(1)概要
系統に発生する持続性過電圧開閉サージ、雷サージなどの異常電圧が要因となる。これらの異常電圧がきっかけを作り、常時の運転電圧が劣化を進行させる。
特に、絶縁体中に異物やボイド、内外半導電層と絶縁体間の層ばなれによるギャップ、布設工事中に働くストレスによって生じたクラックなどがあると電圧が低くても、部分放電(コロナ放電)が発生する。この放電の繰り返しにより徐々に絶縁体が侵食され、最終的に絶縁破壊に至る。
また、ケーブルに突起などがあると局部的に高電界の部分ができトリーの発生源となって、これが進展して絶縁破壊につながる。
(2)部分放電とは
部分放電は局部的な放電現象をいい、第1図のようなCVケーブルの絶縁体中のボイド(気泡)やギャップに発生する。
第2図のように空気と固体絶縁体の複合系に電圧をかけると、低い電圧でも絶縁破壊の強さが低い空気層が先に放電する。そして、この部分放電の繰り返しにより、第3図のような先端の鋭いくぼみ(ピット)のようなものが形成されると、そこに放電が集中し、先端の電界が高まって樹枝状(トリー状)の絶縁破壊を生じる。いったんトリー(樹枝状の破壊痕跡)が発生すると、そこに空気層ができ、そこでの部分放電が関与しながら長く伸 びていく。
(3)トリーの進展
トリーが成長する現象をトリーの進展といい、第4図のようなモデルが考えられている。
トリーの進展形態は材料、電圧などにより変化し、第5図に示すような樹枝状トリー、ブッシュ状トリー、まりも状トリーがあるが、樹枝状トリーが最も進展しやすく、その他は比較的伸びにくい性質がある。また、トリーの太さは通常、数ないし数100〔μm〕の微細な中空の管から成り立っている。
ポリエチレンおよび架橋ポリエチレン(CV)ケーブルの絶縁体中に侵入した水と異物やボイド、突起などに加わる局部的な高電界との相乗作用によって、トリー状の欠陥が発生・進展し、ケーブルの絶縁寿命が著しく低下する。このトリ−を電気的トリーと区別する意味で水トリーと呼んでいる。
【解説】
水トリーとは水分と電界の共存下で樹枝状に成長していく白濁部をいう。
水トリーの発生要因は第6図のように、絶縁体中に侵入した水と異物、ボイド、突起などの欠陥に加わる局部的電界集中の相乗作用によるもので、電気トリーに比べてきわめて低電界で発生する。
水トリーの形態はさまざまであるが、発生の起点により内導水トリー、ボウダイ状水トリー、外導水トリーと呼ばれている。内導水トリーおよび外導水トリーは、内外半導電層に導電性テープを用いた場合が多く、布テープのケバなど突起物を起点として発生する。形状が蝶ネクタイに似ているところから名づけられたボウタイトリーは、絶縁体中のボイド、異物を起点として発生する。
水トリーは 0.1〜1〔μm〕の無数の水滴の集合体で、水トリーが発生したケーブルでは tanδ、直流漏れ電流が増大するので、これらが劣化状況を推定する有力な手掛かりとなる。
(1)概要
油や薬品が内部へ浸透することにより材料の膨潤、機械的強度の低下、化学的分解などが生じ、絶縁抵抗の低下、 tanδの増加をきたす。また硫化物が絶縁体を透過して銅導体と反応して硫化銅などを生成し、これが絶縁体中にトリー状に進展して絶縁破壊にいたる化学トリー現象が生じる。
(2)化学トリーとは
化学トリーとは、化学工場の廃物などの硫化物が布設されたケーブルのポリエチレン層を透過し、導体の銅と反応して硫化銅などを形成し、それがポリエチレン層を押し広げてトリ−状に成長したものである。
このトリ−の特徴はトリ−管内が金属であること、電圧をかけなくても発生することがあり、電気トリーや水トリーと区別する意味から化学トリーと呼んでいる。
【解説】
CVケーブルを構成する高分子材料は、油や薬品によっても影響を受け、その様相は、機械的強度の低下、化学的分解、配合物の抽出による硬化、脆化、重量減などがある。
とくに、硫黄イオンと銅が反応して絶縁体中に発生する化学トリーはケーブルの絶縁性能を低下させることがよく知られている。
