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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
理論計算の落とし穴(2)指数計算、複素数の割り算、複素数表現での条件問題 東京電気技術高等専修学校 講師 福田 務

電気理論や電力などの計算問題は、電気工学の法則の意味を理解し、幅広く数学の知識を応用して解かなければならないが、試験会場ではあまり時間をかけることはできないため、方針を素早く決定し要領よく計算する必要がある。しかし、その方針次第で落とし穴にはまり、誤答したり時間がかかって解答が求まらないことがある。このシリーズでは、このような落とし穴の例をいくつか取り上げ、計算運用の上手なテクニックを学ぶ。今回は、指数計算、複素数の割り算、複素数表現での条件問題について解説する。

計算を工夫することが大切である

 簡単なことで言えば、0.5倍するところは2で割るとか、10−3で割るところは1000倍するとか、別の方法でも同じ答えになるか、確かめてみることはムダのようでムダにはにはならない。

(1) 整数項と10の累乗項とを別々に集める

 クーロンの法則の式を使った計算で次のような場合
     [N]
     [N]
という計算運用をすると、誤りが少ないものである。

(2) 計算のスピード化が正確さをまねく

 やっていることは間違っていないのに、選んだ方法がまずいために、わざわざ手数をかけてしまい損をしてしまう場合がある。計算にとっていちばん大切な正確さと、計算速度はじっさいは一体のものである。複素数計算を使った問題を例に、どんなコツがいるか、さぐってみよう。

【例題1】

第1図の回路の電流 の大きさはいくらか。


 例題1は文字だけしか示されていないが、解き方をどう選ぶかで、かなり複雑な計算をするハメになる。

解答 A

    
 したがって、
        [A]
 解答Aは正解にはちがいないが、絶対値を求める場合、必ず+jの形にしてから で計算しなければならないと思っている方が案外多いものである。これでは、あまりに正直すぎて手数がかかり損をしてしまう。

〔解答 B〕

        ここで、Z の絶対値はであり、E の絶対値は であるから、〔A〕    
 解答Bはたったの2行ですんでいるが、これは複素数の絶対値を求める場合、分母と分子の絶対値をそれぞれ別々に計算してよいということによるものである。同じような観点からもう一つ例題を示そう。

【例題2】

 第2図の回路における電流を複素数であらわせ。

 

〔解答 A〕

 回路を流れる全電流は、   となるから
 求める電流は、
     
         

〔解答 B〕

  とおく。

 分母=
 分子=
 したがって、 
 解答Aも解答Bも答は一致しているが、解き方の違いははっきりしている。
解答Aは、はじめから数値をどんどん使って複素数計算を進めているのに対して、解答Bは各素子をいったんZで置き換えて、式がまとまった段階で数値を代入している。回り道のように思えるが、すっきりしていて内容もつかみやすい。回路が複雑になるとこのような方法も有利になる。『いそがば、まわれ!』という言葉が電気回路計算にも当てはまるようである。

(3) 問題文の解釈をどう受けとめたらよいか

【例題3】

 第3図の並列回路におけるインピーダンスを最大にするには、コンデンサはどのような値が必要か。ただし、電源の周波数は〔Hz〕とする。


 解答を作る際、まずインピーダンスZを求める式を次のように立てて解こうと思うかもしれない。インピーダンスZが最大となる条件という文面からすれば当然である。
    
 いきなり、このような式を立てても解けない。その理由は実数部にも入ってきて大変やっかいなことになるからである。ではどうすべきか。
 インピーダンスZが最大になるためには、アドミタンスYが最小になればよいと考えて解いてみる。

〔解答〕

    
    
  合成アドミタンス
  アドミタンス が最小になるには、虚数部が0になればよい。
       
 したがって、

  * 合成アドミタンスは、各アドミタンスの和になる。