〜終わり〜
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電磁誘導現象は電気のあるところであればどこにでも現れる現象である。このシリーズは電磁誘導現象とその扱い方について解説する。今回は、インダクタンスに蓄えられるエネルギーと蓄積・放出現象について解説する。
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第1図(a)のように、自己インダクタンスL[H]に電流i[A]が流れている時、Δt秒間に電流がΔi[A]だけ変化したとすれば、その間にLが電源から受け取る電力pは、
第1図 自己インダクタンスに蓄えられるエネルギー
であり、LがΔt秒間に電源から受け取るエネルギーΔwは、次式となる。
したがって、I[A]が流れているL[H]が電源から受け取るエネルギーWは、
である。このエネルギーはLがつくる周囲の媒質中に磁界という形で保有される。このため、このようなエネルギーのことを磁気エネルギー(電磁エネルギー)という。
第2図の各例では、電流が流れると、それによってつくられる磁界(図中の青色部)が観察できる。
第2図 磁気エネルギーは磁界中に保有される
では、磁気エネルギーが磁界という空間にどのように分布しているか調べてみよう。
【例題1】 第3図のように、巻数N、磁路長l[m]、磁路断面積S[m2]の環状ソレノイドに、電流i[A]が流れているとすれば、各ソレノイドに保有される磁気エネルギーおよびエネルギー密度(単位体積当たりのエネルギー)は、いくらか。
第3図 空心と磁性体入りの環状ソレノイド
[解答] 空心の環状ソレノイドの自己インダクタンスL は、「インダクタンス物語(5)」で求めたように、
なので、L に保有されるエネルギーW0は、
エネルギー密度w0は、
磁性体入りの場合の磁気エネルギーWは、
なので、
磁界中の点Pでは、その点の磁界をH[A/m]、磁束密度をB[T]とすれば、磁界中の単位体積当たりの磁気エネルギー( エネルギー密度)wは、
である。
第4図のように、電流I[A]がつくる磁界中の点Pにおける磁界がH、磁束密度がB、とすれば、微少体積ΔS×Δlが保有する磁気のエネルギーΔWは、
第4図 微少空間の磁気のエネルギー
Iがつくる磁界の磁気エネルギーWは、
となる。ここで、Ψは磁束鎖交数(巻数×鎖交磁束)で、Ψ= nΦの関係にある。
なお、上式で、「ΨはLIに等しい」という関係を使用すると、(16)式は(17)式のようになり、(17)式から(5)式を導くことができる。
【例題2】 磁気エネルギーの計算式である(5)式と(16)式を比較してみよう。
第5図のように、R[Ω]とL[H]の直列回路において、t=0でSを閉じて直流電圧E[V]を印加したとすれば、S投入T[秒]後における回路各部のエネルギー動向を調べてみよう。
第5図
Sを投入してからt[秒]後、回路を流れる電流iは、(18)式であり、第6図において、図中の赤色線で示される。
第6図
したがって、電源からRL回路への供給電力pSは、次式であり、第6図の青色線で示される。
電流による抵抗での消費電力pRは、(20)式となる。(第6図の緑色線)
この結果、Lが電源から受け取る電力pLは、
の関係から、
となる。
この結果、T[秒]間に電源から回路へ供給されたエネルギーのうち、抵抗Rで消費され熱エネルギーとなるのが第6図の薄緑面部WR(T)で、残る薄青面部WL(T)がLが電源から受け取るエネルギーとなる。
したがって、このまま時間が充分に経過すれば、電流は一定な最終値Iに落ち着く。すなわち、電流Iと磁気エネルギーWLは次のようになる。
次に、第7図の回路において、S1が閉じている状態にあるとき、t=0でS1を開くと同時にS2を閉じたとすれば、回路各部のエネルギーはどうなるのか調べてみよう。
第7図
S1を開いた時、RL回路を流れる電流iは、(30)式で示される。
抵抗での消費電力pRは、
したがって、抵抗の受け取るエネルギー は、次式であり、第8図の緑面部で表される。
