コンデンサ物語(3)で扱ったコンデンサの充電や放電によって、コンデンサのエネルギーがどう変化するか調べてみよう。
コンデンサ物語(3)で学んだように、第1図(a)の回路において、コンデンサに電荷がない状態で、スイッチSを閉じたとき、コンデンサの電荷q
と回路に流れる電流i は、
(1)
(2)
であり、時間が充分経過したときの電荷(Eによって充電された電荷)Q は、(1)式でt=∞ とおくことで求められ、
(3)
となります。
次に、この充電されたコンデンサCを(b)図の回路のように接続し、Sを閉じて放電させると、そのとき流れる電流i
は、
(4)
となりました。
そこで、放電時、Rでの消費電力pR は、
(5)
となるので、Rの消費電力量(Rが受け取るエネルギー)WRは
となります。
一方、(a)図の充電で、Cでの電力pC は、
となるので、Cが電源から受け取るエネルギーWCは、
となり、 の関係にあることがわかります。
これは、充電によってCにQ=CEの電荷が蓄えられたということは、Cは電源からのエネルギーを受け取ったことを意味し(a図)、(b)図のCはスイッチを閉じる前は、このエネルギーを静電エネルギーとして保有してます。そして、スイッチを閉じて放電がはじまることで、そのエネルギーを徐々にRに与え、Cの電荷が空っぽになることで、Cが保有していた静電エネルギーのすべてがRへ熱エネルギーとなって与えられたことになります。
つまり、この事例でわかるように、コンデンサが保有するエネルギーは、充電の過程で使用する抵抗には無関係で、Cの電荷のみによって決まります。電荷は電圧印加と同時にCへ入るので、
『コンデンサは印加電圧の大きさで決まるエネルギーを貯蔵するエネルギー倉庫』
といえます。
第2図のように、交流電圧が印加されているコンデンサを流れる電流は、第2回で扱ったように、電圧vより90°位相の進んだ電流iとなり、図に示すと第3図のv、i となります。
したがって、コンデンサで消費される電力pCは、
となり、pCは図示のようなグラフとなります。図上ではpCに正と負の場合がありますが、これはコンデンサのエネルギー授受に関係しています。このときのエネルギーの「やりとり」は、第1表に示すように、コンデンサCに加わる電圧vCと、C を流れる電流i の極性でハッキリと知ることができます。
したがって、交流回路の場合、『コンデンサは、同量のエネルギーを電源電圧半周期毎に受取と送出とを繰り返すエネルギーの一時的な保管倉庫の働きをしている』ことがわかります。
第4図のような遅れ力率cosθの負荷Lに、電圧v を加えたとき、Lへ流れる電流iが、 であったとすれば、負荷の消費電力p
は、
(12)
で、v とi の波形は第5図(a)のようになります。
ここで、電流i を次のように変形してみます。
この結果、電流iは、実効値がI cosθでvと同相の電流i1と実効値がI
sinθでvより90°遅れた電流i2とに分けることができます。
したがって、p は、
となり、p は次式のようにp1とp2から成り立っていることがわかります。
したがって、i1、i2のグラフは、第5図(a)に、p1、p2は同図(b)、(c)のように、それぞれ描くことができます。
さて、負荷の消費電力P は、消費の対象となる電力はp1だけなので、p1を平均することで、(19)式から求められ、
P=VIcosθ [W]
となります。
一方、p2は、(c)図からわかるように、印加電圧半周期に1回の割で同量の受取と送出を繰り返すだけなので、負荷の消費電力にはなりません。このため、一般に無効電力と呼ばれ、
Q=VIsinθ [Var]
で表されます。単位は[W]でなく[Var]で表されています。中身はエネルギーなので[W]なのですが、負荷で消費される電力でないという理由から[Var]で表しているのです。したがって、無効電力は「無効電力」ではなく「往復電力」と云った方が実態を表現しているといえます。ぜひ、その辺の事情をよく理解しておくことが必要です。
第4図は、電力で云えば、負荷の消費電力P を得るために(P/cosθ)sinθ=P tanθ の電力を電源−負荷間に往復させていることになります。
例えば、負荷がP [W]、遅れ力率80%の場合、P [W]の電力を負荷にとどけるために、その75%(P tanθ=P (0.6/0.8)=0.75P )に相当する電力[W]が電源−負荷間を往復しているわけです。電流で云えば、エネルギー的には負荷に対してi1だけ流れればよいのに、i2が流れるため、この電流により線路の電圧降下や線路での電力損失を増大させるわけで、これは電力輸送という面から見れば、随分と無駄なことと考えざるを得ません。とはいえ、このような遅れ力率負荷が存在する以上、このような往復エネルギーは厳然と存在するわけで、要は、このような好ましくないエネルギーをいかに小さく抑えるかということです。
そこで注目されるのが、コンデンサによる往復エネルギーです。第3図のpCと第5図(c)のp2とを見比べればわかるように、負荷LとCとでは電源に対してエネルギーの授受が全く逆となっています。したがって、Cを負荷と並列に接続することで、負荷の送出エネルギーの一部または全部の送り先を電源でなくCとし、次に負荷が受け取るべきエネルギーの一部または全部を電源でなくCからの送出エネルギーで充当させれば、電源との往復エネルギーを少なくすることができるはずです。第6図は、その様子を図で表したものです。
では、これらの関係を定量的に第7図のベクトル図で見て行きましょう。
(a)図で、まず、回路電圧よりθ遅れて電流が描けます。このをと同相の成分と90°遅れた成分とに分解して、が描けます。そして、このようにして得られた電流ベクトルをV倍して,有効電力P,無効電力QL,皮相電力Paからなる電力三角形がつくれます。図上のQLが電源−負荷間の往復電力の大きさを表しています。
負荷Lと並列にコンデンサCを接続した(b)図では、Cによる往復電力QC(=VIC)が新たに加わります。この結果、QLとQCとはエネルギー授受が互いに逆であるため、見掛け上QCがQLの一部を吸収し、電源との往復電力をQ に減少させます。このため、電流はI’となり、電流の大きさと電圧との相差角θ’を図のように減少させます。したがって、cosθからcosθ’に負荷力率が改善されるわけです。もし、QC=QLを満足するような静電容量を選べば、Q=0 となって、力率を100[%]とすることができるのです。
【考察】なぜ、コンデンサで過渡現象が起こるのか考えてみましょう。