このページにおける、サイト内の位置情報は以下です。


社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
系統連系技術(2010)第3回 今後の課題、長期的見通し 小山工業高等専門学校名誉教授、工学博士、技術士(電気電子部門) 甲斐 隆章

太陽光発電など再生可能エネルギーの大量導入に伴う課題と取り組みについて、2016年8月に発行された「系統連系規程JEAC 9701-2016」の内容やFRT要件、「再生可能エネルギー特別措置法施行規則」について解説、また、太陽光発電設備が急増したことによる系統側に与える現象やその対応策等についても紹介します。

1.Q(質問)

 近年、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーが大量に導入されていますが、それに伴う系統連系面の課題と取り組み状況について解説をお願いします。

2.A(回答)

 「第2回 技術面の動き」では、分散型電源の系統連系技術に関するガイドライン、規程等の昭和61年から平成22(2010)年までの制・改定の動き、および分散型電源の増加を見越し、長期的な見通しのもとに検討の遡上に挙げられた技術的諸課題について解説されています。そこで、今回は、再生可能エネルギーの大量導入に伴う課題と取り組みを中心に、「系統連系規程」の改訂や「再生可能エネルギー特別措置法施行規則」の一部改正について解説します。

 平成22年度末の太陽光発電の累計導入量は360万kWでしたが、平成29(2017)年3月末にはその10倍を超える3,850万kWが導入され飛躍的に増大しました。これは、平成24年7月に施行された「再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)」の効果によるものです。

1.系統連系技術要件ガイドライン、電気設備の技術基準の解釈、系統連系規程

 系統連系技術要件ガイドラインはコージェネレーションなどの分散型電源(電気設備の技術基準の解釈の第220条では一般送配電事業者など以外の者が設置する発電設備等であって、一般送配電事業者が運用する電力系統に連系するものと定義)を電力系統に連系する場合の技術要件として昭和61(1986年)8月に制定されました。このガイドラインは平成16(2004)年10月に電圧、周波数等の電力品質を確保していくための事項及び連絡体制などの考え方を示す「電力品質確保に係わる系統連系技術要件ガイドライン」と主に保安面について規定した「電気設備の技術基準の解釈」に整理されて現在に至っています。分散型電源の系統連系にあたり、設置者と一般送配電事業者との間では電力品質の確保や保安維持のため、このガイドラインや電技解釈に基づいて、連系協議が行われますが、これらに記述されている内容について詳しく解説したものが日本電気協会によって刊行された「系統連系規程」です。

 前身は、平成4(1992)年に系統連系技術要件ガイドラインに対応して発行された「分散型電源系統連系技術指針JEAG 9701-1992」ですが、ガイドラインの上記整理に伴い、平成18(2006)年に「系統連系規程JEAC 9701-2006」として発行されています。これが標準的な連系協議資料とされており、電気設備の技術基準の解釈やガイドラインの改正などに対応して改訂されています。

 新しい改訂版が発行されるには時間を要するためにその改訂内容については逐次追補版が公表されています。平成22(2010)年から平成27(2015)年までに10版の追補版が公表されましたが、その中で再生可能エネルギー大量導入に関する規定は表1に示すように、分散型電源の事故時運転継続要件(FRT要件:Fault Ride Through)と低圧配電線へ連系される太陽光発電設備の新型能動的方式に関する規定や電圧上昇対策として力率一定制御に関する規定及び配電用変電所バンク逆潮流の制限に関する規定の緩和策です。

(1)FRT要件

太陽光発電設備などが大量に連系された場合において、瞬時電圧低下などによってこの発電設備などが一斉に解列されると供給力不足となり周波数や電圧が不安定となって系統安定度が低下するなど電力品質に悪影響を与える恐れがあります。このため最初に、低圧配電線連系の単相太陽光発電設備に対して、瞬時電圧低下時の運転継続や電圧復帰直後の速やかな出力復帰特性及び周波数変動時の運転継続(FRT要件)に関する規定がJEAC 9701-2010の平成23(2011)年追補版1で公表されました。電圧低下耐量と周波数変動耐量に対するFRT要件を第1図(a)、(b)に示します。また、高圧・スポットネットワーク・特高連系に対する太陽光発電設備及風力発電設備のFRT要件に係わる規定が、平成24(2012)年8月開催の第68回日本電気技術規格委員会の承認内容として追加されました 。さらに、低圧・高圧・スポットネットワーク・特高に連系される単相及び三相の蓄電池設備、燃料電池発電設備及びガスエンジン発電設備のFRT要件に関する規定が平成25(2013)年追補版1で公表されました。

(2)新型能動的方式

低圧配電線へ大量の太陽光発電設備を連系するために開発されたのが新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)です。この方式に関する規定が平成23(2011)年追補版1で公表されました。その方式概要を第2図に示します。

