検討の簡素化を図るため、概ね高調波流出電流の上限値を超過しないと推定される次の条件に合致した場合は検討を終了してよいとされています。
① 「高圧受電」「ビル」「進相コンデンサが全て直列リアクトル付」「電源回路の換算係数が、 1.8を超過する機器が無い」の全ての条件を満足する場合
② 高調波発生機器毎の回路種別と換算係数から求めた「等価容量」の総合計が、高圧では50kVA、22kV又は33kVでは300kVA、66kV以上では2,000kVA以下の場合
高調波抑制対策技術指針(以後、技術指針と言う)に示される判定フローを基にした説明となりますが、これに先立って判定フローの概要を示します。
(1)第1ステップ(等価容量による判定)
① 高調波発生機器の抽出および換算係数等の確認
・高調波発生機器の抽出漏れが生じないよう、製造者はカタログや仕様書などに当該機器が高調波発生機器である旨と換算係数を明示することが規定されている。
② 検討要否の判定
・前段1項①の場合は「検討終了」とする。
③ 等価容量の計算
④ 等価容量による判定
・前段1項②の場合は「検討終了」とする。
(2)第2ステップ(高調波流出電流による判定)
① 個別機器の定格運転状態の高調波発生電流の計算
② 需要家からの高調波流出電流の計算(簡易計算)
③ 高調波流出電流の判定
・需要家受電点から電力系統に流出する高調波電流の上限値以下であれば検討終了、上限値を超過する場合は次に進む
④ 高調波流出電流の詳細計算と抑制対策の検討
・上限値を超過する場合は、「需要家構内機器への分流」および「電力系統からの直列リアクトル付進相コンデンサへの流入」による効果分を流出電流値から差し引く
・それでも上限値を超過する場合は「多パルス化」「フィルタ設置」などの高調波抑制対策を検討し上限値以下に抑制
それでは具体的な判定フロー(第1図 参照)に基づき順を追って説明します。
Ⅰ.第1ステップ(等価容量による判定)
(1)高調波発生機器の抽出及び換算係数等の確認
(2)検討要否の判定
条件:「高圧受電」、「ビル」、「進相コンデンサが全て直列リアクトル付」、「換算係数Kiが
1.8を超過する機器が無い」
a.全ての条件を満足する場合は「検討終了」とする。(以降の計算は必要無い)
b.全ての条件を満足しない場合は、次の(3)に進む。
(3)等価容量P0の計算
P0 =∑( Ki × Pi) [ kVA ]
Ki :換算係数(第1表による)、Pi :定格容量(kVA)、i :回路種別(第1表による)
(注)等価容量とは、高調波発生機器毎にその容量を三相ブリッジ6パルス変換装置(6相整流器)の回路構成容量に換算したものの総和をいう。
換算係数Kiとして、例えば12パルス変換装置は0.5倍、三相ブリッジ(コンデンサ平滑、リアクトル有り)は1.8倍など(第1表参照)
(4)等価容量による判定
a.「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」の場合は、P0 × 0.9倍が限度値(第2表により、6.6kVでは50kVA)以下であれば「検討終了」とする。(以降の計算は必要無い)
受電電圧 | 限度値 |
6.6kV | 50kVA |
22/33kV | 300kVA |
66kV以上 | 2,000kVA |
限度値を超過している場合は第2ステップに進む。
b.「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」でない場合は、等価容量P0が限度値(第2表による)以下であれば「検討終了」とする。(以降の計算は必要無い)限度値を超過している場合は第2ステップに進む。
Ⅱ.第2ステップ(高調波流出電流による判定 計算書(その1)を使用)
(1)個別機器の定格運転状態の高調波発生電流の計算
Injとは、機器jから発生する第n次高調波電流で通常は第5次、第7次のみとする。
Inj=受電電圧に換算した高調波発生機器jの基本波定格電流値I[mA]×回路種別毎の各次数高調波電流発生率 (第1表参照)
(2)需要家からの高調波流出電流の計算(簡易計算)
a.個別機器の最大稼働率を把握できる場合
In =∑(Inj × Kj)× β
Kjとは、機器jの最大稼働率。最大稼働率とは連続30分間の平均稼動容量が年間で最大となる値をいい、例えば
・ 定格入力容量の80%で連続運転する場合は0.8
・ 定格入力容量で稼働時間が1/2となるような間欠運転の場合は0.5
・ 30分間中に負荷変動がある場合は使用実績に応じた平均値の最大値
なお、ビルの場合で例えば「200kW以下の空調機器は0.55」、「エレベータは0.25」などが技術指針に示され適用しても良い。
