〜終わり〜
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(1) 励磁突入電流のイメージ
第1図は変圧器を充電するときの様子を示している。第1図(a)は充電時の電気回路(実際は三相回路であるが、ここでは簡単のため単相回路で説明している)であり、第1図(b)はこのときの各相電流の波形例である。
このように変圧器を充電するときは、大きな電流が流れる場合があるので注意が必要である。この電流は励磁突入電流、インラッシュ電流などと呼ばれている。
(2) 励磁突入電流の説明
第2図は励磁突入電流の発生メカニズムをもう少し詳しく描いている。
・励磁突入電流は変圧器鉄心の磁束が飽和するため発生する。
・磁束変化は電圧変化によるが、残留磁束があると、その残留磁束を起点に磁束が変化し、その磁束が飽和磁束以上になると過大な励磁電流が流れることになる。
特に残留磁束が大きく、かつ充電時の電圧投入位相によってはすぐに飽和ポイントを超えるので、大きな電流(励磁突入電流)が流れることになる。
(3) 励磁突入電流の補足
更に若干の補足を加える。
① 第2図は励磁突入電流の発生メカニズムを示している。鉄心の飽和特性、残留磁束、励磁突入電流に注意が必要である。
② ここでは省略しているが、大きな励磁突入電流がかなり長い時間流れる。
・励磁突入電流の大きさは、大容量変圧器になるほど定格電流に対する割合は低下する。それでも10MVAの場合でみて、数倍にも達する(詳細は省略するが、片側の波形で比較するか、実行値で比較するかで数値は異なる)。小容量変圧器の場合(例えば、100kVA)、20倍にもなることがある。
・時間が経つにつれて電流は減衰する。継続時間は大容量の場合で1秒程度のオーダに達することがある。小容量の場合は0.03秒程度と減衰が早い。
③ このような励磁突入電流の影響としては以下が考えられる。
・変圧器保護継電器の誤動作などの影響
・励磁突入電流によって近傍の電圧が瞬間的に低下する影響
(いわゆる瞬時電圧低下影響)
・励磁突入電流に含まれる高調波電流による影響
第3図は送電線投入時(充電時)の様子を描いている。
以下に①、②、③の順で電圧、電流の波形例を含めて概要を説明する。
①は送電線投入を意味する。
②はこのときの電流(送電線投入時のサージ電流)で、概略的には以下のような関係で発生する。
サージ電流波形のイメージは第4図のとおりである。
具体的には第5図のような波形例(実測値)がある。
更に③はこの時の母線電圧の状況を意味している。
具体的には第6図のような波形例(実測値)がある。
第6図では上のほうから母線の各相電圧、零相電圧、線路電圧(1号線、2号線)の順になっている。図からみて分かるように、ここでは2号線を投入したときの各部の電圧発生事例である。
詳細は省略するが、このような電圧、電流によって様々な形態のトラブルが散見されるので注意が必要である。
第7図はコンデンサ投入時の電圧変動事例を示す。この例では電圧調整のため「コンデンサ(直列リアクトルは6%)」を投入したときの過渡的な電圧低下状況を描いている。
コンデンサのC(静電容量)は投入直後は短絡状態なので、直列リアクトル6%が投入されたときと同様の電圧低下が起きるのである。このため瞬時電圧低下に敏感な負荷が影響を受けることもある。このような事例も知っていると原因調査が比較的楽になる。
第8図は最近しばしば見受けられるトラブル事例を参考に示したものである。この中で第8図(a)はインバータ機器が接続していないときの回路(単線結線図)と電圧波形を示す。当然ながら、インバータ機器が接続されていないのでV点の電圧はきれいな正弦波になっている。
一転してインバータ機器接続後は、図のように電動機はSW切りの状態でもV点の電圧は大きく乱れている(少し細かくいうと、第5次や第7次の高調波に加えて、高い周波数の高周波が多量に含まれた形になる)。
このようにインバータ機器に起因する高調波や高周波の影響で、様々な形態のトラブルが散見される。ここでの事例ではC、R回路に電流が流れやすくなり最終的にはR破損の形になった。このような簡単なケースでも、メカニズム解明から対策までにかなりの時間を要している。
以上、電力設備の充電時の過渡的な電圧や電流について、事例をもとに発生メカニズムや対策の考え方について解説しました。ここでも電圧や電流の波形例をつかむ・知り得ることが極めて重要になります。知っていれば、早目早目の対応が可能であり、損害防止にも役立つと思います。お役に立てば幸いです。