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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電食のはなし 片岡技術士事務所代表 片岡喜久雄 

一般の金属材料は自然環境の中で使用中に腐食するが、これは金属が精錬前の鉱石(酸化物)に戻ろうとする作用とも言え、特に地中に埋設された金属体はこの作用を強く受けます。 ここでは、直流鉄道による電食の現象から、その防止対策までを解説します。

埋設金属体の腐食

 一般の金属材料は自然環境の中で使用中に腐食するが、これは金属が精錬前の鉱石(酸化物)に戻ろうとする作用とも言え、特に地中に埋設された金属体はこの作用を強く受けます。
 いま、第1図に示すように3枚の表面を磨いた鉄板を地中に埋めて経過をみると、Aは全体的に錆びますがその程度はBに比べて少ない。これは自然腐食といい、鉄板表面での微小な異金属と土壌との接触による微小局部電池作用などの化学的な腐食と、バクテリアによるものであります。

 BはAよりも激しく腐食します。これは外部に直流電源があり、流入した電流が土壌中に流出するときにイオン化した鉄が溶出するからです。
 このように外部の直流電源によって金属がイオン化して溶出する腐食を電食といいます。
 Cは腐食せず、そのままです。これはCが電気防食を受けている状態を示しているもので、埋設金属体の電気防食としての諸対策は全てこの原理によっています。


電食による腐食量

 電食は電気分解の一種であり、埋設金属体の腐食量はファラデーの電解の法則によって求められる。したがって腐食量はその金属から流出する電気量(クーロン[C]=電流[A]×時間[s])に比例します。
 第1表は電食被害の対象となりやすい主要金属の電気化学等量と1mAの電流が1年間継続して流れた場合の腐食量です。

    

 実際の腐食量は金属の表面でいろいろな化学反応が起こるため、ファラデーの法則から算出した腐食量より少ないことが多いが、電力ケーブルの電食では穿孔状の腐食による周囲の欠落によって算出量より多くなる場合もあります。
 また、管路式布設ケーブルで鉄管内に引き入れた非防食鉛被ケーブルは水場の電食地帯に布設したものでも、鉄管の遮蔽作用によって30年経過してから撤去しても腐食は全くみられなかった。反面、電食地帯のマンホールの溜水内に布設されたケーブルや接続部は腐食がはなはだしく、各種の対策が施されました。


直流電気鉄道による電食

 電食の原因になる直流電源として、地磁気と潮流の相互作用による起電力によって 海底ケーブルの鎧装が腐食した例もあります。しかし、電食原因の大きなものは直流電気鉄道のレールからの漏れ電流によるものです。
 鉄道のレールはある程度の接地抵抗をもっていますが、完全に絶縁されてはいないので一部の漏れ電流は地中を流れます。
 この場合、軌道と平行して管路やケーブルなどの金属体が埋設されていると、漏れ電流はこれに分流して電源変電所付近あるいは金属体の埋設ルートが軌道から平面的に離れていくような曲がり個所などで流出し、軌道へ還流します。
 このため、この付近一帯が電食を受けるおそれのある地帯になります。(第2図参照)

 直流電気鉄道では所要電流が大きく、電車線電圧1500V、15両編成の幹線電車では始動時最大電流は3000A程度にもなります。 このため、ごくわずかな割合の漏れ電流でもその絶対値は大きくなります。
 また、直流電気鉄道では電車線側を(+)極に、レール側を(-)極にしていますがこれも電食対策で、これを反対にすると第2図で、電車線、レール、埋設金属体それぞれの電流の向きが逆になり、電車の走行によって軌道の近辺全てが電食地帯になります。


電食防止対策

(1)防食層の形成

 塗装は金属体を大気から絶縁するとともに金属表面の局部電池作用による腐食も防止する最も基本的な方法であります、地中埋設管路などにも適用されますが、この場合は布設時に損傷を受ける機会が多いことから塗面は厚くし、数層にしたりします。
 電力ケーブルでは1950年代からクロロプレンに代表される人造ゴムや、塩化ビニルなどのプラスチックによる防食層が鉛被、アルミ被上に施されるようになり、電食対策は解決しました。しかし、パイプ型OFケーブルでは鋼管内に2MPa程度の高圧の絶縁油を充填していることもあり、エポキシ樹脂系で数層の強固な防食層を形成した上、さらに電気防食を併用しています。

(2)電気防食

① 流電陽極法

 防護対象金属体の付近の土壌中に、それよりも自然電位が低いマグネシュームなどを陽極として埋設し、両者を接続するもので異種金属間の電池作用により防食するものです。防食電流の測定のため、中間にターミナルボックスを置くこともあります。(第3図

 陽極は消耗するので適時補充が必要であり、バックフィルは消耗を均一にするためのものです。この方式は比較的小規模な電食や自然腐食対策に採用されます。

② 外部電源法

 土壌中に電極を設置し、これと防食する金属体との直流電源を接続し、電極から電流を流入させて防食するもので、防食電流を大きくできることからシートパイル護岸など大規模な埋設金属体の防食に適しています。
 電源は電圧タップ調整の半導体整流装置が使用されています。この方式では埋設金属体の対地電位が一定になるように自動制御されています。

③ 選択排流法

 直流電気鉄道からの電食対策として広く採用されているもので、埋設管路など防食対象物の対地電圧に対して、レールの対地電圧が低い場合にだけ埋設金属体などと レールを接続し、反対の場合は切り離すものです。
 これによって埋設管路などからの流出電流は土壌内に流れずに直接レール側に流れるため電食が防止されます。(第4図

 レールへの接続は信号回路への影響を避けるため、インピーダンスボンドの中点に接続します。図では極性継電器が使用されていますが、最近はほとんど半導体整流器が使われています。選択排流器の電流容量は30A〜600A程度です。  


技術基準による規制

 電気設備技術基準では電気鉄道の直流帰線及び電気防食施設について、他の工作物に電食作用による障害を及ぼすおそれがないよう施設することと定められています。 (第54条、第78条)。これを受けて電技解釈では詳細な施工方法が定められています。(第199条、第209条、第210条)。
 このうち主要なものを要約すれば次のとおりです。

  1. 電気防食回路の使用電圧は直流60V以下であること
  2. 陽極は深さ75㎝以上の地中に埋設するか、水中の人が容易に触れるおそれのない場所に設置すること
  3. 地表又は水中の任意の1m間の電位差は5Vを超えないこと
  4. 電気防食装置へ供給する電圧は低圧で、使用変圧器は絶縁変圧器、一次側に開閉器と遮断器を設け、D種接地工事を施した堅牢な金属性外箱に収めること
  5. レールが金属性管路と交差又は接近する場合は相互間隔を1m以上とするか、間に 不導体隔離物を設け、電流が両者間を地中1m以上を通過しなければ流通できないようにすること
  6. 帰線レールは負極性とし、土壌との間を砂利、枕木等で30cm以上離隔すること
  7. 帰線レールへの排流は強制排流器又は選択排流法により、排流回路は排流線と防護対象管および帰線との接続点以外は大地から絶縁すること