地中電線路は電力ケーブル(以下、ケーブルという)とそれを収納する管路、洞道、トラフなどの防護建造物からなり、大部分が地下に埋設されているため、目視点検が可能な部分はごく限られている。保守管理上はこの点がほかの機器と異なっている。もちろん一般の機器に共通する点もあるが、ここでは保守管理上特に留意すべき主要な事項を数点に絞って解説する。
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地中電線路・ケーブルの保守点検も点検基準を定めて、これにより保守点検を行っている。第1表に点検基準の一例を示す。
点検項目の中で特に重視されるものは、端末部分を含めたルート上の線路巡視と、掘削工事箇所の立会い及び適切な線路の防護である。
ケーブル事故の過半が掘削工事などによる損傷と、ケーブルヘッドからの浸水、トラッキング(水トリーに起因するものを含む)が原因で占められている。特に後者は6.6kVケーブルでその割合が大きい。
次に電気的な絶縁特性試験があげられる。ケーブルはほかの機器と異なり、ごく一部分しか目視点検ができないため、絶縁性能の維持管理のための試験による把握は重要である。
また、OFケーブル、POFケーブルなど、高電圧ケーブルに付帯する加圧装置や、電線路の送電容量増大策として設置されている冷却装置の点検も線路の信頼度維持の面で欠くことができない。特に冷却装置故障時には、場合により直ちに負荷制限が必要になることから、冷却装置の信頼度が線路の信頼度になる。
基準回数のほか、重負荷線路、絶縁試験結果が三相不平衡など、要注意線路では状況に応じて点検回数を増加させている。また、反対に高電圧CVケーブルなど省略可能な線路では点検回数を縮小している。
大部分のケーブルが鉛被ケーブルからプラスチックケーブルに変わったことから、一般の電工による安易な施工に起因する接続部の事故が多く、この傾向は6.6kVケーブルで著しい。ケーブルの接続は特殊技能で、職業訓練法に「ケーブル接続工」という職種が個別にあった。
3〜6kV級でもベルトケーブル全盛の時代には、高温状態での伸縮性のない油浸絶縁紙を空気が混入しないように巻く「紙巻」や、半溶融状態のハンダで完全な防湿と強度を確保するため、ケーブル鉛被と接続対鉛管とを接続肉盛りする「鉛工」など特殊技能を必要とし、一般の電工には手の出ないものであった。
JEAC 8011-2014「高圧受電設備規程」の条文では、ケーブルの端末処理を施工する作業者は、充分な知識と経験を有する者であることが規定されており、同規程の付録「東京電力サービスエリア内」版には次のように規定されている。(注:他地区でも類似の規定がある)
「ケーブル工事、終端処理工事、接続工事等、高度の技術を必要とする工事は次の者が施工する」
- (一社)日本電気協会 関東支部の認めた高圧工事技能検定者(注:講習は終端接続のみ)
- 東京電力の地中線工事者として登録されている者
- 電線メーカーならびに電線付属品メーカーの技術者など、上記(a,b)と同等以上の技能を有すると認められる者
このことは地中電線路の建設時点から、補修時までにわたり保守管理上充分に留意すべき事項である。
地中電線路の保守にあたっての主な留意点をあげれば次のとおりである。
(1) 目に見えない
ケーブルの事故原因中に占める外部からの損傷の割合は最も多く、線路の巡視により正常であることを確認し、掘削工事などによる損傷を未然に防止しているが、ケーブルの埋設位置が正確にわからなければ効果的な巡視はできない。このため建設時に正確な図面を作成しておくことはもちろんであるが、その後の地形変化、建物の増改築による線路との相対位置の変化などを常に補正、記載しておくことは地中線保守管理の一番の基礎である。
(2) 外傷の防止
ケーブルヘッドや中間接続の施工不良を除けば、ケーブル事故のほとんどは外部からの損傷である。このため可能な限り地表上に埋設表示杭などを設置することが望ましい。また、ケーブルの無理な屈曲はその寿命を大きく損なうことになる。敷設時にケーブルの屈曲は不可避であり、保守上ケーブルの移動を必要とする場合もあるが、これらの場合もはん用ケーブルでは曲げ半径を三相仕上がり外形の10倍以下とし、繰返し曲げを極力避けなければならない。
(3) 機器と比較して絶縁抵抗が大きい
ケーブルの構造から絶縁抵抗は一般の機器と比較して極めて大きい。このため普通1,000V以上の絶縁抵抗計が測定に使用されるが、端末の漏れ電流の影響が大きく、端末の充分な清掃と反対端を含めた確実なガードの取付けが大切である。特に22kV以上のケーブルでは、事故ケーブルでも健全な場合と同様な絶縁抵抗を示すものもあり、絶縁抵抗計による測定値は単なる参考にすべきである。
絶縁特性試験で部分放電がある程度以上に大きくなれば放電位置の評定も可能になったが、まだ直流試験の判定結果は多数の試験結果から統計的に推定されたもので、過大な評価は禁物である。健全と診断された線路が比較的短期間で絶縁破壊したり、またはその逆の場合もある。
ただし、絶縁破壊したケーブルでも、まれに系統電圧に耐えることがあるが、
これは破壊箇所が大きく、導体と大地間の間隔が大きくなったことで極めて危険な状態である。この場合でも設備基準に定められている直流耐圧試験(交流の場合の2倍電圧)を行えば、どのような状態でも健全ケーブルとは明確に判別することができる。
事故の未然防止が設備保守の目的であるが、事故が発生したときの迅速な復旧は保守管理業務の重要な一部である。
ケーブルの事故測定にはマーレーループ測定器(断線を伴わない地絡短絡)、直読静電容量計(地絡抵抗の高い断線)のようにケーブルの線路定数を利用したものと、低圧パルス測定器(断線、完全地絡)、放電検出型パルス測定器など、ケーブル内での進行波の伝播特性を利用したものがある。測定法の詳細については本シリーズ「地中電線路の故障点測定」を参照されたい。
更に位置確定のため事故ケーブルに電圧を印加して、事故点での放電音を探りコイルで探査したり、圧力型ケーブルでは圧力媒体の漏れ流量、圧力分布を測定することもある。
いずれにしても正確なケーブルの長さ、及び異種ケーブルの混在線路では、それぞれの種類と長さが測定誤差を防止するために必要であるし、また接続部の位置を含めた正確な埋設図が復旧時間の短縮のうえで欠くことができない。
この点からも埋設記録、図面の整備は地中電線路の保守管理上で特に重要なものである。
保守管理の面で劣化の進んだケーブルを計画的に引替え、更新することも必要なことである。ケーブルの引替えも単に使用経年数、ケーブル種類などで画一的に行わずに、真に劣化の進んだものから効果的に実施したいものである。
そのため過去に外傷以外の原因で絶縁破壊事故が発生したもの、極度に経年の大きいもの、過去に実施した絶縁特性試験の成績の経緯、更には供給している負荷の重要度も勘案して、引替え順位あるいは引替えの時期は決めるべきである。