣化診断技術は進歩しており、「瞬時充放電による電圧変化を検知」する技術が実用化されている。一例を第3図に示すが、その特徴は、

 ① 負荷設備運用中に測定可能

 ② 実負荷に近い定電流放電(放電電流はマイコン制御で任意選択・放電時間は500ms)

 ③ 全数検査のため単電池の良否判定が可能

 ④ 測定データの自動メモリ化

[4]蓄電池の長寿命化

 蓄電池は使用していくと劣化が進み、充電しても容量の回復がみられなく、寿命に至る。蓄電池の寿命を伸ばすためには、劣化モードなどを考慮して、次のような技術検討がなされている。

 ① 極板の耐久力の向上(格子、活物質の改良)

 ② 正極板の伸び対策(正極板と電槽間隔の適正化)

 ③ 電解液比重の適正化(高比重ほど短寿命)

 ④ エレメントの圧迫度(高圧迫化技術)

 ⑤ 電槽厚さ・材質(水蒸気透過量の低減)

 参考文献

 ・OHM、2002年8月号、UPS用蓄電池の技術動向と保守