電力系統には、系統各部の電圧と無効電力の分布を調整するため、発電機の自動電圧調整器や負荷時タップ切換変圧器、電力用コンデンサなど、さまざまな機器が設置されています。本講では、供給電圧を電気事業法に規定された許容変動範囲以内に収めるだけではなく、このように系統各部の電圧や無効電力をきめ細かく制御する目的と、制御方法について解説します。
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(1) 負荷供給地点での供給電圧の維持
・電力系統の供給場所における電圧の許容幅(電気事業法)
標準電圧100ボルト回路;101±6ボルト以内、標準電圧200ボルト回路;202±20ボルト以内
・電気機器はこの電圧変動範囲を前提に設計
低すぎる;電動機の効率低下や停止、照明の照度低下など、
高すぎる;寿命の短縮、過励磁による温度上昇など
・高圧系統、特別高圧系統の電圧
法的な規制はないが、変動幅が概ね5%以内におさめるように運用
(2) 送配電損失の低減
・送電線、配電線の電力損失(主としてジュール損 I2R)は、電流の2乗に比例
・電力系統の電圧を適正に維持
電圧が低下すると、同じ電力を送電するにも電流が増加し、送配電損失が増加
・送電線、配電線を流れる無効電力を低減
負荷は有効電力だけではなく、無効電力(通常は遅れ無効電力)が必要
送配電線に電流が流れると遅れ無効電力を消費、電圧印加で進み無効電力を消費
系統各部の無効電力消費量に応じ、無効電力供給機器を各所に配置
(3) 送電系統の電力の安定送電、電圧安定性の維持
・系統電圧が零になると負荷端にはエネルギーは送れない
・送電線が安定に送電できる限界電力は系統電圧の2乗に比例、重負荷時は電圧高め運用
・電圧安定性の面でも、重負荷時は負荷端電圧が下がり、これを維持できないと電圧崩壊
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インダクタンスLに正弦波交流電流iを流すと、そのまわりに交番磁界ができ磁気エネルギーの蓄積放出が繰り返されます。
第1図は逆起電力eと電流iの瞬時値及び瞬時電力p=eiの波形を示しています。
瞬時電力pは,電圧eが1サイクル変化する間に2サイクル変化します。pが正の期間はインダクタンスにエネルギーを蓄積,pが負の期間はインダクタンスから放出されたエネルギーが電源に返還されます。
蓄積エネルギーと放出エネルギーは同量なので,電圧eの1サイクル分のエネルギーを平均すると零なので損失は生じません。
静電容量Cに正弦波交流電圧eを印加した場合についても,電極間に交番電界が生じ静電エネルギーが蓄えられます。この場合も,瞬時電力pは電圧eが1サイクル変化する間に2サイクル変化してエネルギーの蓄積と放出を繰り返し,エネルギー損失は零になります。
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第1図 インダクタンスの瞬時電力波形
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このように、電圧と90度位相の異なる電流により、電源と素子との間で電圧eの1サイクル当たり2回ずつエネルギーをやりとりする成分を無効電力と呼び、瞬時電力の最大値で表します。
電圧、電流の実効値をE、I、位相角をθとすると、無効電力Q はEI
sinθになります。
無効電力は、電流の位相が電圧に対して遅れるか進むかで符号が変わりますが、一般には電流が電圧に対して遅れる場合の無効電力を正と定義します。
電力の分野では,‘無効電力の発生(供給)’,‘無効電力の消費’という用語が用いられます。
「無効電力の発生」
その機器を無効電力供給源と考え,電力系統に機器側から遅れ無効電力を供給
「無効電力の消費」
その機器を無効電力負荷と考え,電力系統から機器に遅れ無効電力を供給
この関係を第2図に示します。
電力用コンデンサやケーブルの対地静電容量は進み無効電力を消費する負荷ですが、遅れ無効電力で考えれば機器側から電力系統に遅れ無効電力が供給されるのと同じなので,単に無効電力の発生源と呼ぶことができます。
これは,電源から電力系統側に遅れ無効電力を供給するのと同じ効果であり,系統電圧を高める働きをします。
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第2図 無効電力の発生、消費
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!! 交流回路では、電流が流れると電圧が上昇する場合がある
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直流回路では、電流が流れると、電気抵抗の電圧降下により、電圧は必ず低下します。
