このページにおける、サイト内の位置情報は以下です。


社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電圧・電流波形のいろいろ(6) (瞬時電圧低下) (株)高岳製作所 松田高幸

現場実務において様々なトラブルに迅速かつ的確に対応するためには、実際に起こる電圧や電流などの波形を理解しておき、波形からトラブルの内容を絞り込むことが決め手になることが多い。本シリーズでは、現象別の特徴ある波形を解説する。今回は、電力系統で発生する各種事故に伴う瞬時電圧低下時の電圧・電流波形、影響と対策について解説する。

事故時の電圧波形

 前回までの「電圧・電流波形のいろいろ(4)(短絡事故)」、「同(5)(地絡事故)」では電流波形に重きをおいたので、少し電圧波形について解説する。

1.1 短絡事故(3相短絡)

 第1図に3相短絡事故時の電圧波形例を示す。

 このように事故点に近いほど電圧は小さくなる。

1.2 短絡事故(2相短絡)

 第2図に2相短絡事故時の(bc相)線間電圧波形例を示す。

 bc相電圧も事故点に近いほど小さくなる。

1.3 地絡事故(1線地絡)・・・高抵抗接地、非接地系統の例

 第3図に1線地絡事故時の(a相)電圧波形例を示す。

 高抵抗接地系統(66、154kVの特別高圧系統に多い)や非接地系統(6.6kV配電系統に多い)の1線地絡事故なので、事故点電流は中性点接地抵抗によってほぼ決まる。また、ベクトル図のようにa相電圧は事故点にかかわらずほとんど0Vになる(ここでは事故点抵抗を無視している)。

 事故前後のベクトル図のように線間電圧は変化しないので、いわゆる瞬時電圧低下現象は発生しない。

2.瞬時電圧低下

2.1 瞬時電圧低下現象

 変電所とお客さまB間で事故が発生した場合に事故により電圧が低下、その後遮断器で事故除去するが、その間お客さまAで瞬時電圧低下が発生する。

 なお、お客さまBは停電となる。

 第4図で瞬時電圧低下と停電の説明を、第5図で電圧波形例を示す。

2.2 機器の瞬時電圧低下耐量

 機器の瞬時電圧低下耐量を第6図に示す。

 この中で、パワーエレクトロニクス応用可変速モータに着目すると、15%程度の電圧低下が0.01秒程度継続すると停止などの影響が発生することが分かる。

 また、電磁開閉器(マグネットスイッチ)に着目すると、50%程度の電圧低下が0.01秒程度継続すると停止などの影響が発生することが分かる。

 故障発生から除去までの電圧低下時間は、どんなに早い場合でも0.07秒程度なので第6図に示すように多くの機器が影響を受けることになる。

 154、66、6.6kVなどの電力系統では、電圧低下時間が更に長くなる。

 お客さま1軒当たりでは地域や年によって大きく異なるが、年に数回程度のようである。

 影響を受ける機器は、第6図は一部であり、実際は様々なものがある。

2.3 マグネットスイッチ(電磁開閉器)の対策例

 第7図にマグネットスイッチ(電磁開閉器)の対策例を示す。

 この図に記載のとおり、電圧が50%程度以上低下し、継続時間が0.005〜0.02秒でマグネットスイッチが動作し、モータが停止する。

 この場合の特徴は、電圧低下が50%ということである。10〜20%ほどで停止することはないが、場所によってはモータが圧倒的に多いので、電圧低下幅が50%を超えると被害が甚大になるケースがあるので要注意。

 コンデンサなどを挿入し、若干の電圧低下があってもモータの運転を継続させる、すなわち遅延釈放方式は安価にできることから、対策としては最も進んでいる。また、この効果により瞬時電圧低下時間が長くない場合(0.2〜0.3秒に収まる場合)、モータ停止などの影響がかなり減少している。

2.4 新しい動き(UPS方式、高速開閉器を用いる方式)

 現在広く用いられているUPSによる方法(第8図(a))は性能については申し分ないが、一方で設備やロスの面で高価となる(回路構成面から整流器とインバータが必要)。

 (なお、UPS方式の従来のバッテリーに代えて、NAS電池やレドックスフロー電池などを用いた新しいタイプが逐次実用化されつつある)

 この改善策として、電圧低下発生時に1/2サイクル以下で遮断できる高速開閉器を用いて電力系統から切り離す方法(第8図(b))が採用されつつある。

 (この場合の電源としてもNAS電池やレドックスフロー電池などを用いた新しいタイプが逐次実用化されつつある)

 (高速開閉器としては、サイリスタや真空遮断器などが使用されている)

2.5 新しい動き(コンデンサやフライホイールの活用)

 第9図はコンデンサを用いて、電圧低下を少しでも抑える方法を示す。

 フライホイール(や超電導コイル)を活用した方式についてもしばしば報告されている。

 いずれも短時間だけ低コストで電圧低下を抑える(または補償する)もので、設備的には整流器とインバータを備え、電源周波数に合わせて制御する。

2.6 瞬時電圧低下時の波形例

(1) 影響を受け始める瞬時電圧低下波形の例

 第10図ΔV=10%Δt=0.02秒の瞬時電圧低下波形の例を示す。

 細かくいうと事故発生タイミングなどによって波形は微妙に変化するが、ここでも過渡現象や特有のサージ性電圧などを省略して示している。

(2) マグネットスイッチが影響を受け始める瞬時電圧低下波形の例

 ① 対策なし:第11図に電圧低下50%、瞬低時間0.01秒の例を示している。

 ② 対策あり:第12図に電圧低下50%、瞬低時間0.2秒の例を示している。

(3) UPS方式、高速開閉器を用いる方式

 若干推定が入るが、電力系統側の電圧と対策付きの部分の電圧を第13図に示す。対策付きの電圧は電圧の瞬時低下が極めて少なくなっている。

 事故時の電圧波形例に始まり、瞬時電圧低下に関する諸々の電圧波形例を示したので若干複雑になりましたが、ご理解いただけたものと思います。
 三相回路であり相電圧や線間電圧を細かく示すと一層複雑になるので、ここでは代表的な(実務でよく使う)電圧に絞りました。
 第13図(a)、(b)の電圧は学会誌などでもしばしば報告されるようになりました。瞬時電圧低下に関しては電気協同研究会報告書などを参考に解説しています。お礼申し上げます。