このページにおける、サイト内の位置情報は以下です。


社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
理論計算の落とし穴(4)複素数計算、インピーダンスの最大最小問題 東京電気技術高等専修学校 講師 福田 務

電気理論や電力などの計算問題は、電気工学の法則の意味を理解し、幅広く数学の知識を応用して解かなければならないが、試験会場ではあまり時間をかけることはできないため、方針を素早く決定し要領よく計算する必要がある。しかし、その方針次第で落とし穴にはまり、誤答したり時間がかかって解答が求まらないことがある。このシリーズでは、このような落とし穴の例をいくつか取り上げ、計算運用の上手なテクニックを学ぶ。今回は、複素数計算および複素数表現されたインピーダンスの最大最小問題について解説する。

1 計算ミスを招かないためにも、計算に労力をかけすぎないこと

 〔問題〕 この回路の合成電流I0の大きさを求めよ。

 この問題自体は難しくはないが、解き方によっては手間がかかる内容をはらんでいる。まず自分で解いて要領よく解答にいたるワザを身に付ける必要がある。

 具体例として以下3人の答案(いずれも正答)を紹介するので、計算過程をよく比較検討してほしい。

 〔太郎君の答案〕

 合成インピーダンスZは、

formula001
formula001
formula002
formula002
formula003
formula003

 〔次郎君の答案〕

   formula004 formula004 に流れる電流 formula005 formula005 formula006 formula006 に流れる電流 formula007 formula007 とすると、

formula008
formula008
formula009
formula009
formula010
formula010
formula011
formula011

 〔三郎君の答案〕

formula012  合成アドミタンスYを求める。
formula012  合成アドミタンスYを求める。
formula013
formula013
formula014
formula014
formula015
formula015
formula016
formula016
formula017
formula017

 〔解説〕

 これらの答案を見て、解答の長さで、計算の苦労の差が想像できるような感じがすると思う。

 計算に費やす労力が多いと計算ミスも増える可能性があるから労力は少ないほうがよい。結局、この問題ではアドミタンス formula018 formula018 とインピーダンス formula019 formula019 のどちらを選ぶかで解答の手間に差が出ることに気付いたことと思う。

 一般に直列回路ではインピーダンスで扱い、並列回路ではアドミタンスで扱うものと考えておくとよい。例えば、次のように合成インピーダンスを求めよという問題にしても、これこそはたとえ並列回路といえどもインピーダンス formula020 formula020 の計算でいくのが本筋だと思うかもしれない。果たしてどちらが楽か、二人の解答を示すので判断は任せよう。

 〔問題〕

 abから見た合成インピーダンスはいくらか。

 〔太郎君の答案〕

formula021
formula021
formula022
formula022
formula023
formula023

 〔次郎君の答案〕

     formula024 formula024 formula025 formula025 

 分母= formula026 formula026 formula027 formula027

 分子= formula028 formula028

formula029
formula029

2 インピーダンスを最小にする条件

 〔問題〕RLCを直列にしたインピーダンスZがある。いま、この回路のCにどのような値を与えれば、Zは最小になるだろうか。ただし、電源の周波数はf〔Hz〕とする。

 問題に示されるような回路のインピーダンスを最小にするには、どうしたらよいだろうか。ウッカリ、静電容量だけが可変なのだから、これをゼロにしてしまえばよいと考えたくなるかもしれないが、そうやってもだめなところが交流回路特有のおもしろい性質である。

 慣れた人なら、「ああ、直列共振の条件を求める問題じゃないか」とすぐ気が付くことであろう。しかし、うっかりすると次のような答案を作ってしまう人もいるからご用心。どこがあやしいか考えてみてほしい。

 〔誤った答案例〕

 回路のインピーダンスZは、

formula030
formula030
formula031
formula031

 ゆえに、

      formula032 formula032 formula033 formula033

 虚数部が0になればよいから、

  formula034 formula034  、  formula035 formula035

formula036
formula036

 したがって、

formula037
formula037

 〔答〕  formula038 formula038

 〔答案への一言〕

 この答案の虚数部分jの扱いに間違いがあることに気付いただろうか。また、Cの値が負になること自体、電気の性質を考えれば矛盾することになる。

formula039
formula039

 は正しいが、式の取り扱いを誤ってしまったため、このような結論になったわけである。

 参考のために、

formula040
formula040

 のベクトル図を示してこの式の意味を考えてみる。第4図から分かるように、虚数部 formula041 formula041 が0に近づくほど、 formula042 formula042 は短いベクトルになり、0になると formula043 formula043Rは重なることが分かる。

 このことから虚数部が0になればよいことは答案にあるように確かである。しかし、虚数をバラバラに扱ってしまってはとんでもない答になってしまう。虚数部はきちんとひとまとめにしてから0とおこう。

3 インピーダンスを最大にする条件

 次にやはりアドミタンスの応用問題としてインピーダンスを最大にする場合を考えてみよう。

 〔問題〕第5図の並列回路でインピーダンスZを最大にするには

 コンデンサCはどのような値が必要か。

  ただし、電源の周波数はf〔Hz〕とする。

 インピーダンスを最大にせよという指定があるため、ついインピーダンスを念頭において計算運びをしようと考えるかもしれないが、この場合もアドミタンス主体の計算運びをしたほうが、ずっと労力は少ないし、内容もすっきりする。答案例を示そう。

 〔解答〕  formula044 formula044

      formula045 formula045 formula046 formula046

 合成アドミタンス formula047 formula047 は、

formula048
formula048

  formula049 formula049 だから、インピーダンス formula050 formula050 が最大になるためには、アドミタンス formula051 formula051

 最小になればよい。そのためには虚数部が0になればよい。

formula052
formula052

  (答) formula053 formula053

 要点 合成アドミタンスは各アドミタンスの和になる。

formula054       ・・・
formula054       ・・・

 この問題をもしもインピーダンスで解こうとすると、実数部分にもCが入ってめんどうな計算になってくる。