〜終わり〜
■ぜひアンケートにご協力下さい■
変流器(CT:current transformer)はある電流値をほかの電流値に変成するもので、第1図に示すような一次側の大きな電流を二次側に接続される計器や保護継電器が扱いやすいように小さな値に変成する。
(メモ)1:変流器(CT)は計器用変流器(以下、計器用CTという)と保護継電器用変流器(以下、保護用CTという)に大別される。
一次電流I1、二次電流I2、変流比KCとの関係は(1)式となる。
第1図で例えば、一次電流I1 = 4,000A、変流比KC = 2,000/5の場合、二次電流I2 =10Aとなる。すなわち、4,000Aもの大きな電流値を10Aに変成することになる。計算式は(2)式のとおりである。
なお、ある電圧値をほかの電圧値に変成するものを電圧変成器(VT:voltage transformer)という。第2図に簡単な回路例を示す。
一次電圧V1、二次電圧V2、変成比KVとの関係は(3)式となる。
第2図で例えば、一次電圧V1 = 6,000V、変成比KV = 6,000/110の場合、二次電圧V2 = 110Vとなる。計算式は(4)式のとおりである。
(1)定格電流
定格一次電流I1n 及び定格二次電流I2n があり、例えば定格一次電流2,000A、定格二次電流5Aのように表す。
(2)変流比(KC)
定格一次電流I1n と定格二次電流I2n の比をいう。KCは(5)式で表される。
(3)定格負担
変流器の二次回路に接続された負荷(例えば、計器や保護継電器など)である。 定格二次電流I2n が流れたときのボルトアンペアで表す。負担のインピーダンスをR (=2Ω)、定格二次電流をI2n (=5A)とすると、定格負担(VA )n は50VAとなる。
(4)比誤差
公称変流比(前述のKC )がどれだけ真の変流比Kより異なるかを示したもので、(7)式で表す。
(5)過電流強度
変流器の一次側に定格一次電流I1n に比べて過大な電流が流れたとき、電気的・機械的に耐える限度の保証電流値を示す。
(6)過電流定数
一次電流が定格一次電流より大きいときの性能を表す定数である。計器や保護継電器にとって、一次側に過大電流が通過するときのCT性能を示すもので、重要となる。一般に「過電流定数n」として表す。
具体的には比誤差が10%になる一次電流と定格一次電流の比で表している。したがって、nが10ということは定格一次電流の10倍までは比誤差10%以内ということになる。比誤差10%を許容できる場合は、一次電流がn ・I1n までは問題ないといえる。
(メモ)2:このあたりがCTを良く理解するうえで難しいところである。
どの程度まで許容するかといっても、計器用CTと保護用CTでは大きく異なる。更に細かくみると、電圧や電流の波形が単なる正弦波ではないことにも注意が必要である。
(1)標準CT
ほかのCTの試験に使うなど比誤差をほとんど無視できる極めて精密なものをいう(0.1級、0.2級がある。0.1級は比誤差が0.1%以下を表す)。
(2)計器用CT
電気の計測に用いるものをいう。一般には定格電流以内の計測が多いが、事故記録のための計測のような場合は定格電流より大きい範囲の性能が問題になる。
(3)保護用CT
送配電系統などの保護継電器に用いるものをいう。計器用CTの多くは定格電流以内を主対象にしているのに対し、保護用CTの多くは系統事故時の大電流域を主対象にしている。
保護継電器といっても最近はいろいろの方式があり、CTの特性(仕様)も大変複雑化している。
(4)補助CT
前述の計器用CTや保護用CTの回路に第3図に示すように補助CT回路を加えることがある。第3図の主CT(メインCTともいう)は計器用の場合が多いが、保護用CTの場合もまれにある。詳細は後述するが、補助CTの目的、主CTの目的などによって注意すべきことが多い。
(1)計器用CTの留意事項
㈰ 定格電流以内の誤差を考慮し、一般的には1.0級(場合によっては3.0級)が用いられる。
㈪ 一般的には過電流定数nは小さめとし、5〜10が多く用いられている。系統事故時の大きな電流も極力正しく計測したい場合にはnを20程度とする例もある。
㈫ 過電流強度は系統事故時の最大電流でもCTが損傷しないようにする。
(2)保護用CTの留意事項
㈰ 過電流定数としては事故時の大きな電流を考慮して決定する必要がある。一般にはnは20程度である。一方、大電流域での誤差を小さくする必要がある場合はn =40〜120を選定する例もある。
