電気回路理論では、『電流は閉回路を流れる』と説明されるが、落雷の際に生じる雷電流や、電極間に絶縁物を挿入したコンデンサの電流はこの理屈に合わないのではないかと思われる。ここでは、雷雲の発生と落雷現象、コンデンサの充放電現象を掘り下げることにより、電流が流れるメカニズムを理解する。
Update Required To play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your
Flash plugin.
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます
電気回路の理論では、通常「電流は閉回路を流れる」と説明されている。ところで、落雷の際に生じる雷電流はこの理屈に合わないのではないかと思われる。
雷雲の発生のメカニズムは複雑な構造をしているが、上昇気流によりつくられた雷雲は、例えば第1図に示すような負電荷を蓄積する。一方、その電荷に誘導された大地は正電荷を蓄積し、雷雲の負電荷との間で放電現象が起きる。これが雷電流である。
ここで、放電路は電流が流れる回路と考えられるが、明らかに閉回路を形成していない。どう考えればよいだろう。
確かに一見すると閉回路ができていないように思えるが、コンデンサに蓄えられた電荷の放電を想定してみると、雷電流の仕組みがよく分かる。
第2図はコンデンサ C の放電状態のときの回路である。極板aと極板bを導線で短絡すると、コンデンサCに充電されている電荷は、導線を通って放電することになる。
この第2図をよく見ると、確かに ab 間は導線で結ばれ放電電流は流れるが、コンデンサC の内部は導線で結ばれてはいない。つまり、閉回路はできていない。それにもかかわらず、電荷は導線を通り放電したのである。すなわち、電流が流れたことになる。では、閉回路ができなくても電流が流れるものであると結論づけてよいのだろうか。
コンデンサ C の内部は、確かに線で結ばれていないが、第3図に示すように内部全体が変位電流
という電流の通路になっていると考えるのである。そのため実質的には、電流の閉回路ができて電流
が流されることができると考えることが正しい。
ここで導体に流れる電流と変位電流の違いを説明しておこう。
導体に流れる電流
は、ある導体の断面を毎秒当たり、どれだけの電荷(電気量)が通過するか、つまり1秒間当たりの通過電気量で定義されるものである。
これに対し、変位電流
はコンデンサ内部の電束密度を
[C/㎡]、時間を
[s]、コンデンサの極板面積を
[㎡]とするとき、次式で定義されるいわば、見掛けの電流である。
しかしながら、見掛けの電流といっても
電荷
[C]の関係があるので、
となって
と
は等しいことが分かる。
つまり、電流
と変位電流
は性質は違っても、同じ回路を流れる同一電流であるといってもよい。結局、第3図のコンデンサ放電回路は閉回路が構成されているものと考えることができる。
第4図のように、コンデンサ放電回路の考え方を雷電流の場合にも適用することができる。すなわち、雷雲と大地間の電界空間をコンデンサの極板間(電極空間)に、そして落雷の放電路をコンデンサの導線に置き換えて考えてみればよい。
このように雷電流も電界空間を流れる変位電流の存在を認めることによって閉回路が構成されていることになる。