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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
LやCの電流が90°遅れ、進みが生ずるのはなぜか

 東京電気技術高等専修学校講師 福田 務

交流回路では、インダクタンスLやコンデンサCの電流は素子電圧に対し位相が90°遅れあるいは90°進みになる。われわれは、この基本的知識を活用して交流回路の計算を行っており、ベクトル計算ではこの関係を図形化、複素数計算はこの関係を記号化して用いている。
ここでは、LやCの電流が90°遅れたり進んだりする理由を、それぞれの電圧と電流の関係式、それを三角関数で表した式を用いて解説する。

1.なぜ、Lの電流は電圧より90°遅れるのか?

 よく知られているファラデーの電磁誘導の法則をもとに考えてみる。ある回路でインダクタンスL〔H〕に formula001formula001 秒間に formula002formula002 〔A〕の電流変化が生じたとき、Lに発生する誘導電圧 formula003formula003 は次式となる(第1図)。

formula004 〔V〕  (1)
formula004 〔V〕  (1)
第1図 第1図 

 ところで、この(1)式を見ただけでは90°遅れるという数字は出てこない。 そこで電圧eと電流iが正弦波交流であることに着眼して、(1)式を展開分析してみよう。第1図のインダクタンスLに正弦波交流電圧vを加えると、

formula005 〔A〕   (2)
formula005 〔A〕   (2)
の電流が流れたとする。

 そして時刻がt秒からt+Δt秒後に電流iit+Δtに変化したとする。このときit+Δtは次式のようになる。

formula006 formula007 (3)
formula006 formula007 (3)

 ここで(3)式を三角関数の加法定理を用いて展開する。

(参考)

 ここで使う三角関数の加法定理の公式は、

formula008
formula008

であるが、参考までに加法定理がどのように導かれるか、三角関数の基礎知識とベクトルの複素数表示を使って証明しておこう。

第2図 第2図 

 いま、絶対値(大きさ)が1で偏角がθ1のベクトル formula009formula009 を、偏角θ2だけ回転させた場合のベクトル formula010formula010 を三角関数と複素数で表示してみると(第2図参照)、

formula012   formula013 (ア)
formula012   formula013 (ア)

 また、 formula014formula014formula015formula015θ2だけ回転したベクトルであるから、

formula016
formula017 (イ)
formula016
formula017 (イ)

 ここで、(ア)式の formula018formula018 と(イ)式の formula019formula019 の両式を比較してほしい。実数部分とjの付いている虚数部分が等しいから、

 

加法定理 formula020 及び
formula021
加法定理 formula020 及び
formula021

の2式が求まる。sinの場合にはサインコス、コスサインと覚え、cosの場合にはコスコス、サインサインと覚えておけばよい。

 加法定理で展開すると(3)式は、

formula022 (4)
formula022 (4)

となる。

 したがって、時刻tからt+Δtまでの間に変化した電流の値Δiは (4)式−(2)式によって、

Δi=i(tt)-i= formula023
= formula024 (5)
Δi=i(tt)-i= formula023
= formula024 (5)

 ところで、三角関数の性質から次のことがいえることに気付いてほしい(sin波形、cos波形を描いてみる、あるいは関数電卓で数値を入れて調べてみると分かる)。

  formula025formula025formula026formula026tが0に近づくと、その値は1に近づく。また、 formula027formula027tが0に近づくと、その値は formula028formula028 に近づく。 

 この性質を(5)式に当てはめてみると、 formula029formula029 formula030formula030 と考えられ、 formula031formula031 として扱える。

 結局(5)式は、

formula032 (6)
formula032 (6)

のようにまとまる

 (6)式を電磁誘導の法則の(1)式に代入すると、

formula033 (7)
formula033 (7)

 (7)式で formula034formula034 となることもsincosの波形から考えるとお分かりになるであろう。

 第1図から formula035formula035 によって、

formula036
formula036

が得られる。

 これらによって電流iformula037formula037 であったのに対し、電圧vformula038formula038 つまり90°進んでいることになるし、Lを流れる電流iは電圧vに対し90°遅れることが分かる。

2.なぜCの電流は電圧より90°進むのか?

第3図 第3図 

 第3図のコンデンサCに正弦波交流電圧vを加えると、どのような電流iが流れるのであろうか。いまΔt秒間にΔQ〔C〕の電荷が移動した場合の電流iは定義によって、

formula039 (8)
formula039 (8)

 また、コンデンサの静電容量C〔F〕、電荷Q〔C〕、電圧V〔V〕との間には Q=CVの関係があるから、

formula040 (9)
formula040 (9)

 (9)式を(8)式に代入すると、

formula041 [A]  (10)
formula041 [A]  (10)

 いまコンデンサCに加わる正弦波交流電圧を、

formula042 [V]  (11)
formula042 [V]  (11)

とし、時刻がt秒からt+Δt後に電圧vvt+Δtに変化したとする。このときvt+Δtは次式のようになる。

vt+Δt formula043formula044
formula045 (12)
vt+Δt formula043formula044
formula045 (12)

 したがって、時刻がt秒からt+Δt秒までの間に変化した電圧の値Δvは(12)式-(11)式を求めて、

formula046
formula047 (13)
formula046
formula047 (13)

 ここで、(5)式を取り扱ったのと同様に、tが0に近づいたとき formula048formula048 の値が1に近づくこと、及び formula049formula049 の値が formula050formula050 になることを知って式を整理すると、

formula051 (14)
formula051 (14)

となるので、(14)式を(10)式に代入すると、

formula052 (15)
formula052 (15)

 したがって、コンデンサCに流れる電流iは、Cに加わる電圧 formula053formula053 に対して formula054formula054 =90°進むことが分かる。