このような科学的劣化に対しては、布設場所の汚染物質に応じて、鉛シース、アルミニウムシースなどの金属シースの使用、あるいはプラスチックシースの材料改良等のシース構造の変更による防止方法が有効と考えられている。
架橋ポリエチレンなどの高分子材料は長時間高温にさらされると熱と酸素によって分子鎖が切断され、引張り強さ、伸びの低下をきたすことがある。このような物性の低下が著しいと絶縁性能が低下する場合がある。
【解説】
CVケーブルを構成する架橋ポリエチレン、ビニル、ポリエチレンなどの高分子材料は、長い間高温にさらされると、その引張り強さ、伸びが低下する。この老化により、ケーブルの電気性能が低下する現象を熱的劣化と考えられることができる。
一般に、このような老化による高分子材料の寿命の低下は、温度が10℃上昇すると、寿命が半分になると考えられており(10℃半減則と称される)、高温でのケーブル使用に伴う劣化はかなり著しい。
テープ巻端末やモールドコーン差込み形端末では塩分、じんあいによる汚損によって、表面リーク、微小沿面放電、表面炭化焼損が起こる。これをトラッキング劣化と称し、最終的に表面フラッシオーバにいたる。また、紫外線やオゾンは端末表面にクラックを発生させ、トラッキング劣化を促進する。
【解説】
トラッキングとは、固体絶縁物表面上の沿面方向に電界が存在するところに炭化導電路を形成する現象で、沿面方向の絶縁性能を低下させる現象である。炭化導電路は局部加熱により形成される。その加熱源は電流が流れることによって発生するジュール熱やドライバンド形成により発生する部分放電やアーク放電による熱などである。
分子構造上、導電性炭化トラックを生じないものでも放電によって次第に侵食される。固体表面が乾燥状態で電極間のアーク放電にさらされるときもトラッキングを生ずるが、これは通常、アーク劣化といっている。
トラッキング劣化機構は以下のようである。
導電性トラックの形成は固体からの遊離炭素の生成とその表面への堆積である。炭化の原因は放電とか導電電流にあるが、放電は一方で生成炭素を系外に取除く効果もある。放電による炭素の生成は、固体分子構造内に含まれる炭素原子とその他の原子の比およびこれらの結合状態に関係する。これらが熱分解に際して遊離炭素となるか、揮発性の炭素化合物として系外に消散するかが重要である。
CVケーブルの劣化を示す特性値は、次のように類別される。
① 直流漏れ電流の変化
② 誘電緩和の変化
③ 部分放電の発生
④ 外観、形状の変化
これらの正常の変化を検出する方法としては次の評価方法がある。
① 直流漏れ電流測定 ケーブルに直流高電圧を印加し、そのときに流れる漏れ電流やその時間特性を調べる方法である。
② 誘電緩和の測定 劣化に伴う誘電緩和に着目したCVケーブルの絶縁測定法には、
次の方法がある。
(ア)誘電正接の測定
(イ)直流電圧印加後の逆吸収電流の測定
(ウ)直流電圧印加後の残留電圧の測定
③ 部分放電測定 劣化に伴って発生する部分放電の放電電荷量などを測定する方法である。
④ 非電気的な特性値の測定 放電に伴う音波の検出などが知られているが、一般に、電気的な方法よりも測定感度が低下する。
【解説】
(1)直流漏れ電流測定
この方法はケーブル絶縁体に直流高電圧を印加し、そのときに観測される漏れ電流の大きさあるいは、漏れ電流の時間特性の変化から絶縁性能を調べる方法である。
第7図にCVケーブルが正常な場合と異常な場合の漏れ電流−時間特性の例を示す。ケーブルが正常な場合には、直流電圧印加後の漏れ電流は時間とともに減少し、ある一定値となり、以後ほとんど変化しないが、異常の場合には測定時間中の漏れの電流値の増加あるいは電流キック現象が現れる。
また、測定される電流値は、正常な場合に比べて著しく大きい。このような漏れ電流の異常が測定される場合のケーブル絶縁体を橋絡するような水トリー、電気トリー、化学トリーの発生、または、施工不良のケーブル接続部への水の浸入による電極間短絡などが知られている。
この他に、水トリー劣化および化学トリー劣化の場合には、電極間橋絡発生以前においても劣化に伴う絶縁抵抗の低下が生じるが、一般的に、電極の橋絡発生しない場合のCVケーブルの漏れ電流値は微少であり、この程度の劣化状態を知るためには、現場測定の測定精度を十分高くする必要がある。