交流回路では、インダクタンスの逆起電力は電流より90度位相が進み、静電容量では極間電圧は電流より90度位相が遅れるので、必ずしも電圧が低下するとは限りません。
第3図は,直列インダクタンスに電源電圧e に対して90度遅れの交流電流iが流れた場合の逆起電力を示しています。インダクタンスの逆起電力は電流よりも90度位相が進むので,電源電圧eとインダクタンスの逆起電力eIは同相になるので、系統電圧v
は下がります。電流が90度進み位相の場合は,逆起電力は逆位相になるので、系統電圧は電源 電圧よりも高くなります。フェランチ効果と呼ばれている現象です。
一般に,遅れ力率の負荷が多いので,負荷の増加に伴い系統の電圧は低下します。
地中ケーブル系統の場合はケーブルの対地静電容量が大きく進みの無効電力を消費(遅れ無効電力を発生)するので軽負荷時は進み電流となり,系統電圧は上昇します。
同期発電機についても,電機子電流が遅れ電流の場合は減磁作用(電機子反作用の一種)により界磁の作る主磁束が打ち消されて誘導起電力が低下し端子電圧が下がります。
逆に,進み電流の場合は増磁作用(これも電機子反作用の一種)により誘導起電力が増加し端子電圧は高くなります。
電機子反作用による誘導起電力の変化はリアクタンスに遅れ又は進みの交流電流が流れた場合の系統電圧の変化と同じなので,漏れリアクタンスと併せて発電機の誘導起電力に直列接続した内部リアクタンス(同期リアクタンス)として扱われています。
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第3図 90度遅れ電流によるインダクタンスの影響 |
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電力系統の電圧・無効電力を制御する方法としては、誘導起電力を調整する方法と、無効電力を調整する方法があります。
(1) 誘導起電力を調整
a.同期発電機・同期調相機の励磁制御;同期調相機は、機械的出力零で運転する同期電動機です。エネルギー変換の向きは異なっても、無効電力については同期発電機と全く同じです。
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(励磁を強める制御) 第4図(b)
同期機の内部誘導起電力が大きくなり、電力系統側の電圧より大きくなると、同期機側からに電力系統に向かって90度遅れの電流が流れ、遅れ無効電力を供給します。
その結果、系統電圧はEsからEmに上昇します。この状態を同期調相機すなわち負荷の電動機として考えれば、
「電力系統側から電動機に90度進みの電流が流れ、進みの無効電力を消費」
= 電力用コンデンサを投入と同等
(励磁を弱める制御) 第4図(c)
同期機の内部誘導機電力が小さくなり、電力系統側の電圧よりも小さくなると、同期機側から電力系統に向かって90度進みの電流が流れ、進み無効電力を供給します。
その結果、系統電圧はEsからEmに低下します。
この状態を同期調相機すなわち負荷の電動機として考えれば、
「電力系統側から電動機に90度遅れの電流が流れ、遅れの無効電力を消費」
= 分路リアクトルを投入と同等
b.変圧器のタップ制御;変圧器の変圧比を変えて誘導起電力を調整するものです。
変圧器を停止せずに負荷を接続したままでタップを切り替えることができるように、負荷時タップ切換付変圧器が用いられます。
c.配電線の自動電圧調整器(SVR);配電線亘長が長くて、配電用変電所の送出し電圧の調整と負荷端の柱上変圧器等のタップ(固定)、配電線の太線化では線路全体の電圧を許容値以内に収められない場合に、線路途中に設けられます。
(2) 無効電力潮流を制御
変電所に設置される機器としては、電力用コンデンサ、分路リアクトル、静止形無効電力補償装置(以下、SVCと呼ぶ)があります。同期調相機も上述のように励磁制御により誘導起電力を制御するものですが、無効電力調整専用なので調相設備のひとつです。
電力用コンデンサや分路リアクトルは入切の段階制御なので、系統の短絡容量に応じて単機容量を選定し、電圧変動幅が適当な範囲以内に収まるようにします。
SVCの基本構成を第5図に示します。固定コンデンサと並列に、逆並列接続したサイリスタの位相制御により電流を制御するリアクトルを接続したもので、進みから遅れまで連続的に、かつ高速に無効電力を制御することができます。
第1表は、変電所の調相設備の比較を示します。
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第5図 SVCの基本構成と電圧・電流波形
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