従来、系統地絡事故や高圧配電線において高低圧混触事故が生じても、変電所側でその事故を検出し電源を切り離せば、その負荷系統側に分散型電源が連系されていても発電力<需要であるため、単独運転検出機能(能動的方式+受動的方式)により分散型電源を解列して単独運転を防止することができました。これにより、高低圧混触事故が生じても1秒以内に事故除去することが可能になり、電技解釈第17条及び第24条に定められているB種接地工事の接地抵抗値を高低圧混触事故時の接地点の電位が600Vを超えない値に緩和することが可能です。しかし、太陽光発電設備が大量に連系された場合においては高低圧混触事故によって生じた単独運転に対して、従来型能動的方式ではこの方式同士の相互干渉によって事故発生から1秒以内に事故除去することが困難となります。この問題を解決するために開発されたのが新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)であり、この方式に関する規定が平成23(2011)年追補版1で公表されました。その方式概要を第2図に示します。

(3)力率一定制御

分散型電源の連系容量が増加すると逆潮流によって配電線の末端側の電圧が上昇して従来の電圧制御装置であるSVR(Step Voltage Regulator:自動電圧調整器)などによって低圧配電線の電圧を電気事業法で定められた適正値(標準電圧100Vに対して101±6V、標準電圧200Vに対して202±20Vの範囲内)に維持することが困難となります。このため、高圧配電線の電圧上昇対策としてPCS(パワーコンディショナシステム)による力率一定制御が2013年追補版2で規定され、また低圧配電線の電圧上昇対策として同様に力率一定制御が2015年追補版1で規定されました。これに関して2014年5月に東京電力から公表された高圧配電線の電圧変動対策に関するお願いを第3図に示します。

(4)配電用変電所バンク逆潮流の制限の緩和策

配電用変電所においてバンク単位で逆潮流が発生すると系統側の電圧管理面での問題が生じるおそれがあることから原則として分散型電源の連系によって逆潮流が生じないようにすることが必要です。ただし平成25(2013)年5月の電技解釈の改正により配電用変電所バンク逆潮流制限に関する規定が見直されたことで、バンク逆潮流を生じさせない原則は変わらないものの、第4図に示すように上位系事故に対する保護継電装置の設置及び配電用変電所や配電線に電圧調整装置を設置するなどの対策を講じることによりバンク逆潮流が可能になりました。これに関する規定が平成26(2014)年の追補版1で公表されました。

2.「再生可能エネルギー特別措置法施行規則」の一部改正による出力制御ルールの見直し

平成26年11月末現在の「再生可能エネルギー特別措置法施行規則」では500kW以上の太陽光発電設備などに対して年間30日までの出力制御が無補償で可能です。
しかし、北海道電力、東北電力、九州電力の太陽光発電設備の全接続申込み量について表2に示すように30日出力制御枠(日ルール)の限界に達しています。このため、

再生可能エネルギーの最大限導入を図ることを目的に再生可能エネルギー特別措置法施行規則及びその関連告示の一部改正が行われて平成27年1月から施行されました(経済産業省令第3号、経済産業省告示第5号)。省令改正後の出力制御ルールは小規模設備(500kW未満)にも出力制御を適用し、年30日の日ルールを時間ルール(太陽光:年360時間、風力:年720時間)へ変更して、さらに、接続可能量を超過した一般送配電事業者に対しては年間30日以上の無補償での出力制御(指定ルール)を条件に合意する場合には接続義務が課せられます(指定電気事業者制度)。一般送配電事業者毎で受入れ状況が異なるために、太陽光発電に関する新しいルールの適用時期は表3の通りとなります。

その後、出力制御の関するルールやその遵守状況をチェックする仕組みの整備や、指定電気事業者制度における出力制御期間の見込みなどが公表されており、九州電力から平成29年10月に公表された指定電気事業者としての太陽光発電設備の追加接続量は表4の通りです。

3.電源接続案件募集プロセス

分散型電源を電力系統へ連系するにあたり、特別高圧系統の増強が必要となり、系統連系に必要な工事費負担金が高額となる場合があります。この場合、この系統に近い複数の発電事業者間で希望により工事負担金を共同で負担する電源接続案件募集プロセスが平成27(2015)年4月から電力広域的運営推進機関により新たに制定されました。募集プロセスの開始要件として、系統連系工事に特別高圧送電線の増強工事が含まれていることと工事負担金が2万円/kWを超過することです。