したがって、 は第5図でLが最終的に保有していた磁気エネルギーWLに等しく、これは『Lが保有していたエネルギーが、Rで熱エネルギーに変換された』ことを意味する。
第8図
以上、第5図と第7図の関係をまとめると第9図となる。
第9図
第9図に示すように、同図(b)の抵抗Rで消費されたエネルギー は、S1開放前にLがもっていたエネルギー(a)図薄青面部の であったことになる。つまり、Lに電流が流れていると、Lはその電流値で決まるエネルギーを磁気エネルギーという形で保有するエネルギー倉庫ということができ、自己インダクタンスLの値はその保管容量の大きさの目安となる値を表しているといえる。
L[H]の自己インダクタンスに電流i[A]が流れている時、その自己インダクタンスは、
の磁気エネルギーを保有している。
【例題3】 第5図のRL直列回路で、直流電圧E[V]、抵抗がR[Ω]、自己インダクタンスがL[H]であるとすれば、Sを投入してから、Lが最終的に保有するエネルギーWの1/2を蓄えるに要する時間Tとその時の電流i(T)の値を求めよ。
[解答]
第10図 基本回路
第10図の回路で、Lに電圧 を加える①と、 が流れる②。
したがって、Lでの消費電力pは、③で、式での計算は、
となる。この電力量Wは、図示の波形面積④の総和で求められる。
図からわかるように、電力量(電気エネルギー)が、π/2-π区間と3π/2-2π区間では電源から負荷へ、0-π/2区間とπ-3π/2区間では負荷から電源へ、それぞれ送られていることを意味する。つまり、同量の電気エネルギーが電源負荷間を往復しているだけであり、負荷からみれば、同量の電気エネルギーの「受取」と「送出」を繰り返しているだけで、「消費」はない、ということになる。したがって、負荷の消費電力量、つまり負荷が受け取る電気エネルギーは零である。このことはpの平均である平均電力Pも零であることを意味する⑤。
第11図のRL直列回路に、電圧 を加える①と、電流iはvより だけ遅れて が流れる②。
したがって、負荷の消費電力pは、③であり、式では、
であり、電力量Wは④となり、電源とRL回路間の電力エネルギーの流れは⑤、平均電力Pは次式で計算され、⑥として図示される。
第11図 RL直列回路における磁気エネルギー
第12図 交流回路における磁気エネルギー
第12図は、抵抗(R)回路、自己インダクタンス(L)回路、RL直列回路の各回路について、電力の変化をまとめたものである。負荷の消費電力pは、(48)式に示したように、
なので、抵抗回路の場合は、①で観察できる。式では、 なので、
となり、平均電力Pは次式となる。
また、L回路の場合は、②で観察できる。式では、 なので、
となり、平均電力Pは次式となる。
また、RL直列回路の場合は、③で観察できる。式では、 なので、
となり、平均電力Pは次式となる。
これら3ケースについて、その特徴を図からよく観察していただきたい。
第13図 相互インダクタンス回路の磁気エネルギー
第13図のように、自己インダクタンスL1[H]とL2[H]があり、両者の間に相互インダクタンスM[H]がある回路では、自己インダクタンスが保有する磁気エネルギーWL[J]は、(16)式の関係から、
相互誘導作用による磁気エネルギーWM[J]は、(16)式の関係から、
回路全体で保有する磁気エネルギーW[J]は、
となる。
1.磁気エネルギーとは
2.磁気エネルギー密度・・・・・・・・・・・・・・(13)式。
3.磁気エネルギー計算(回路計算式)・・・・・・・・第1図、(5)式、ほか。
4.磁気エネルギー計算(磁界計算式)・・・・・・・・第4図,(16)式。
5.直流回路の磁気エネルギー計算・・・・・・・・・・第5図〜第9図、(36)式、ほか。
6.交流回路の磁気エネルギー計算・・・・・・・・・・第10図、第11図、(48)式、ほか。
7.直流回路と交流回路における磁気エネルギーの性質・・第12図ほか。
8.相互インダクタンス回路の磁気エネルギー計算・・・第13図、(62)式、(64)式。