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既存講座(電気機器)「変圧器の並行運転と台数制御について」では、変圧器の並行運転の際に必要になる条件、及び負荷が変化する場合に効率的な変圧器の台数制御方法について詳細に解説されている。また、(電気機器)「変圧器の銘板に学ぶ」では、銘板記載事項、及びその中の周波数が特性に与える影響、さらに三相変圧器の結線の組合せと位相変位の関係の基本事項について解説されている。
本講座では、三相変圧器の並行運転に関係する位相変位について、端子記号の標準と巻線の接続方法により位相変位が変わることを、一次・二次電圧ベクトル図や接続図を用いて解説する。
変圧器の極性
単相変圧器の極性には、第1図に示す減極性と第2図に示す加極性がある。第3図に示すように高圧側と低圧側の対向する片端子同士(V と v)を接続し、高圧側 U−V 間に電圧を印加するとき、電圧計 V0 の読みが V1−V2 になった場合は減極性、V1+V2 になった場合は加極性である。
単相変圧器の一次側端子記号を、端子から見て右から左へU、Vとする。減極性では、二次側の電圧 \(\dot{E}_2\) の向きは、第1図に示すように一次側の電圧 \(\dot{E}_1\) の向きと同じになる。そこで、二次側端子記号を端子側から見て左から右へu、vとする。一方、加極性では、減極性に対し二次側の電圧は逆向きで、端子記号は逆になる。このように、変圧器の極性は、巻線の巻き方と端子記号によって変わる。また、極性を巻線の巻き方を描かなくても解るように、巻線の肩にドット(●印)を付けて、一次側と二次側の電圧の向きを表し、一次側で●印側から電流が流れ込んだ時、二次側では●印側から電流が流れ出ることを示している。
したがって、減極性の場合には、第1図に示すように、一次側と二次側の対向する端子が同じ極性になり、加極性の場合には、第2図に示すように、対向する端子が逆極性になる。我が国では、変圧器巻線一次・二次混触時に、より安全な減極性が標準に定められている。
第1図 減極性
第2図 加極性
第3図 極性試験
三相変圧器の結線方式と位相変位(角変位)
三相変圧器、または単相変圧器3台を結線した変圧器では、一次側及び二次側をΔ結線又はY結線とすることができるので、第1表に示すようにΔ−Δ、Y−Y、Δ−Y、およびY−Δの4種類の結線の組合せができる。本項以降、特に断らない限り変圧器は減極性とする。また、各結線方式として、それぞれJIS記載の接続記号Dd0、Yy0、Dy11、Yd1(一次側Δ⇒D、Y⇒Y、二次側Δ⇒d、Y⇒y、変位角0°⇒数値0、+30°⇒1、−30°⇒11)で表される第1表の(a)図、(b)図、(c)図、(d)図を重点的に解説する。
三相変圧器の端子記号は、第1表の接続図の欄に示すように、一次端子をU、V、W、二次端子をu、v、w とし、一次・二次の中性点端子をO、o とする。一次側の位相順序(相順)をU、V、W とし、二次側も u、v、w とする。実際の機器においては、一次端子は端子側から見て右から左へU、V、W、O とし、二次端子は端子側から見て左から右へu、v、w、o としている。同表は、各結線の位相変位の大きさを示したものである。このうち、Δ−Δ結線((a)図)及びY−Y結線((b)図)では、一次側電圧と二次側電圧は同相になる。ところが、Δ−Y結線((c)図)では、二次側電圧は一次側電圧より位相が30°進み、Y−Δ結線((d)図)では、位相が30°遅れる。(c)図では、一次Δの各相巻線のV3とU1、V1とU2、V2とU3を接続し、それぞれの接続点(●印)から端子を引出す接続(接続タイプA)としている。(d)図の場合も、二次Δの各相巻線について、端子記号のアルファベットを小文字のu、v、wに変えるだけで同様の結線および端子の引出し方法としている。ここで、一次電圧を位相基準とするときの二次電圧の遅れ位相角を位相変位と定義すると、Δ−Y結線((c)図)の位相変位は−30°、Y−Δ結線((d)図)の位相変位は+30°である。
また、第1表では二次及び一次の電圧ベクトルの各中性点から二次側u及び一次側Uに向かうベクトル(Δの場合は破線で示す)の位相差で位相変位を表現している。例えば、Δ−Y結線((c)図)の場合には、一次Δ結線の端子Uの仮想中性点Oに対する電圧 \(\dot{E}_{UO}\)(破線ベクトル)を基準として二次Y結線のuo間の電圧ベクトル \(\dot{E}_{uo}\) は30°進んでいる(位相変位−30°)。
一方、同じ結線方式であっても、巻線の接続順を逆にすると、位相変位が逆になる。第1表のΔ−Y結線の(c)'図は、一次Δの各相巻線のU1とV2、U2とV3、U3とV1を接続(接続タイプB)した場合であるが、位相変位は(c)図とは逆になる。(d)'図と(d)図の関係も同様である。これは、Δ結線の巻線の接続順を変えることで位相変位が変わることを示している。
