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交流回路は、ベクトルを用いて計算することができる。ベクトルは図形を基本としたものであるが、図形に頼るだけでは複雑な回路になると限界が生じてくる。そこでベクトルによる図形処理を数式計算に置き換えることができれば計算が容易になる。ここでは、電気回路を構成する抵抗R、インダクタンスL、静電容量C3種類の素子の複素数表現方法を解説する。
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![01.交流にあって直流にないもの](image/topic/01.gif)
直流では「大きさ」だけを相手に戦えばよいのに、交流回路の計算では「大きさ」と
「位相差」の二つを相手にしなければならないから、ちょっとやっかいである。
特に「位相差」は二つの正弦波交流の波形の時間的な「ずれ」を角度で示すものである
が、電圧や電流のように計器で手軽に測るというわけにもいかない。
はじめにベクトル図を用いなければ交流回路を解けなかったのは、この「位相差」が存在したからである。ベクトル図が複素数という数式に変換できれば、数式の中に当然この「位相差」は考慮されているので、数式だけの処理で(代数的に)どんどん計算を進めていくことができることになるから大変便利である。
例題でこのことを確認しておこう。
〔例題〕 次の回路(第1図)における電流 IL、IR 及びI0 を求めよ。
〔解答〕 第2図のようにベクトル図を複素平面上においてみれば、その成り立ちが分る。
回路が簡単な場合はベクトル計算でもよいが、混み入った回路では複素数を用いて
代数計算したほうがずっと有利である。大きさは複素数の絶対値を求めればよい。
![02.計算を速やかに行うには jを回路素子に付属させるだけでよい](image/topic/02.gif)
複素数だけを用いて交流計算するには、どのようなテクニックが必要であろうか。
そのためには、次の第3図に示す左の欄の回路素子とベクトル図の関係、更にベクトル図が右の欄の複素数に置き換えられることを、しっかり把握しなければならない。
* 誘導リアクタンス回路の
![formula001](image/formula/eq0001M.gif)
![formula001](image/formula/eq0001P.gif)
について説明を加えておく。
![formula002](image/formula/eq0002M.gif)
![formula002](image/formula/eq0002P.gif)
は
![formula003](image/formula/eq0003M.gif)
![formula003](image/formula/eq0003P.gif)
より90°遅
れているから、分子の
![formula005](image/formula/eq0005M.gif)
![formula005](image/formula/eq0005P.gif)
を−
j 倍して
ωLで割れば、それが
![formula006](image/formula/eq0006M.gif)
![formula006](image/formula/eq0006P.gif)
と一致する。(第4図)
同様に、容量リアクタンス回路でも
IC は
E より90°進んでいるから、
![formula007](image/formula/eq0007M.gif)
![formula007](image/formula/eq0007P.gif)
と
![formula008](image/formula/eq0008M.gif)
![formula008](image/formula/eq0008P.gif)
の関係は、まず
![formula009](image/formula/eq0009M.gif)
![formula009](image/formula/eq0009P.gif)
を+
j 倍して
![formula010](image/formula/eq0010M.gif)
![formula010](image/formula/eq0010P.gif)
で割れば
![formula011](image/formula/eq0011M.gif)
![formula011](image/formula/eq0011P.gif)
となる。
![formula012](image/formula/eq0012M.gif)
![formula012](image/formula/eq0012P.gif)
(第5図)
*
![formula013](image/formula/eq0013M.gif)
![formula013](image/formula/eq0013P.gif)
及び
![formula014](image/formula/eq0014M.gif)
![formula014](image/formula/eq0014P.gif)
の理由
j を使って表した誘導リアクタンスの式
![formula017](image/formula/eq0017M.gif)
![formula017](image/formula/eq0017P.gif)
は二つの意味をもっている。それは
![formula018](image/formula/eq0018M.gif)
![formula018](image/formula/eq0018P.gif)
という電流が
![formula019](image/formula/eq0019M.gif)
![formula019](image/formula/eq0019P.gif)
という電圧よりも90°遅れており、しかも電流の実効値
![formula020](image/formula/eq0020M.gif)
![formula020](image/formula/eq0020P.gif)
は、電圧の実効値
![formula021](image/formula/eq0021M.gif)
![formula021](image/formula/eq0021P.gif)
を
ωLで割れば求まるという、2通りの内容を同時に表した式である。
このことは容量リアクタンスの式
![formula022](image/formula/eq0022M.gif)
![formula022](image/formula/eq0022P.gif)
にも同じことがいえる。
結局、回路素子に着目すれば、抵抗
R〔Ω〕はそのまま、誘導リアクタンス
ωL〔Ω〕には+
j を付けること、容量リアクタンス
![formula023](image/formula/eq0023M.gif)
![formula023](image/formula/eq0023P.gif)
〔Ω〕には−
j を付けることというふうに形式的に決めてしまえば、交流回路の計算はたちまち直流回路の計算と同じように取り扱えることになり、まことに便利である。「電気は苦手、まして交流回路は・・・」などと敬遠することはない。覚えることはごくわずかで済む。この便利な方法はアメリカの電気工学者スタインメッツ(1865〜1923)が1893年に記号法という名で発表してから広く使われるようになったものである。
