~終わり~
■ぜひアンケートにご協力下さい■
対称座標法という計算法の流れは前回で説明したように第1図のようになる。
第1図 対称座標法の計算フロー
このため対称座標法計算の主要部分は三元一次方程式を解くことにある。
データ(数値、変数など)を第2図(1)のように縦横に規則正しく並べたものを行列(マトリックス)という。第2図(2)のように行列においてデータの横の並びを行、縦の並びを列という。したがって、第2図に示す行列は3行3列の行列である。行列を構成する個々のデータを要素という。
第2図 行列
例1 において、第2行は「4 5 6」であり、第3列は「3 6 9」である。
また、第3行第2列の要素は「零」である。
例2 は2行2列の行列。
例3 は2行1列の行列。
例4 は3行1列の行列。
例5 は1行3列の行列。
例6 は3行3列の行列であり、「a12 」は第1行第2列の要素である。
この例のように行数と列数の等しい行列のことを正方行列という。例1、例2、例6は正方行列である。
行列には第3図(1)~(4)のような表記の方法がある。第3図(5)は「行列式」に使用される表記なので、行列の表記には使用できない。
第3図 行列の表記
行列には次のような性質がある。
(1) 相等
(5)式において ai j = bi j ならば、
(2) 和と差
例7
(3) 積
行列の実数倍(k:実数)
例8
行列と行列の積
例9
例10 ある家庭の光熱水費のデータが、電気、ガス、水道の料金単価を20円/kWh、120円/m3、140円/m3として、A月、B月、C月3ヵ月の電気使用量(kWh)が510、630、660、ガス使用量(m3)が24、31、30、水道使用量(m3)が23、30、27である場合、これら各月の使用量料金(料金単価は一定で、使用量料金 = 使用量×料金単価で計算できるものと仮定する)の合計をD、E、Fとすれば、これらは次の行列で表すことができる。
例11
例12
第4図に(17)式の計算内容を示す。
第4図 (17)式の計算内容
第5図には対称座標法で多く使用される3行3列の正方行列の積の計算過程を示す。
第5図 行列の積(3行3列の場合)本図はクリックすると大きく表示されます
積の性質 積の計算ができる行列の条件・・・左行列の列数 = 右行列の行数
「m 行 p 列の行列」と「p 行 n 列の行列」の積は「m 行 n 列の行列」となる。
一般に、
(5) 商
行列の商は行列の積で計算する。行数と列数の等しい正方行列において、左上から右下を結ぶ対角線上の要素(対角要素という)a11 、a22 、・・・an nが零でなく、その他の要素がすべて零の場合の行列を対角行列、対角行列で対角要素すべてが1である場合の行列を単位行列という。
対角行列 単位行列
また、単位行列では、
が成立する。
[逆行列] 行列の逆行列をとすれば、
の性質がある。いま、であるとき、両辺にを左から乗じれば、
左辺
右辺
となるから、一般に、の関係にあるとき、「にを左乗するとが求まる」。
例14
予備計算
予備計算 第1行第1列の余因数
例題 下図の回路について、各枝路に流れる電流を求めよ。
【解答】
上図のように電流とその方向を仮定し、点線イ、ロの閉路についてキルヒホッフの法則の第2法則を適用すると、(38)、(39)式が成立する。
同式を整理すると(40)式、(41)式となる。
上式を行列で表示すると(42)式となり、電流の行列は(43)、(44)式となる。
ゆえに、I1 = 2A、I2 = 1Aで、2ΩにはI1+I2 = 3A つまり、左から右へ3Aが流れることになる。
[参考] 求めた逆行列は次のような計算で正誤が確認できる。(検算)
いま問題としている回路において、各相の電圧、電流を 、 、 、 、 、とすれば、電圧と電流の対称分への変換は、次のように(1)、(2)式(対称分変換式と呼ぶ)で行われる。
これらの式を行列で表せば、電圧と電流の行列は、
となる。
また、これらの対称分を実際の回路の電圧に変換(逆変換)する式、
は
となり、電流の逆変換式
は
と、それぞれ行列で表示できることが分かる。
いま、ここで、
回路の電圧、電流を 、
その対称分を とし、
実回路から対称分を求めるのに使用している行列を変換行列と呼ぶことにすれば、変換行列を使って、(46)、(47)両式は次のように表される。
変換行列の内容は、(46)、(47)両式から
であることが分かる。
次に(50)式の両辺にの逆行列を左乗すれば、となるので、実回路の電圧は、
となり、対称分から実回路への変換ができる。また、電流についても、同様にして、
で実回路変換ができる。
ここで、の逆行列は巻末の[参考1]および[参考2]から求められ、
であることが分かる。
なお、このことは逆行列の計算をするまでもなく、(53)、(54)両式が内容的に(48)、(49)両式と同じであることに気付けば、これらの式を見比べることによってが(55)式の内容であることが分かる。
したがって、これら一連の計算、すなわち実際の電圧や電流から対称分を求める変換(対称分変換)と、その逆計算である逆変換の計算は、第6図に示すように変換行列、を使うことで非常にスッキリと、しかも簡明に表現して取り扱うことができる。
第6図 行列を使用した対称座標法の計算フロー
つまり、対称分変換と逆変換は変換式が互いに独立しているのではなく、行列の計算規則でキチンと関連づけられて表現されている。このため、「実回路量と対称分回路量とは変換行列とを介して簡単に相互変換できる」わけである。
**** [ 参 考 1 ] 逆 行 列 の 求 め 方 **************************************
行列に関する数学書によれば、正方行列、
であるとき、|A|≠0であれば、の逆行列は、
であることが知られている。
ただし、Ai j は第 i 行第 j 列の余因数である。ここで、余因数Ai j とは、の行列式 |A| の第 i 行と第 j 列を取り払って得られる行列式を、i + j が偶数の場合は+ 1倍、奇数の場合は- 1倍したものである。例えば、余因数A12は次のように計算される。
**** [ 参 考 2 ] 変 換 行 列 C の 逆 行 列 C-1 ******************************
変換行列の逆行列は、参考1の「逆行列の求め方」によって次のようになる。
Ci j は、|C| の i 行 j 列の余因数で、下記のように計算される。
**** [ 参 考 3 ] 行 列 の 性 質 *******************************************
1 | 和 | ||
2 | 実数(k)積 | ||
3 | 積 | 一般に | |
4 | 積 | ||
5 | 商と逆行列 | ならば、 | |
6 | 逆行列 |