この関係をΔ−Y結線を例に、ベクトル図で確認する。第1表(c)図のΔ−Y結線の各相巻線の接続図及び一次・二次の電圧ベクトル図を第4図に示す。同じ相の一次巻線と二次巻線の電圧ベクトルは同相なので並行に描いている。第4図(b)の電圧ベクトル図において、一次側線間電圧 \(\dot{V}_{UV}\) を基準として二次側線間電圧 \(\dot{V}_{uv}\) は、位相が30°進んでいる。したがって、位相変位は−30°となる。また、一次側相電圧 \(\dot{E}_{UO}\) を破線ベクトルで示すが、この \(\dot{E}_{UO}\) を基準として二次側相電圧 \(\dot{E}_{uo}\) は、位相が30°進んでいるので位相変位は−30°となる。第1表(c)図のΔ−Y結線におけるΔ結線の中性点OとUを結んだ破線ベクトルは、この \(\dot{E}_{UO}\) を表示したものである。なお、第4図(b)に破線で示す一次側の三角形の電圧ベクトルは、第1表のΔ結線の電圧ベクトルに相当するものである。
第4図 Δ-Y結線(a)
第4図 Δ-Y結線(b)
三相変圧器の並行運転
第2表に並行運転が可能な結線と不可能な結線の代表的な組合せを示す。第2表において、①、②、③は互いの位相変位は0°、④は互いに位相変位は+30°、⑥は−30°でそれぞれ同じ値であり、並行運転が可能である。⑧、⑨は位相変位が+30°と0°、⑩、⑪は−30°と0°、⑫は+30°と−30°で位相変位が異なり並行運転が不可能である。
また、⑤に示すY−ΔとΔ−Yでは、2.項に示した第1表(c)図と(d)'図(接続タイプB)のように位相変位が同じもの同士であれば、並行運転が可能である。⑦に示すΔ−Yの(c)'図(接続タイプB)とY−Δの(d)図でも同様である。
なお、他にも第1表の(c)'図同士や(d)'図同士など、並行運転が可能な組合せがあるが、割愛している。
単巻変圧器の三相結線
単巻変圧器の三相接続としては、Y結線、Δ結線、辺延長Δ結線、V結線がある。ここでは、配電線の昇圧器として用いられることがある辺延長Δ結線の位相変位を解説する。第5図(a)、(b)、(c)に辺延長Δ結線の巻線接続図、各相巻線構成図、及び電圧ベクトル図を示す。第5図(c)において、\(\dot{V}_{UV}\) に対して \(\dot{V}_{uv}\) は、位相がθ進んでいるので、位相変位は−θとなる。
ここで、一次側の線間電圧を |\(\dot{V}_{UV}\)| = |\(\dot{V}_{VW}\)| = |\(\dot{V}_{WU}\)| = V、二次側に相当する延長電圧を |\(\dot{e}_{UV}\)| = |\(\dot{e}_{VW}\)| = |\(\dot{e}_{WU}\)| = e とすると、位相変位は \(-\theta = -\tan^{-1}\frac{0.866e}{V+1.5e}\) で表され、V に対する e の大きさにより変化するという特徴がある。ここでθは、第5図(b)の各相巻線構成図より得られる、
Vuv=\(\sqrt{\{(V_{UV}+e_{UV})+e_{UV}\cos60°\}^2+(e_{UV}\sin60°)^2}\)
=\(\sqrt{\{(V+e)+e\cos60°\}^2+(e\sin60°)^2}\)
=\(\sqrt{(V+1.5e)^2+(0.866e)^2}\)
から求めることができる。
千鳥結線
千鳥結線は、二次巻線をY結線とし、各巻線を2等分して異なる相の巻線をそれぞれ逆極性に直列接続したものである。第6図(a)、(b)、(c)に巻線接続図、各相巻線構成図、及び一次・二次の電圧ベクトル図を示す。第6図(c)において、一次側 \(\dot{V}_{UV}\) に対して二次側 \(\dot{V}_{uv}\) は、位相が30°進んでいるので、位相変位は−30°となる。この構成により、各巻線に同相の零相電流または第3調波の誘導起電力が生じた場合には、各枝で互いに打ち消し合って外部にその影響が表れないという特徴がある。
第5図 辺延長Δ結線 (a)
第5図 辺延長Δ結線 (b)
第5図 辺延長Δ結線 (c)
この千鳥結線の応用例としては、第7図に示す接地変圧器がある。この結線で中性点O を接地した場合、上述のように、接地電流(零相電流)は第7図(a)の矢印のように流れ、各々の鉄心脚で打ち消し合うので接地電流が流れやすくなり、零相インピーダンスが小さくなるので、Y-Δ結線変圧器の代わりにY-千鳥結線変圧器を用いて中性点を取り出すことができる。Δ結線回路から新たに中性点を取り出す方法として、一次巻線のみの千鳥結線変圧器が用いられる。第7図(b)に電圧ベクトル図を示す。
