誘導電動機の特性を求めるには、一般に第1図に示すL形等価回路が用いられ、この等価回路から(1)〜(3)式で表される一次電流、力率およびトルクの特性式が誘導されます。第2図は、特性式から求めたすべりsに対する一次電流、トルクの特性曲線の一例を示します。
ここで、問題となる始動電流とは、電動機が静止状態(すべりs=1)において電動機端子に定格電圧を印加した時に流れる電流です。この場合の始動電流I1’は、電動機の回路定数には r1+r2’《x1+x2’ の関係があるため、(1)式の始動電流を制限するものは、ほぼ一次・二次の全漏れリアクタンス(x1+x2’)となり、その値は一般に小さく、始動電流は定格電流の5〜8倍という非常に大きな電流となります。また、(2)式で示す力率は0.2程度と低く、(3)式で示される始動トルクは、一般には定格トルクの120〜200%程度となります。
巻線形誘導電動機では、抵抗を二次側に挿入することによって、(1)式、(3)式の r'2/sに着目した比例推移が利用できます。この結果、始動電流を押さえ、適当な始動トルクとすることができます。しかし、かご形電動機では、このような方法がとれないので、第1表に示すような各種の始動方法が工夫されています。
ただし、V :一次1相電圧、s :すべり、K:定数
r1、r2’:一次・二次(一次換算)抵抗
x1、x2’:一次・二次(一次換算)漏れリアクタンス
(1)全電圧始動
じか入れ(直入)始動とも呼ばれ、電動機を直接電源に接続して始動する方式です。
(2)Y−Δ始動
始動時だけY結線とし、ほぼ全速度に達したとき、巻線をΔ結線に戻す方式です。始動電流および始動トルクは、いずれも全電圧始動時の1/3となります。
(3)リアクトル始動
始動時に電動機と電源との間に始動リアクトルを接続し、始動完了後に、このリアクトルを開閉器で短絡する方式です。始動電流を全電圧始動の場合の1/aに抑えた場合に始動トルクは、全電圧の場合の
1/a2 となり、始動電流の減り方より始動トルクの減り方のほうが著しいのが欠点です。
(4)補償器始動
始動電流を制限するため、始動補償器という単巻変圧器を用いた始動方式です。単巻変圧器により始動電流を 1/a に下げたとすれば、電源に流入する始動電流および始動トルクは、ともに全電圧始動時の
1/a2 となります。この補償器では、加速後に全電圧に切り換えるときに大きな突入電流を生じる恐れがあるので、これを抑えるため考案されたのがコンドルファ方式です。
(5)一次抵抗(クサ)始動
クッションスタートさせたい場合に電源側の1相あるいは2相にのみ抵抗またはリアクトルを挿入して始動する方式です。
始動時の問題点としては、次にあげるものがあります。それぞれについて設計時に十分な検討が必要です。
(1)電源に悪い影響を与えないか。
始動時は、力率の悪い大きな電流が流れ電圧変動率を悪化させます。
(2)始動電流により固定子巻線が受ける電磁力に耐える設計となっているか。
(3)熱容量的に十分な設計となっているか。
高慣性モーメントをもった負荷の起動にあっては、慣性体が同期速度で蓄えられるのにほぼ等しいエネルギーが、起動時に回転子導体の銅損として消費されます。
(4)減電圧始動においては、始動時に電動機に発生する損失は、軽負荷始動の場合を除き、全電圧始動時の場合よりも大きくなるので注意が必要となります。