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前回解説した電流、トルクの速度特性のように誘導電動機は始動時(s=1)の電流は大きく、トルクは小さいことから、定格電圧を印加すると短絡電流に近い電流が流れて、巻線の損焼、更に大容量電動機では電源側の線路に大幅な電圧降下が生じ、周辺機器が悪影響を受けることになる。一方、トルクが小さく始動しにくいことから、始動するには始動電流は下げ、トルクは適度にする対策が必要になる。
(1)かご形誘導電動機
かご形誘導電動機は二次巻線が短絡状態なので、始動電流を抑制するため、始動時の電圧を低下させる調整方法、短絡電流を抑制するリアクトルを利用する方法などがある。
a.全電圧始動法
簡易な方法として、最初から定格電圧を印加する全電圧始動法がある。小容量機では始動電流の絶対値は小さく、電圧降下による周辺機器への悪影響も少ないので、最も簡易なこの始動法が用いられる。
b.Y-Δ始動法
第1図のように一次巻線を始動時はスイッチを下側(始動)に入れて第1図(b)のY結線とし、加速して定格回転数近くになったとき、スイッチを上側(運転)に切り替えて第1図(c)のΔ結線に変更する始動方法である。始動電流は線電流なので、第2図から各相の抵抗をR、線間電圧をVとすると、第2図(a)のY結線の線電流IYは(1)式となる。一方、第2図(b)からΔ結線の線電流IΔは(2)式となる。両式からIYとIΔの関係は(3)式となり、IYはIΔの となるので、始動時にY結線とすることによって定格電圧で始動電流を に抑制できる。
一方、始動トルクは一次巻線の相電圧の2乗に比例するので、 に低下する。
こうしたことから軽負荷で始動できる小型機に用いられる。
c.リアクトル始動法
第3図のように電源と電動機の一次巻線の間にスイッチとリアクトルを並列に接続し、始動時はスイッチを開いてリアクトルで始動電流を抑制し、回転数が定格速度に近づいたらスイッチを閉じてリアクトルを短絡して0とする始動法である。
d.始動補償器法
第4図(a)のように始動補償器として三相単巻変圧器を用いた始動法である。始動時はスイッチを左側(始動)に入れて第4図(b)のように電圧を変圧器のタップで定格電圧Vより低いvとして始動電流を制限し、回転数が定格速度近くになったらスイッチを右側(運転)に切り替えて始動補償器を外し全電圧とする。
(2)特殊かご形誘導電動機
二次巻線、すなわち回転子の導体構造を工夫して、全電圧始動で始動時の電流の抑制、トルク増大を実現する電動機で、深溝かご形と二重かご形の2種類がある。基本は比例推移の特性を活用し、操作なしで回転子導体の抵抗を始動時は大きく、速度が上昇したら小さくできるかご形電動機である。
a.深溝かご形
回転子に長方形の導体を第5図(a)に示す深い溝に収める構造である。導体に流れる電流の分布は直流は一様であるが、交流は表皮効果で表面に片寄るので、実効抵抗は大きくなる。この原理から始動時は導体の周波数f2=s f1はsが1に近いので高く、表皮効果の影響が大きいので、電流分布は第5図(b)のように表面に集中し、導体抵抗は大きくなり、比例推移で始動トルクは大きく、始動電流は抑制される。速度が上昇すると導体の周波数f2はsが0に近づくので低くなり、電流分布は第5図(c)のようにほぼ一様な分布になるので、導体抵抗は小さくなり、普通のかご形と同様になる。
b.二重かご形
回転子の導体を第6図(a)のように上下の二重構造にしたものである。導体の抵抗は上部を大きく下部を小さくする。第6図(b)のように始動時は周波数が高いので上部の導体に電流が集中して全体の抵抗が大きくなり、運転時は回転速度が上昇し周波数が低下するので、電流はほぼ一様な分布で下部の導体に大きな電流が流れて全体の抵抗は小さくなる。このことから動作は深溝かご形と同様となる。
(3)巻線形誘導電動機
巻線形誘導電動機はスリップリングを通して二次巻線に抵抗を接続できるので、第7図のように始動抵抗器を接続して始動時はハンドルを始動位置として最大抵抗からスタートし、回転数の上昇に合わせてハンドルを右に回して抵抗を減少させ、最後は0として二次巻線を短絡状態にする。これは二次抵抗始動法ともいわれ、比例推移の特性に基づき、始動抵抗Rをr2のm倍にして始動トルクを大きくし、定格電流に近い始動電流で始動させることができる。
