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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
ヒートポンプの原理と特徴 富士テクノサーベイ(株) 山崎 靖夫

ヒートポンプは自然界での熱の移動現象に逆らって、熱を低温部から高温部へ移動させる装置である。ヒートポンプの原理と特徴について解説するとともに、ヒートポンプの構造、ヒートポンプの動作原理、ヒートポンプの応用例を解説する。

1. ヒートポンプとは

移動する物質の運動速度は摩擦によって熱が発生し減速するが、摩擦熱を集めても運動は起こらない。また、水の中にインクを落とすと広がっていくが、自然にインクが集まることはない。このような現象を不可逆変化という。熱現象に関しても自然現象において熱は高温部から低温部へ移動するが、逆に低温部の熱が高温部へ移動する現象は起こらない。これは熱力学の第2法則によって説明されている。すなわち、熱力学の第2法則は不可逆変化を述べたもので、自然界で生ずる熱現象がどういう方向に進むかを表しているものである。

ヒートポンプは自然界での熱の移動現象に逆らって、熱を低温部から高温部へ移動させる装置である。ちょうど揚水ポンプが水を低所から高所へくみ上げることに似ている。熱をくみ上げるという意味からヒートポンプと呼ばれている。つまりヒートポンプは動力などのエネルギーを利用して、低温部の熱をくみ上げ、より高温の媒体に熱を移動させる装置のことをいう。ヒートポンプで熱を移動させるためには特定な物質を介して行われる。この物質のことを作動媒体または冷媒などという。作動媒体としてはフルオロカーボン類やアンモニアのような流体のほか、臭化リチウムなどの水溶液がある。

2. ヒートポンプの構造

ヒートポンプは第1図に示すように圧縮機、蒸発器、凝縮器、膨張弁の四つの基本機器から構成される。

第1図 ヒートポンプの原理第1図 ヒートポンプの原理

(1) 圧縮機

作動媒体を圧縮して昇温する機器で、大容量冷凍機用の遠心式圧縮機や家庭用冷蔵庫、カーエアコンなどに用いられる往復動圧縮機、ルームエアコンに用いられるロータリ圧縮機やスクロール圧縮機などがある。

(2) 熱交換器

温度差の異なる二つの気体または液体などの流体間で熱交換を行う装置で、蒸発器と凝縮器とに分けることができる。フィンチューブ式やU字管シェルチューブ式が主流である。

(3) 膨張弁

高圧になった媒質を膨張させて再び液化させる器具である。冷房または暖房だけに使われ、作動媒体の移動方向が単一方向だけの場合、膨張弁としては三方弁を用い、冷・暖房の両方の機能があり、作動媒体の移動が両方向になるヒートポンプの場合は四方弁を用いる。

(4) 作動媒体

熱エネルギーを移動するため蒸発・凝縮を繰り返す物質で、フロン、アンモニア、水、炭化水素などフルオロカーボン類、アンモニアのような流体や、臭化リチウムなどの水溶液などがあるが、主としてフロンが用いられる。

3. ヒートポンプの動作原理

ヒートポンプは次の動作を連続的に行うことで低温部の熱を高温部へ移動させる。

  1. 作動流体が低温部で蒸発、吸熱する。
  2. 圧縮機によって圧縮され、高温部で凝縮、放熱する。
  3. 膨張弁で減圧され降温する。

以降 1〜3 のサイクルを繰り返す。このサイクルにおける作動媒体の状態変化を表す方法とし

て、第2図に示すP-h線図(モリエル線図)が用いられる。この線図は縦軸に絶対圧力(P)、横軸にエンタルピー(h)をとったものである。作動媒体の状態をP-h線図上で見ていくと、1. 蒸発→2. 圧縮→3. 凝縮(液化)→4. 膨張→1. 蒸発、と連続的に状態を変化させていることが分かる。ヒートポンプはこの一連のサイクルを行うことで低温部から高温部へ熱を運ぶことが可能となる。それぞれの工程では次の現象が起こる。

  1. 蒸発工程:作動媒体が水や空気から熱を奪って蒸発し、低温・低圧のガスとなる。
  2. 圧縮工程:低圧の作動媒体ガスを圧縮し、圧力を高めて高温化する。
  3. 凝縮工程:高温・高圧となった作動媒体のガスを水や空気と熱交換することによって熱を外部へ放出する。このとき作動媒体は高圧下で凝縮されて液化する。
  4. 膨張工程:高圧の作動媒体は減圧されて元の低温・低圧の液体に戻る。

以後、再び 1 の蒸発工程に送られ、一連のサイクルを継続する。

このヒートポンプ動作サイクルにおいては燃料を使わないので、安全であり環境的にも優れ、設置・保守・運転が容易である。

第2図 ヒートポンプのP-h線図第2図 ヒートポンプのP-h線図

さて、蒸発工程で作動媒体に吸収される熱量をQ1Q1 、凝縮工程で作動媒体から放出される熱量をQ2Q2 、圧縮機からの入力エネルギーをWとすると、

formula01
formula01

の関係が成り立つ。ここで、次式で求められる値を成績係数(COP:Coefficient Of Performance)と定義する。ヒートポンプではCOPの値は常に1より大きい値となる。

formula02
formula02

ただし、T1:低温部の温度

     T2:高温部の温度

(2)式から高温部と低温部との温度差がないほど成績係数がよいことが分かる。逆に温度差が大きいと効率がよくないので、ヒートポンプは温度差の大きい用途には適しない。

ちなみに、ここでいう仕事Wは熱量に変換されるのではなく、熱を運ぶために用いられることに留意しなければならない。このためCOPは必ず1より大きくなり、一般的には3〜7程度であるが10以上とすることも可能となる。

4. ヒートポンプの応用例

ヒートポンプを応用した機器としては主として空調機器があげられる。これは作動媒体の流れる方向を逆にすることによって冷房・暖房の両方が可能であるという利便性があるほか、燃料を使わないため安全・衛生的であり、設置・保守・運転が容易なためである。また、冷暖房や給湯など比較的低温域の熱エネルギーを出力する場合、ヒートポンプは燃料の燃焼によって直接的に熱を得る方法と比べ大幅な省エネルギーが可能になる。このようなことから家庭用や事務所ビルなどへ適用されている。特に圧縮機用電動機である誘導電動機はインバータで駆動され、回転速度を制御することで最適な運転状態になるよう制御されている。

そのほか大容量ヒートポンプを用いた地域冷暖房システムへの適用例もあげられる。すなわち、大都市における地下変電所の排熱、清掃工場、地下鉄、工場などの排熱や河川水熱、下水処理水など熱エネルギーはこれまでほとんど利用されることがなく大気中に放散されていたが、地域冷暖房システムは河川水を夏季には水熱源ヒートポンプの冷却水として、冬季には熱源水として利用するものである。

また、給湯やプール加温などの業務用温水としての利用、食品製造における加温・冷却、木材の乾燥の利用などヒートポンプは幅広い分野で用いられている。

最近では深夜余剰電力を利用して夜間にヒートポンプを運転し、建物内部に設けた氷蓄熱槽に、氷を蓄え、低温部熱源として利用する蓄熱式空調システムが適用されている。このシステムは省エネルギーだけでなく電力の負荷平準化を図ることが可能である。