系統連系技術要件は、昭和61年8月に策定され、以後、分散型電源の系統連系に関する検討の都度、見直しされてきました。
現在の系統連系技術要件は、平成10年3月に改訂されたもので、当初に比較するとかなり緩和されています(分散電源が電力系統に入りやすくなっています)。
一方で、最近の研究発表や説明会等では、分散型電源の系統連系や電力の自由化が更に進んだ場合を想定した、「系統連系上の課題やその対策などの幅広い技術」に関するものが多く、かなり複雑・高度なものになっています。
このため、分散型電源に関する技術検討に当たっては、系統連系技術要件の検討経緯、最近の話題や課題、今後の動向等を総合的に把握しておくことが大事になっていると思います。
ここでは、以上のようなことを念頭に、質問に沿って概要をお答えいたします。
① 制定当初の経緯(昭和61年8月)
- コージェネレーション等の自家用発電設備を電力系統に連系するため、「系統連系技術要件ガイドライン」として制定されました。
(資源エネルギー庁公益事業部長から各通商産業局長および各一般電気事業者に対して通達) - この技術要件は、以下の基本的な考え方を念頭にして検討されました。
- コ-ジェネレーションの連系によって、供給信頼度(停電等)、電力品質(電圧、周波数、力率等)の面で電気需要家に悪影響を及ぼさないこと
- コ-ジェネレーションの連系によって、公衆及び作業者の安全確保と、電力設備あるいは他の需要家電力設備の保全に悪影響が生じないこと
- 主な内容は、以下のとおりです。
- 連系の区分(例えば、低圧配電線では原則として50kW未満、高圧配電線では原則として2000kW未満等、各系統毎に定められている)
- 各系統毎(低圧、高圧一般、高圧専用、スポットネットワーク、特高等)の保護協調、電圧変動、短絡容量、力率、高調波、連絡体制等を整備
- 主な技術用語は、以下のとおり
- 逆潮流:需要家構内から電力系統側へ向かう電力潮流(逆潮流がある場合、単独運転の可能性があり、連系時の技術要件は厳しくなる)
- 単独運転:電力系統から切り離され、分散型電源が近傍の一般負荷等を持って単独運転している状態(技術要件では、電気の品質や安全面から単独運転をしないようにしているが、現実にはいろいろな問題がある)
- 線路無電圧確認装置:電力会社の変電所側で、線路電圧を確認する装置
- 二系列装置:例えば、保護リレーが2つの系列になっている場合をいう (1系列目のリレーが不良でも、2系列目のリレーで保護できる)
- 転送遮断装置:変電所遮断機の遮断信号を伝送し、分散型電源の受電遮断機を遮断させる装置(単独運転防止に有効)
- バンク容量:配電用変電所等の1変圧器の容量
(分散型電源量の目安になる。例えば分散電源が多くなると、バンク潮流が逆向きになり(バンク逆向き潮流)、万一の場合に単独系統の範囲がバンク単位になる)
② 平成2年~5年の小刻みな改訂
- 燃料電池をはじめとする直流発電設備であって、逆返還装置を用いた分散型電源を高圧以上の系統に連系する場合について整備(平成2年6月)
- 太陽電池等の小規模な新エネルギー型の分散電源を、低圧の商用系統に連系する場合について整備(平成3年3月)
- スポットネットワーク配電線と連系する場合について整備(平成3年10月)
③ 平成7年10月の大幅改訂
31年ぶりの電気事業法の大改正により、電力システムへの新規事業者の参入拡大が見込まれることに伴い、全面的に改訂されました。特に、大規模な入札電源が入ってくる可能性があることから、幅広い検討・見直しが行われました。
- 独立発電事業者(IPP)等の新規参入者に対する系統連系対応
- 要件の透明性の確保
- 技術開発を踏まえた要件の適正化
- 系統連系実績等を踏まえた緩和などの要件見なおし
④ 平成10年3月の改訂
規制緩和要望が出されたことなどを受けて、比較的大きな改訂となりました。
- 交流発電設備の低圧商用系統への連系要件の整備
- 太陽光、風力発電設備等の技術要件の緩和
- 単独運転検出機能の技術評価、その適用条件等の要件整備
① 高圧連系容量について
- 現在では(平成10年3月以降)、「配電用変電所のバンクにおいて、常に逆潮流が生じないこと」と定められている。
- 配電用変電所のバンク単位で逆潮流が発生すると、電圧管理や保護協調面で問題が生じる惧れがある他、バンク単位の単独運転の可能性もある。
- このため、当初はバンク容量の10~20%以下とする等、高圧連系容量を極力抑える表現であったが、要望に沿って緩和方向にある。
② 単独運転防止について
- 特別高圧系統では、現在(平成7年10月以降)、単独運転防止策を「周波数低下リレー(UFR)」と「周波数上昇リレー(OFR)」で 行う事が多くなっている。
- その前は転送遮断装置が用いられていたが、この方式では「大規模な電源に対して複雑になり、実用上限界がある」ことから、平成7年10月の時点で選択できるようになった。即ち、実質上UFR、OFR方式になった。