第6図 千鳥結線 (a)
第6図 千鳥結線 (b)
第6図 千鳥結線 (c)
第7図 接地変圧器 (a)
第7図 接地変圧器 (b)
【参考】
我が国では、変圧器は減極性を標準としているが、万一、加極性変圧器が使用された場合には、位相変位が減極性とは異なってくるので、混在すると、並行運転できなくなる問題が生じる。また、二次側巻線の誤接続により逆相順となることもある。これらを防ぐために、使用する変圧器の極性や巻線接続の確認を確実に行う必要がある。
加極性の場合の位相変位
加極性変圧器を用いた場合には、第1表と同じ結線であっても、第3表に示すように、位相変位が減極性とは異なってくる。Δ―Δ接続((e)図)及びY-Y接続((f)図)の場合には、逆極性(位相変位+180°)となる。Δ-Y接続((g)図)及びY-Δ接続((h)図)の場合は、逆極性を基準にして-30°及び+30となる。第3表の(e)~(h)は、接続タイプAで接続した例を示している。
また、減極性変圧器を用いた場合でも、二次巻線を誤接続すると、第8図に示すように、加極性に相当する位相変位になることがある。
ここで、万が一減極性変圧器と加極性変圧器を並行運転すると、第9図に示すように、実線で示すu相ループにおいて双方の二次電圧が同相になって加わり、大きな循環電流が流れる。ただし、第9図に示す加極性変圧器は、タイプBの接続(二次Δ巻線のu1とv2、u2とv3、u3とv1を接続)している。一方、加極性変圧器を、第3表(e)図のようにタイプAで接続(二次Δ巻線のv3とu1、v1とu2、v2とu3を接続)する場合には、第10図に示すように、破線で示すu相ループにおいて双方の二次電圧は反対向きになるので、循環電流は流れない。
第8図 誤接続により加極性変圧器の位相変位と同じになる例 (a)
第8図 誤接続により加極性変圧器の位相変位と同じになる例 (b)
第9図 並行運転で循環電流が流れる例
第10図 並行運転で循環電流が流れない例
三相変圧器の逆相順
三相変圧器の相順は通常uvwであるが、二次端子の誤表示や二次巻線の誤接続、加極性巻線の誤適用などで相順uwvとなることがある。第4表の(i)図は、第1表の(a)図のΔ−Δ結線の二次端子のu、v、wの表示をu、w、vに誤表示した場合を示す。(j)図は、第1表の(a)図の二次側で、v2からu3に接続した端子をwとするべきところを、v2からv3に接続しwとした場合を示す。また、(k)図では、3台の単相変圧器を使用しΔ−Y結線で運転しているとき、例えばw相1台を故障で交換する際に加極性変圧器を誤使用した場合を示す。
ここで、相順uwvの変圧器に回転機負荷を接続する場合、回転機が逆回転する問題が発生する(関連講座:(電気機器)「誘導機の巻線配置と回転磁界」参照)。また、相順uvwと相順uwvの変圧器が並列接続される場合には、変圧器間に循環電流が流れる(関連講座:(電気理論)「三相交流回路1(対称三相交流の相順))参照」)。
例題
【問題1】
第11図~13図は、同じ定格の単相変圧器3台を用いた三相の変圧器であり、第14図は同じ定格の変圧器2台を用いたV結線三相変圧器である。各図の一次側電圧に対する二次側電圧の位相変位(角変位)の値の組合せとして、正しいものを第5表の(1)~(5)のうちから1つ選べ。ただし、各図において一次電圧の相順はU、V、Wとする。(平成29年度電験3種機械科目の問題)
第5表
| 第11図 | 第12図 | 第13図 | 第14図 | |
|---|---|---|---|---|
| (1) | 進み30° | 0 | 遅れ30° | 0 |
| (2) | 遅れ30° | 0 | 進み30° | 進み30° |
| (3) | 遅れ30° | 0 | 進み30° | 0 |
| (4) | 進み30° | 遅れ30° | 遅れ30° | 遅れ30° |
| (5) | 遅れ30° | 進み30° | 進み30° | 進み30° |
【解答】 (1)
設問の第11図~第14図は、Δ−Y結線(第1表(c)に相当)、Δ−Δ結線(第1表(a)に相当)、Y−Δ結線(第1表(d)に相当)、およびV−V結線を示している。第15図から第18図に、各結線方式の電圧ベクトル図及び、二次側電圧の一次側電圧に対する位相変位を示す。第15図のΔ−Y結線の位相変位は−30°、または一次側相電圧 \(\dot{E}_{UO}\) を基準として二次側相電圧 \(\dot{E}_{uo}\) は30°進みとなる。第17図のY−Δ結線の位相変位は+30°、または \(\dot{E}_{UO}\) を基準として \(\dot{E}_{uo}\) は30°遅れとなる。なお、第16図のΔ−Δ結線や第18図のV−V結線では、一次側と二次側の結線方式が同じなので、二次側電圧の一次側電圧に対する位相変位は0°である。