4.留意事項

太陽光発電設備などが急増すると共に以下のような事象が発生しており、更なる対応策が講じられています。

(1)能動的方式による電圧フリッカの発生

分散型電源の単独運転は保安や電力品質などの面で悪影響を及ぼすため単独運転検出機能(能動的方式及び受動的方法)によって速やかに防止されなければなりません。 太陽光発電設備のPCS(パワーコンディショナシステム:逆変換機能と系統連系保護機能が一体化されたシステム)などに適用されている能動的方式においてはいかなる条件に対しても単独運転を検出できるように常時、能動信号を制御系に与えておきます。しかし、この信号によって系統運用時に無効電力の変動が生じると電圧フリッカが発生することがあるので、系統連系規程で定められているようにこの電圧値についてはちらつき視感度曲線から換算された10Hz変動値ΔV10を0.23V(標準電圧100V)以下にしなければなりません。

前述の新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)の周波数フィードバック部の特性を第2図に示しますが、周波数変動に応じて無効電力を系統から注入します。このため無効電力の注入ゲインが高いと、系統周波数変動による無効電力の変動量が大きくなり、これによって生じる電圧フリッカが許容値を超えることがあります。このため九州電力の10kW以上の低圧太陽光発電事業者に対しては無効電力の注入ゲインの設定変更を求めるなど電圧フリッカ抑制対策が実施されています。

電圧フリッカ発生対策について、詳しくは日本電機工業会のJEM 1498(分散型電源用単相パワーコンディショナの標準形能動的単独運転検出方式、2012年8月27日制定、2017年12月15日第3回改正)に述べられています。これによると従来の新型能動的方式に対して新たに無効電力発振予兆機能(系統周波数変動の継続監視によって電圧フリッカの発生を予兆)と単独運転発生予兆機能(高調波電圧の急増監視によって単独運転の発生を予兆)が設けられています。無効電力発振予兆が検出されない場合には、能動機能通常状態に遷移してこれまで通りに系統周波数の変動に対して周波数フィードバック部において設定された第1段目ゲインと第2段目ゲインに応じて無効電力が系統へ注入されます。この予兆が検出されると、能動機能待機状態に遷移して第1段目ゲインと第2段目ゲインが共に零となり系統へ注入される無効電力が零になるので電圧フリッカの発生が防止されます。この状態で単独運転発生予兆が検出されると能動機能通常状態へ遷移して単独運転が検出されます。

また、従来型能動的方式の無効電力変動方式などでもこの問題が生じることがあるので、能動信号の設定値については所定の単独運転検出時間が得られると共に、系統連系時の電圧フリッカを許容値以下にしなければなりません。

(2)電源脱落時の周波数低下によるUFR(周波数低下リレー)の不要動作及び系統擾乱時の受動的方式の不要動作

基幹送電線事故時の大容量電源脱落によって生じる周波数低下時に分散型電源がUFRにより一斉解列されると、系統全体の周波数維持に大きな影響を与える可能性があるので、それを防止するために、系統連系規程においてはFRT要件が規定されています。周波数変動の下限値は周波数低下リレー(UFR)の整定値50Hz系統では47.5Hz、60Hz系統では57Hzです。

太陽光発電設備に対するこの要件の適用開始時期は、三相PCSに対しては2014年4月、単相PCSに対しては2017年4月とされました。しかし、PCSメーカーでの機種の設計変更や検証試験に要する期間を考慮しなければならないため日本電気工業会と電気事業連合会とで協議した結果、高圧・特高連系の三相PCSに対するFRT要件の適用開始時期については2014年10月(猶予期間6ヶ月)、それ以外のPCSのそれについては2017年4月とすることで合意致しました(出典:「太陽光三相PCSのFRT要件適用開始時期について」日本電気工業会2014年1月29日)。このようにFRT要件は規定されたもののこれをPCS製品へ適用する間、太陽光発電設備の普及は急激であったため、2014年11月末現在でその設備の累積導入容量は非住宅用で1,270万kW、住宅用で750万kWに達しました(2017年3月末現在ではそれぞれ2,900万kW、950万kW)。このような経緯からFRT要件が適用されていない太陽光発電設備が連系されているために電源脱落時の系統周波数低下によって分散型電源のUFRが不要動作する事象が発生しています。

系統連系規程の2014年追補版2において、①FRT要件と保護リレー整定値との整合性の明確化及び、②FRT要件と単独運転検出機能の受動的方式との整合性に関する規定が追加されました。①についてはUFRの整定値は47.5Hz(57Hz)とし、②については新型能動的方式であっても、能動的方式と受動的方式の両方で単独運転を検出することを確認し、FRT要件の適用を受ける発電設備等は、単独運転防止要件とFRT要件の両立を図る必要があり、上位系擾乱時の系統変化の違いを捉えるため検出アルゴリズムを工夫することで両立することが明確にされました。

風力発電と太陽光発電のFRT要件の相違点を第5図に示します。

(3)系統安定度の維持

同期発電機においては発電機間で位相差が生じると有効横流が流れて位相差を小さくする同期化力が働き系統は安定方向に向かいます。しかし太陽光発電設備などのインバータ電源には同期化力が働かないために、インバータ電源の比率が高まるにつれて系統安定度の維持が課題となります。