- このことは、周波数が所定の範囲にある場合(発電力と負荷がある程度均衡している場合)は、単独運転になることを暗黙の内に認めていることになる(単独時の周波数調整が可能であれば、停電防止の面から、むしろ望ましいとの見方もある)。
- また、高圧系統等でも緩和傾向にあり、現在(平成5年3月以降)、一般配電系統ではほとんどの場合、単独運転防止策を「単独運転検出装置」により行っている(ガイドライン上は、転送遮断方式との選択になっている)。
- この「単独運転検出装置」は、能動型と受動型に大別されるが、いずれも分散電源が多くなると機能面で課題があると言われている。
- このため、今後の実績や技術の進歩を反映していくことになっている。
(現実問題としては、分散電源の種類や発電量が多くなり、万一単独運転になった場合、単独運転検出装置が不動作になる惧れがある(すなわち、単独運転が継続する惧れがある)
③ その他、地絡事故時の保護リレー面の緩和等(詳細は省略)
説明会や文献等では、以下のような課題が報告されています。
- 電圧変動に関する課題:分散電源が多くなるほど顕著になります。
- 単独運転継続による電気の品質面の課題:分散電源が多くなると単独運転検出装置の機能が充分かどうか定かでない面があります。すなわち、単独運転が継続することによる電気の品質面での問題が考えられます。
(第1図に単独運転の形態例を示す) - 安全に関する課題:分散型電源の増大によって、各種形態の単独運転が想定されるので、安全に関する問題が増大していく惧れがあります。
(安全については、単独運転以外でも、いろいろなケースが考えられる) - その他、ケースによっては短絡電流の増大、周波数変動、保護リレーの問題、高調波、電圧フリッカ、等についても注意する必要があります。
① 配電系統を有効に活用する検討・動き
- 分散型電源が一層増大することを念頭に、配電系統をループ運用する方法の研究が進み、最近では具体的な装置の試験も一部で始まっています。
- ループ運用のための装置は、いろいろな機能が求められるため「交流・直流変換器による装置」が試験されています。また、新しい制御装置に関するものも概要が報告されています。
- 今後、コストや装置の信頼性等を含め、実用的な検討が進むものと思います。
② 風力発電の系統連系技術要件の動き(例)
- 風力発電の普及率が大きいヨーロッパのある国では、セキュリティーの面から、次のような系統連系に関する要件が定められているようです。
- 電圧低下時にも極力連系を維持する
(例えば、80~100%の系統電圧に対して運転を維持する等) - 周波数が所定の範囲では連系維持し、周波数上昇時は出力を制御する。
(例えば、所定の範囲(47.5~51.5Hz)、上昇時(50.25~51.5)等)
- 電圧低下時にも極力連系を維持する
- 今後、我が国でも風力発電機等の連系が多くなった場合、上記のような系統 連系要件について、検討する可能性が考えられます。
③ その他の動き
その他、次のような検討・調査が進められており、新たな課題や解決方法等の動きがあると思います。この場合、コスト面の検討・分担も重要になります。- 分散電源が増大した場合の各種シミュレーション解析の推進
- いろいろな分散型電源が接続されている場合の、単独運転検出装置の機能
- 逆潮流時の電圧変動を調整する装置
- 記録装置の設置と事故時の分析
- その他、保護リレー、周波数変動、高調波、電圧フリッカ、直流流出等に関する検討・調査
- 分散型電源の系統連系技術要件について、主な変遷、現状と主な課題、今後の動き、等を取り纏めましたが、紙面の都合上一部は簡単な説明になりました。
- 最初のガイドラインが策定されて18年になりますが、分散型電源の増大に伴い今後とも、連系要件の緩和に関する新たな要望、系統上の安全や品質に関する課題の発生、これらに関する調査・研究、等が進むものと思います。
(実際問題としては、分散電源が多くなるこれからが大切な時期になります) - 技術的な課題の検討は、現時点では、シミュレーション解析によるものが多く、常時や事故時の実運用上の実績報告は少ないようです。
- 以上から、分散型電源の系統連系技術要件とこれに伴う技術面の動きについては、今後とも注目していく必要があります。
以上
参考系統・発電方式 | 逆潮流の有無 | ||
なし | あり | ||
特別高圧送電線 | 回転機 | 昭和61年8月作成 | |
直流発電設備 | 平成 2 年6月作成 | ||
スポットネット ワーク配電線 |
回転機 | 平成3年10月作成 | ---- |
直流発電設備 | (方式上逆潮流できない) | ||
高圧専用線 | 回転機 | 昭和61年8月作成 | |
直流発電設備 | 平成 2 年6月作成 | ||
高圧一般配電線 | 回転機 | 昭和61年8月作成 | 平成 5 年3月作成 |
直流発電設備 | 平成 2 年6月作成 | ||
低圧配電線 | 回転機 | 平成10年3月作成 | ---- |
直流発電設備 | 平成 3 年3月作成 | 平成 5 年3月作成 |
直流発電設備:逆変換装置用いた発電設備