![03.複素数計算にもコツがある](image/topic/03.gif)
ベクトルや複素数を使って、交流回路の計算を進める仕事は、たとえてみれば英語で書かれた文章を日本語に翻訳する仕事に似ている。そのほか電流計にしても回路に流れる電流の大きさを、目盛板状の長さに翻訳していることになるし、電力量計にしても消費電力量をアルミニウム円板の回転数に翻訳していると考えることもできる。
複素数による交流回路の翻訳作業が確実性の高いものになるかどうかの決め手は、第1に「正確さ」、そして第2に「スピード」である。複素数の計算では、答えに至る道筋が幾つもあることが多く、なるべくムダな労力を省くことが肝要である。正確さとスピードは別のようにも思えるが、実際は一体となっているものである。
〔例題〕第6図の回路における抵抗Rの両端の電圧はいくらになるか。
この問題に対して、次の答えは間違った解答である。どこに間違いがあるか、的確な判断ができれば、あなたはもう確かな複素数の理解者である。
〔誤解答〕
ここで電圧降下の代数和が電源電圧に等しいと考えてしまったことは、まだ直流離れしていない証拠である。
〔正解〕
![04.計算のスピード化に挑戦](image/topic/04.gif)
複素数計算をスピーディに運ぶため、どんなコツがいるかということを探ってみよう。
やっていることは間違いないのに、選んだ方法がまずいために、わざわざ手数をかけてしまい、損をしてしまう場合がある。そんな例をお目にかけよう。
〔問題〕 第7図の回路の電流I 〔A〕の大きさはいくらか。
この問題には数値が入っていないから、当然答えは文字式になる。問題そのものは単純であるが、要は解き方をどう選ぶかでかなり複雑なハメに陥ってしまうことにもなる。そんな例をお目にかけよう。
〔答案1〕
この答案作成者は絶対値を求める場合、必ず
![formula036](image/formula/eq0036M.gif)
![formula036](image/formula/eq0036P.gif)
というスタイルにしてから
![formula037](image/formula/eq0037M.gif)
![formula037](image/formula/eq0037P.gif)
で計算しなければならないという先入観で問題に取り組んだように思う。
しかし、あまりに正直過ぎて手数をかけ、損な解き方をしている。複素数の分数の絶対値を求める場合には、分子の絶対値と分母の絶対値をそれぞれ別々に計算すればよいことを知っておこう。すなわち正解は、
![formula038](image/formula/eq0038M.gif)
![formula038](image/formula/eq0038P.gif)
ここで
![formula039](image/formula/eq0039M.gif)
![formula039](image/formula/eq0039P.gif)
の絶対値は
![formula040](image/formula/eq0040M.gif)
![formula040](image/formula/eq0040P.gif)
である。
また、
![formula041](image/formula/eq0041M.gif)
![formula041](image/formula/eq0041P.gif)
の絶対値は
![formula042](image/formula/eq0042M.gif)
![formula042](image/formula/eq0042P.gif)
であるから
![formula043](image/formula/eq0043M.gif)
何だと思うかもしれないが、たった2行の式で済んでしまう内容のものである。複素数の分数の絶対値を求める計算にはしばしば目にする内容なので注意しよう。
![05.複素数を三角関数で表すとどうなる](image/topic/05.gif)
複素数の大きさ(絶対値)と偏角が分っている場合には、三角関数を使うと複素数を簡単に表すことができる。大きさ
A と偏角
θ が分っている場合、第8図のように、
a,b の成分は
![formula044](image/formula/eq0044M.gif)
![formula044](image/formula/eq0044P.gif)
から
![formula045](image/formula/eq0045M.gif)
![formula046](image/formula/eq0046M.gif)
![formula046](image/formula/eq0046P.gif)
から
![formula047](image/formula/eq0047M.gif)
となる。第8図で、
![formula048](image/formula/eq0048M.gif)
![formula048](image/formula/eq0048P.gif)
であるから、これに
![formula049](image/formula/eq0049M.gif)
![formula049](image/formula/eq0049P.gif)
を代入すると、
![formula050](image/formula/eq0050M.gif)
![formula050](image/formula/eq0050P.gif)
となる。また
![formula051](image/formula/eq0051M.gif)
![formula051](image/formula/eq0051P.gif)
、 の部分を簡単に、∠
θで表すと、
![formula052](image/formula/eq0052M.gif)
![formula052](image/formula/eq0052P.gif)
となる。また、大きさ
Aで偏角
θのベクトル
Aを複素数で表すと
![formula053](image/formula/eq0053M.gif)
![formula053](image/formula/eq0053P.gif)
になるということは、逆に考えれば、大きさ
Aの実数軸上のベクトルを、位相角
θ進めたいときには、
Aに(cos
θ+
j sin
θ)を掛ければよいことになる。つまり、カッコ内の部分を利用すれば、ある大きさのベクトルを自分の思うままに位相を変えてやることができる。(cos
θ+
j sin
θ)という値は、指数関数の
![formula054](image/formula/eq0054M.gif)
![formula054](image/formula/eq0054P.gif)
と等しくなり、
![formula055](image/formula/eq0055M.gif)
![formula055](image/formula/eq0055P.gif)
のことをオイラー(Euler)の公式という。