(メモ)3:このようなCTを一般的には過渡特性付きCTといい、事故電流中の直流分の影響も考慮している。製作面ではギャップ付き鉄心の採用によって残留磁束を極端に軽減するなどいろいろな配慮がなされている。
㈪ 負担の大小も大電流域での性能を大きく影響するため、CTの定格負担は接続される保護継電器の負担の大きさを考慮のうえ選定している。
㈫ 過電流強度については計器用CTと同じである。
第1表に計器用CTと保護用CTの特性(仕様)例を示す。
(3) 補助CTの留意事項
㈰ 全体的にみて大事なことは補助CTの使用目的である。計器用補助CTの場合は前述の計器用CTの留意事項に似たものとなる。注意すべきことは計器用とはいっても事故電流まで極力正しく計測したい場合である。n を大きくし過ぎると、主CTに悪影響を及ぼす場合がある。
㈪ 例えば、第4図(a)に示すように一次側回路に事故が発生し、過大電流通電時に補助CTの過電流定数が大きいと(例えば、n >20など)補助CT回路の計測は問題ないが、主CT回路にとっては誤差が増大するので影響を受けることになる。
このような場合、主CT回路と補助CT回路のそれぞれの目的、所要性能について検討しておくことが望ましい。
(メモ)4:過大電流通電時の補助CTの影響については第5図に簡単な説明を加えている。なお、前述の補助CTのnの考え方は主に電流の大きさ(例えば、実効値ベース)で扱う場合であり、波形ベースで扱う場合は、主CTと補助CTの両者のn は計測したい範囲以上とし、CTの負担も考慮して検討する必要があることに注意する。
㈫ また、第4図(b)に示すように補助CT回路が万一オープンになった場合にも、過電流定数n が大きいと前述と同様な問題が発生する。
(メモ)5:n が大きいほど第5図のZ3 が大きい(すなわち、Z3 にかかる電圧が大きい)ので、その分主CTの負担が大きくなり、結果として誤差が大きくなる。
㈬ 補助CTはいろいろな場面で数多く使用されているが、このように技術的に注意すべきことが多い。主CT回路への影響を少なくするため、安易に過電流定数n を小さくする(例えば、n >5)とすると、補助CT回路の計測などがうまくいかないことがある。
㈭ したがって、補助CTの過電流定数n をどの程度にすべきか難しいが、一般的には、n >10程度が無難のようである。
㈮ n>10とn>20の場合の補助CTの設計例では、n>10のとき総重量11kgに対して、n>20では21kgにもなる。コストは約1.8倍になる。
㈯ ここでは過電流定数n を主対象に留意事項を説明しているが、ほかは計器用CTと同様な考え方となる。
参考1:鉄心飽和する場合のCTの二次電流について
CT鉄心が磁束飽和する場合についての詳細な説明は難しくなるので、ここでは定性的に簡単な説明をする。
第6図はCT回路と等価回路及び励磁インダクタンス(L0)の特性を示したものである。
鉄心飽和によって影響されるのはL0であり、簡単化して示すと第6図(c)のような特性となる。L0は、磁束φ、励磁電流I0とすると、次式のように表される。
L0は鉄心未飽和の場合は非常に大きく、飽和した場合は非常に小さくなる(第6図(c)では未飽和域は 、飽和域は で示してあり、L0》L0′となる)。
鉄心飽和した場合は、正弦波ではないためL0 を単純なインピーダンスとはみなせないが、仮にインピーダンスと考えると、R2 より非常に小さな値になり、第6図(b)で理想CTからの二次電流がL0 側にも流れ、R2 に流れる電流が減少することになる。すなわち、理想CTとした場合の二次電流I2 より小さな電流となり、誤差が生ずることになる。
第7図に鉄心未飽和時はL0 =∞、飽和時はL0′=0とした場合の電流波形の例を示す。これから鉄心飽和すると、二次電流は正弦波形の一部が欠けたような電流になる。
参考2.CTの過電流特性例
CTの過電流特性の例を第8図に示す。
CT比誤差の原因は主に鉄心の励磁特性であり、前述したようにL0 に電流が流れ、一次電流と二次電流とが比例しなくなるためである。
なお、過電流時の二次電流波形は第7図は一次電流過大で極端な例であるが、正弦波ではないひずみ波形となる。このため第8図に示す二次電流の値は単純な正弦波形の実効値ではないことに注意する必要がある。
補助CTは計器用CTと保護用CTとの関係が深いので、ここではこれらと併記する形で解説した。補助CTの過電流定数nを大きくした場合の、主CT側への影響(第4、5図)については難しい式は使用せず定性的な見方で解説した。
補助CTについては実務上苦労している人が多いと思うが、少しでも役に立てば幸いである。