βとは、ビルの規模による補正率であり、高圧受電のビルであって契約電力相当値が2000kW以下の場合は第3表による。これ以外のビルは電力会社との協議により決定する。ビル以外は1とする。Inを求めて(3)に進む。
契約電力相当値 | ビルの規模による補正率β |
300 kW | 1 |
300 kW | 0.9 |
1,000 kW | 0.85 |
2,000 kW | 0.80 |
b.個別機器の最大稼働率を把握できない場合
In = ∑(Inj) × K × β
kとは、当該需要家の機器全体の最大稼働率で需要家の最大需要率を使用、ビルの場合は0.7を適用しても良い。βは上記(2)a.項と同様。Inを求めて(3)に進む。
(3)高調波流出電流による判定
(2)で求めた需要家の高調波流出電流と、「高調波流出電流の上限値」を比較する。
ここで、需要家受電点から電力系統に流出する高調波電流の上限値Ino[mA](n:次数)を求める。これは、第4表の契約電力相当値1kW当たりの高調波流出電流上限値に当該需要家の契約電力相当値kWを乗じた値となる。例えば受電電圧6.6kVの場合、5次は3.5[mA/kW]、7次は2.5[mA/kW]などである。
a.「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」の場合は、(2)で求めたInを
用いてIn × γnを求める。
γnとは、直列リアクトル付進相コンデンサへの「分流」や「流入」による高調波流出電流の低減効果を考慮した低減係数である。
n次調波に対する低減係数で5次の場合は0.7、7次の場合0.9、11次以上は1.0とする。
In × γnが上限値以下の場合は「検討終了」とする。(以降の計算は必要無い)上限値を超過している場合は(4)に進む。
b.「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」でない場合は、(2)で求めたInが上限値以下の場合は「検討終了」とする。(以降の計算は必要無い)上限値を超過している場合は(4)に進む。
(4)高調波流出電流の詳細計算と抑制対策の検討
a.需要家構内機器への分流による高調波流出電流の低減効果を計算する。
これは、発電機や電動機などの回転機及び直列リアクトル付進相コンデンサは構内で発生した高調波電流の一部を吸収するので流出量から差し引く。
b.電力系統から直列リアクトル付進相コンデンサへの流入による高調波流出電流の低減効果を計算する。これは、直列リアクトル付進相コンデンサは電力系統側に高調波電圧が存在すると高調波電流が流入するので、流出量から差し引く。
このときの計算に用いる電力系統の高調波電圧含有率は第5表による。
第5次高調波 | 第7次高調波 | |
高圧系統 | 2.0% | 1.0% |
特別高圧系統 | 1.0% | 0.5% |
なお、詳細計算では(4)a,bで低減効果を個別に反映するため、(3)に示した低減係数は適用しない。
c.(4)のa及びbによっても高調波流出電流が上限値を超過している場合は、抑制対策として「多パルス化」「フィルタ設置」などにより高調波流出電流を上限値以下に抑制することで計算は終了する。
ここでは計算事例を高調波流出電流計算書(その1,2)を用いて紹介する。なお、高調波流出電流の計算では高次高調波が特段の支障とならない場合は第5次および第7次のみを対象に計算すれば良いとされている。
計算事例としては、第1ステップでの等価容量が上限値を超過したので第2ステップに進み、高調波流出電流の簡易計算でも超過したので詳細計算に至るものを示す。
技術指針を基にして進める。
・建物用途:事務所ビル
・受電電圧:6.6kV
・受電点短絡電流:12.5kA
・契約電力相当値:220kW
・電力系統に流出する高調波電流の上限値
-第5次高調波電流-
I50=3.5[mA/kW]×220kW=770mA
-第7次高調波電流-
P70=2.5 [mA/kW]×220kW=550mA
・ 6%直列リアクトル付進相コンデンサ設備
-コンデンサ:定格容量31.9kvar×2台、定格電圧:7.02kV{=6.6kV/(1-0.06)}
-直列リアクトル:6%
・ 高調波発生機器
① ビルマルチエアコン 定格入力容量:13.1kVA×6台、回路種別:三相ブリッジ(コンデンサ平滑)リアクトルあり(直流側)、換算係数K33=1.8
第5次高調波電流発生率0.30、第7次高調波電流発生率0.13(第1表)
最大稼働率0.55(技術指針に示された「ビル設備、空調機器、200kW以下」による)
② エレベータ 定格入力容量:6.77kVA×1台、回路種別:三相ブリッジ(コンデンサ平滑)リアクトルなし、換算係数K31=3.4
第5次高調波電流発生率0.65、第7次高調波電流発生率0.41(第1表)
最大稼働率0.25(技術指針による)
