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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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理論計算の落とし穴(5)複素電力による有効電力・無効電力の計算 東京電気技術高等専修学校 講師  福田 務

電気理論や電力などの計算問題は、電気工学の法則の意味を理解し、幅広く数学の知識を応用して解かなければならないが、試験会場ではあまり時間をかけることはできないため、方針を素早く決定し要領よく計算する必要がある。しかし、その方針次第で落とし穴にはまり、誤答したり時間がかかって解答が求まらないことがある。このシリーズでは、このような落とし穴の例をいくつか取り上げ、計算運用の上手なテクニックを学ぶ。今回は、複素電力による有効電力・無効電力の計算について解説する。

1.(cosθ+jsinθ)がベクトルを動かす

 第1図のように大きさAの実数軸上にあるベクトルを位相角θだけ進めたいと思ったならば、A(cosθjsinθを掛ければよい。いいかえれば、大きさAで位相角θのベクトルZを複素数で表すと、 formula001 formula001 ということになる。つまり、カッコ内の部分を利用すれば、ある大きさのベクトルを自由に位相を変えてやることができる。もし位相角をθ遅らせたい場合には(cosθjsinθを掛ければよいことになる。

 電力計算のテクニックを学習する前に、(cosθ±jsinθがベクトルの位置を支配していることを知っておこう。

 

 〔問題1〕 第2図(a)の交流回路でインピーダンス formula002 formula002 〔Ω〕に電圧 formula003 formula003 〔V〕を加えたら、電流 formula004 formula004 〔A〕 が流れた。この回路の電力 formula005 formula005 〔W〕を求めよ。ただし、 formula006 formula006 formula007 formula007 は第2図(b)のようなベクトルで示されるものとする。

1.電圧 E に電流 I をそのまま掛けても、電力 Pは求まらない

 問題1について、さっそく formula011 formula011 を計算してみることにする。まずベクトル formula012 formula012 を複素数で表してみると  formula013 formula013 formula014 formula014 となる。この2式を使って計算すると結果的にどうなるであろうか。

formula015
formula015

 = formula016 formula016

 = formula017 formula017

 = formula018 formula018

 * この式の展開は三角関数の加法定理の公式による。

formula019
formula019
formula020  
formula020  
formula021            (1)
formula021             (1)

 さて(1)式でEI cos(θ1θ2は実数部分であり、jEIsin(θ1θ2)は虚数部分である。そこで、この(1)式が電力を表すかどうかということが問題である。

 みなさんは、交流の消費電力は電圧の実効値と電流の実効値の積に力率を掛けて求められることを知っているはずである。そこで第3図のこの回路のベクトル図を見てもらいたい。電圧の実効値はE〔V〕、電流の実効値はI〔A〕、そして位相差は(θ1θ2)であるから、力率はcos(θ1θ2)のはずである。 したがって、この回路の電力Pの大きさは P=EIcos(θ1θ2)とならなければいけない。

 

 それでは formula022 formula022 の式のどこがいけなかったのであろうか。(1)式をよく見てもらいたい。実数部分がEI cos(θ1θ2となっているが、ここはEI cos(θ1θ2でなければならない。

 それでは今までの苦労は全部水の泡かというと、そんなことはない。生き返らせる方法があるからご安心。

  formula023 formula023 formula024 formula024 を掛けただけで複素数計算しても、電力を求める式にならないことははっきりしたが、θ2θ2になりさえすればよいのであるから、なんとか formula025 formula025 を改造して formula026 formula026 に掛けてやれば電力を求める式が引き出せそうである。θ2というのは位相角であるから、+記号は進みを表し、−記号は遅れを表す。したがって、第4図のように実数軸からθ2進んだ formula027 formula027 を掛ける代わりに、θ2遅れた formula028 formula028 をわざと formula029 formula029 に掛けてやることにする。

  formula030 formula030 に対して、 formula031 formula031 を共役複素数と呼び、 formula032 formula032 formula033 formula033 となる。こんどは formula034 formula034 を作ってもう一度計算をし直してみよう。

3.EIを改造して、 EIを使えばよい

formula037
formula037
formula038
formula038
formula039               (2)
formula039               (2)

 見事に実数部に消費電力P=EIcos(θ1θ2)が出た。問題1はこれが答となる。

 (2)式をベクトル図で示すと、第5図のようになる。

 

 ベクトル図から判断できるように、実数軸上のP=EIcos(θ1θ2)は有効電力(消費電力)となり、虚数軸上のQ=EIsin(θ1θ2)は無効電力、ベクトル formula040 formula040 の絶対値は皮相電力を表している。 formula041 formula041 は皮相電力の複素数表示であることが分かる。皮相電力をKとして、要点をまとめておくと次のようになる。

 電力の計算では、必ず formula042 formula042 を使うこと。   * formula043 formula043 はダメ

formula044
formula044

 K:皮相電力  有効電力:EIcos(θ1θ2)  無効電力:EIsin(θ1θ2)

 〔問題2〕 第6図の交流回路に  formula045 formula045 の電圧を加えたところ、 formula046 formula046 の電流が流れた。このとき有効電力、皮相電力、無効電力を計算せよ。

 (解説) ウッカリ formula047 formula047 を計算してしまわないように注意すること。

 〔正解〕    formula048 formula048

       有効電力 P=1,000 W

       無効電力 Q= 500 var

       皮相電力  formula049 formula049 VA

       力率  formula050 formula050

 〔問題3〕 第7図の交流回路での消費電力、無効電力、皮相電力、力率を複素数を用いて計算せよ。

 〔正解〕  formula051 formula051 =100 V   formula052 formula052

formula053
formula053

   したがって、 formula054 formula054 を計算する。

formula055
formula055

       消費電力 P=1,200 W

       無効電力 Q=1,600 var

       皮相電力 K= formula056 formula056

       力率 formula057 formula057