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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
誘導電動機の単相誘導電動機、誘導発電機 東電設計(株) 池内 大典

三相交流は誘導電動機の固定子巻線に回転磁界をつくり、回転子を回転させることができるが、単相交流は上下振動するような交番磁界であって回転磁界ではないので回転子を回転させることはできない。ここでは単相交流で回転磁界を作る各種の方法と特性、及び誘導発電機の同期発電機との特性比較を解説する。

1.単相誘導電動機

 単相誘導電動機は電気洗濯機や扇風機など家庭用の機器に広く利用されている。

 三相交流は誘導電動機の固定子巻線に回転磁界をつくり、回転子を回転させるが、単相交流は上下振動するような交番磁界であって回転磁界ではないので、回転子を回転させることはできない。では、どのようにして回転磁界を作るのか。

(1)単相誘導電動機の原理

 単相交流で回転磁界を作るには、第1図(a)のように主巻線と始動巻線を直角方向に配列し、第1図(b)のように始動巻線にコンデンサを接続する。単相電圧を加えると各巻線の電流は第1図(c)のように主巻線は実線、始動巻線は点線で、90°の位相差のある交流となる。主巻線の磁束φa(左方向:プラス)と始動巻線の磁束φb(上方向:プラス)の合成磁束φは第1図(c)の①〜⑦の電流に対して第1図(d)のベクトル図で示すように、

 φaの最大値=φbの最大値=φmとするとφの変化は以下のようになる。

 ①. 0°  φa=φmφb=0 から φ=φm:左水平方向      ・・・スタート

 ②. 45°   formula001 formula001 formula002 formula002  から

           formula003 formula003 :45°傾いた左方向

 ③. 90°  φa=0φb=-φm から φ=φm:真下垂直方向

 ④.135°   formula004 formula004 formula005 formula005  から

           ②同様 φ=φm:45°傾いた右方向

 ⑤.180°  φa=-φmφb=0 から φ=φm:右水平方向

 ⑥.270°  φa=0φb=φm から φ=φm:真上垂直方向

 ⑦.360°  φa=φmφb=0 から φ=φm:左水平方向      ・・・1回転

 このように合成磁束φは一定の値で反時計回りに回転する回転磁界となり、回転子を回転させる。回転子の構造はかご形である。このように主巻線の磁束と位相差を持った磁束間には、それぞれの交番磁界が移動して回転磁界が作られる。

(2)主な種類

a.分相始動形

 第2図(a)の原理図のように主巻線と始動巻線を直角に配置し、始動巻線を細線で巻数を少なくすると、主巻線より抵抗は大きく、リアクタンスは小さくなるので始動巻線に流れる電流の位相が進み、両巻線の磁束に位相差ができ、(1)の原理と同様の回転磁界ができる。これによって回転子が回転し、回転数が同期速度の formula006 formula006 程度に達したとき遠心力開閉器を開放し、始動巻線を自動的に回路から切り離す。始動トルクは小さい。

b.コンデンサ始動形

 原理は(1)である。コンデンサによって位相差が90°近くになるので、始動トルクが大きく、力率を改善できるので標準的な電動機として多用される。

c.くま取りコイル形

 第3図(a)のように固定子の磁極に左は上側、右は下側に溝を掘って、黄銅製の端絡環のくま取りコイルを配置したものである。磁極の中の磁束は図のように、くま取りコイルがない部分をφa、ある部分をφbとすると、φbは端絡環に短絡電流が流れるので、位相がφaより遅れ、φaからφb方向に磁束が移動する現象が生ずる。これにより第3図(b)のように左磁極では下から上、右磁極では上から下方向に磁束が移動し、回転子に右回転の始動トルクができる。

 構造は簡単であるが、始動トルクは小さいので扇風機などの小型機に限定される。

d.反発始動形

 単相直巻整流子電動機は直流直巻電動機と同じように、固定子には主磁極巻線と補極巻線、回転子には整流子と整流子巻線を配置する電動機である。直流直巻電動機ではすべての巻線を直列に接続する。交流では第4図(a)のような直流と同様の接続方式のほかに、第4図(b)のように電磁誘導作用で、主磁極巻線と整流子巻線間に電流を流せるので、両巻線を直接接続せず、整流子巻線を整流子を通して短絡する方式がある。これを反発電動機という。直流直巻電動機は電圧の方向を変えると、界磁電流、電機子電流の方向が同方向に変化するのでトルクと回転方向は変わらない。この特性から交流電圧でもトルクの向きは変わらず回転を継続できる。これが単相直巻整流子電動機の原理である。

 反発始動形誘導電動機は第5図(b)のように回転子に整流子巻線とかご形導体を配置して、第5図(a)のように単相直巻整流子電動機とかご形誘導電動機を組み合わせた構造で、始動時は反発形単相直巻整流子電動機、始動後はかご形に切り替えるとともに、整流子を遠心力で短絡することによって整流子巻線もかご形導体と同じにして運転する。始動電流は小さいが始動トルクは大きいので、井戸ポンプや精米機などの農事用に使われる。

2.誘導発電機

 誘導電動機は同期速度以下で回転する電動機で、電流は固定子巻線(一次巻線)から回転子巻線(二次巻線)方向に流れるが、回転子を水車やタービンなどで、固定子の回転磁界の回転速度より速い速度で回転させると、回転子導体に発生する起電力はフレミングの右手の法則から電動機と逆方法になり、電流は二次巻線から一次巻線方向に流れ、一次巻線電流は電源側への供給電流、すなわち発電機となる。これを誘導発電機という。構造は基本的に電動機と同様である。

 同期発電機と比較すると、

 長所は、

 (1)交流電源との接続により、

 ・回転磁界用の励磁電流は無効電力として系統から吸収するので励磁機は不要。

 ・系統の周波数に合わせて発電するので、同期機のように系統の周波数に合わせるための系統との同期を取る必要はなく、回転数を調整する同期調整機は不要。

 このように同期機よりも経済的で、構造も簡単で丈夫である。

 (2)漏れリアクタンスが大きいので短絡電流は小さい。

 短所は、

 (1)交流電源と接続されなければ発電できない:電動機と同様で固定子の回転磁界がないと起電力が生じない。この結果、単独運転はできない。

 (2)大型電動機と同様で、始動時に系統に与える影響が大きい。

 などがある。

 これらのことから、電力系統の電圧と周波数を安定的に維持するためには同期発電機がメーンとなる。誘導発電機は単独で電圧と周波数の維持はできないので、中小の水力発電所、コージェネレーションシステムの発電機として使用される。