(2)誘電緩和の測定
誘電体に電界を加えると分極が生じる。また、外部電界によって分極していた誘電体の電界を取り除くと分極が消滅する。電界が作用してから分極が平衡状態に達するまでにはある時間が必要で、電子分極、原子分極の場合には、ほとんど瞬間的に分極が形成または消滅するが、有極性分極の双極子モーメントの配合に基づく空間電荷分極(イオン分極)の場合には、分極が形成、消滅されるまでに比較的長時間を要する。このような現象を誘電緩和といい、誘電正接として現れる。
無極性高分子を絶縁材料としているCVケーブルの場合には、初期性能としては分極時間が短い。しかしながら絶縁体の極端な吸水、酸化あるいは薬品などによる変質が生じると、配向分極あるいは空間電荷分極特性が現れるようになると推定され、その結果、誘電正接の増加および第8図に示す直流電圧充放電時の吸収電流または吸収電荷・残留電荷の増加が予想される。
このような劣化に伴う誘電緩和の変化に着目したCVケーブルの絶縁側測定法のおもなものは次のとおりである。
① 誘電正接(tanδ)の測定
② 直流電圧印加後の逆吸収電流の測定
③ 直流電圧印加後の残留電圧の測定
これらの測定のうち、誘電正接測定は従来から電力ケーブルの測定に広く用いられてきた方法であるが、吸収電流および残留電圧の測定は、新たに検討が進められている方法である。
劣化したCVケーブルの誘電正接と破壊電圧との関係については、 6.6〔kV〕CVケーブルを用いた商用周波電圧による実験データが多数あり、特別高圧CVケーブルの劣化診断に対して参考になる。第9図はその一例を示すものである。この測定法の問題点としては、もともとCVケーブルの商用周波誘電正接の値が0.02〜0.05〔%〕程度の低い値であり、また、特別高圧CVケーブルに劣化が生じたとしても、第9図に示されるような誘
電正接が1〔%〕を超えるまでの大幅な変化はそれほど期待できないと思われるので、現場測定の場合には測定精度を十分高くする必要があることである。
逆吸収電流および残留電圧測定については、まだ現場測定への適用例は少ないが、実験室段階での検討において、逆吸収電流測定が水トリー検出に有効であり、劣化が進行しているケーブルの残留電圧の値が大きいと報告されている。
(3)部分放電測定
ケーブルの絶縁体中の小さなボイド、空隙、クラック、傷などの欠陥が存在すると、高電圧の印加によって、これら欠陥部で部分放電が発生し、長時間には絶縁体を劣化してついには絶縁破壊に至ることがある。したがって、部分放電の諸特性を定量的に測定する部分放電測定はこれらの欠陥部を未然に、かつ非破壊検知できることから、きわめて有効な絶縁診断法として、電力ケーブルの保守点検に広く採用されている。
しかし、ケーブル実線路の部分放電測定においては、部分放電の発生場所およびケーブル線路長ごとに、パルスの検出感度が測定器の周波数範囲によって変化するので、測定に際しては、測定器の選定あるいは感度校正などに十分注意しなければならない。
また、微小な欠陥部で生ずる部分放電の電荷は、第10図に示されるような微少な値になるので、雑音除去対策も十分に行う必要がある。
(4)非電気的な特性値の測定
非電気的な特性値による絶縁測定の例としては、放電に伴う音波を検出する部分放電測定などが知られているが、一般には非電気的な方法による劣化検出法は電気的方法に比較して測定の定量的取扱いが困難であるとか、測定感度がやや低下するなどの短所がある。
しかし、劣化に外観の変化あるいは形状の変化が伴う、例えば終端接続部のシールドのずれなどの場合については、布設ケーブルの線路中で観測しうる場所は限られているものの、目視あるいはX線ラジオグラフィなどの非電気的特性値の測定によって重要な情報が得られる場合がある。
また、水トリー劣化、化学トリー劣化のように、布設環境に存在する水や化学物質が劣化の原因になるものについては、ケーブル線路沿いの環境調査から劣化進行を監視することが必要である。