(1)第1ステップ(等価容量による判定、計算書(その1)を使用)
a. 検討要否の判定
「高圧受電」「ビル」「進相コンデンサが全て直列リアクトル付」「換算係数Kiが1.8を超過する機器が無い」の全ての条件を満足しないので、次のb.に進む。
b. 等価容量の計算
①ビルマルチエアコン | P33=13.1×6×1.8=141.5kVA |
②エレベータ | P31=6.77×1×3.4=23.0kVA |
合計等価容量P0=141.5+23.0=164.5kVA | |
c. 等価容量による判定
高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」を満足するので、低減係数を反映しP0 × 0.9=164.5×0.9=148.1kVA
148.1kVAが受電電圧6.6kV限度値50kVAを超過しているので第2ステップに進む。
(2)第2ステップ(高調波流出電流による判定、a~c項は計算書(その1)を、d項は(その2)を使用))
a. 個別機器の定格運転状態の高調波発生電流の計算
① ビルマルチエアコン
受電電圧換算定格電流は、(13.1kVA×6台)/(×6.6kV)=6,876 mA
・第5次高調波電流:6,876 mA×0.3 ×0.55=1,135 mA
・第7次高調波電流:6,876 mA×0.13×0.55= 492 mA
② エレベータ
受電電圧換算定格電流は、(6.77kVA×1台)/(×6.6kV)=592 mA
・第5次高調波電流:592 mA×0.65 ×0.25=96 mA
・第7次高調波電流:592 mA×0.41×0.25= 61 mA
合計した高調波発生電流はそれぞれ
・第5次高調波電流:1,135 mA+96mA=1,231 mA
・第7次高調波電流: 492 mA+61mA= 553 mA
b. 需要家からの高調波流出電流の計算(簡易計算)
「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」の場合なので、低減高調波係数(第5次0.7、第7次0.9)を乗じる
・第5次高調波流出電流:1,231 mA×0.7=862mA
・第7次高調波流出電流: 553 mA×0.9= 498 mA
c. 高調波流出電流による判定
第5次高調波流出電流は862mAで上限値770mAを超過しているので、d.の詳細計算に進む(第7次高調波流出電流は498 mAで上限値550mAを満足しているので詳細計算は不要。ただしここでは詳細計算を示しておく。)
d. 高調波流出電流の詳細計算(計算書(その2)を使用)
詳細計算に用いる基本波インピーダンスマップを第4図に示す。
① 直列リアクトル付進相コンデンサへの分流による高調波流出電流の計算(第5次、第7次高調波インピーダンスマップを第5図、第6図に示す)
(a) 第5次高調波流出電流
電源側の第5次高調波インピーダンスZℓ05
Zℓ05 = jXℓ0 × 5=j0.305×5=j1.525 〔Ω〕
・直列リアクトル付進相コンデンサの第5次高調波インピーダンスZℓc5
〔Ω〕
・直列リアクトル付進相コンデンサに流入する第5次高調波電流IC5
[mA]
=24[mA]
(注) 第2ステップb.項の高調波流出電流による判定で用いた低減係数は使用しない(詳細検討で反映されるため)
(b) 第7次高調波流出電流
・電源側の第7次高調波インピーダンスZℓ07
・直列リアクトル付進相コンデンサの第7次高調波インピーダンスZℓC7
〔Ω〕
・直列リアクトル付進相コンデンサに流入する第7次高調波電流IC7
[mA]
=5[mA]
② 電力系統から直列リアクトル付進相コンデンサへの高調波流入電流の計算(第5次、第7次高調波電圧源の等価回路を第7図、第8図に示す)
電源系統に存在するとした高調波電圧は第5表による。
(a) 第5次高調波流入電流
(b).第7次高調波流入電流
以上の詳細計算結果をもとに電力系統側へ流出する高調波電流を算出すると、上記(2)の第2ステップに示した、高調波発生機器からの第5次、第7次高調波電流から、当該需要家への直列リアクトル付進相コンデンサへの分流電流と電力系統から直列リアクトル付進相コンデンサへの流入電流を差引いた値となるから次のようになる。
〇 第5次高調波流出電流= 1,231-Ic5-Iℓ5' = 1,231-24-986=221[mA]
〇 第7次高調波流出電流= 553-Ic7-Iℓ7' = 553-5-178=370[mA]
[結論]
詳細計算の結果、対象となる第5次高調波流出電流は上限値770[mA]に対して221 [mA]となり、抑制対策の必要は無い。
なお、第7次高調波流出電流は上限値550[mA]に対して370[mA]となっている。
添付資料