誘導電動機の速度nは同期速度ns、滑りs、極数p、周波数fとすると(4)式となる。
(4)式から滑りs、極数p、周波数fを変えることで回転速度nを制御することができる。
(1)滑り制御
巻線形誘導電動機に用いられ制御方法で、二次巻線の始動抵抗器の抵抗を加減することにより、トルクの比例推移を活用してトルクに一致するように滑りsを加減して速度制御する。ただし、二次抵抗の増加は銅損の増加となるので効率が悪い。
(2)周波数制御
第8図のように電源側に周波数変換装置を用いて電動機の周波数fをf ´に調整して速度制御を行う。ただし、制御を安定させるには、電圧/周波数を一定にしなければならない。
周波数変換装置の主なものは、
① 可変電圧周波数変換電源装置:周波数fの交流を直流に変換(コンバータ:整流器)し、その直流をインバータで必要な周波数f ´の交流に変換する装置
② サイクロコンバータ:交流を直流変換せずに、直接周波数変換する交流直接変換装置である。ただし、周波数を上げることはできない。
(3)極数制御
固定子巻線の接続を直列から並列に切り替えるなどして極数pを変えて速度制御を行う。ただし、運転速度は連続的でなく、2段、3段など断続的な制御になる。
(4)二次励磁制御
第9図のように二次回路の末端に周波数sf、電圧eの電源を接続すると、二次電流I2は(5)式、トルクTは(6)式となる。
滑り制御ではeは0なので、Tが一定の場合はr2 /sが一定になるように速度を調整するためにsをm倍にするにはr2に始動抵抗器の抵抗を挿入してm倍する。この場合、等価回路は第10図となり、二次銅損はm倍に増加し、出力は銅損が増加した分量だけ減少する。
これに対して二次励磁制御方式では、始動抵抗器の抵抗は使わないので、二次回路の抵抗r2は一定で、二次銅損は増加せず効率的な制御方法である。
制御方法はトルク一定の速度制御をベースに、更に簡略化して定格速度周辺の制御を想定すると(6)式のr2 /s≫x2であるので、(7)式に簡略化できる。
一方、定格速度の滑りs0、電圧e=0とすると、トルクT0は(8)式になる。
両式のTとT0は同じ値であるから、(7)式=(8)式とすると、滑りs、s0と電圧eの関係は(9)式になる。
(9)式からeを大きくすると、sはs0より大きくなるので速度を減少方向、eを逆方向のマイナスにすると、sはs0より小さくなるので速度を上昇方向に制御出来ることが分かる。
しかし、二次回路の周波数sfは常に変化するので、これに合わせた電源は困難なので、次のように巻線形誘導電動機に整流器、直流機などを組み合わせたクレーマ方式、セルビウス方式が用いられ、定格速度周辺で効率よくスムーズに速度制御する。
a.クレーマ方式
第11図のように二次巻線の電流を整流器で直流変換し、巻線形誘導電動機の軸と直結した直流電動機の電機子巻線に電機子電流として供給する方式である。直流機はこの電機子電流に比例する電磁力で回転するので、滑り制御方式では二次銅損として失われたエネルギーを回転エネルギーに変換して誘導電動機を支えることになる。更に直流機の界磁電流を増加させるとトルクが減少して速度が降下、減少させると逆に速度が上昇するので負荷のトルクに合った滑りsに速度制御できる。
b.セルビウス方式
クレーマ方式の直流電動機の軸を誘導電動機でなく、新たな誘導発電機と接続し、出力を電源側に返送する方式をいう。現在では第12図のように直流電動機や誘導発電機ではなく整流器とインバータ、変圧器を用いて直接電源側に返送する、より効率的な静止セルビウス方式が用いられる。
ブレーキには機械制動のほかに誘導電動機の場合は電気制動として次の方法がある。
(1)ブラッキング(逆相制動)
3本の三相固定子巻線のうち2本を入れ替えると、回転磁界の方向は逆方向になり、回転子に逆方向の力が発生し、強力な制動力となる。
(2)回生制動
ケーブルカーや巻上機の下降運動時に、誘導電動機を発電機に切り替えて、位置のエネルギーを電気エネルギーに変換し、制動とともに電力を電源に送り返す。ただし、速度を0にはできないのでほかの制動法を併用する。
(3)単相制動
巻線形だけに使用される制動法で、一次側の3端子を第12図のように1端子と、2端子を結んだ端子にして単相接続に切り替えて単相誘導電動機にして、二次側に抵抗を接続して増大させていくとトルクが減少し、途中から逆トルクに代わり制動トルクを得る方式である。余り大きな制動トルクを必要としない場合に用いられる。