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誘導電動機にはどうして滑りが生ずるのであろうか。この疑問に対する答を結論からいうと、滑りがなければ誘導電動機として回転しないからである。
三相誘導電動機の固定子は各相の巻線が電気角で2π/3ずつずらして巻線され、一次に流れる三相の励磁電流によって固定子の中を一定速度で回転する磁界(回転磁界)を生ずる(第1図)。二次側の回転子はこの回転磁界によって巻線内に起電力及びそれに伴う二次電流を生じ、トルクが発生するのである。
もし、二次巻線が同期速度で、回転磁界の回転方向と同じ向きに回転すると、二次巻線には電磁誘導による起電力は生じないから二次電流も流れず、電動機としてのトルクは得られない。
二次巻線内に起電力及びそれに伴う二次電流を流し、電動機としてのトルクを生ずるためには、二次は必ず回転磁界より遅く回転していなければならない。すなわち、滑りを生じた状態でなければならない。
いま回転磁界の回転速度(これを同期速度という)を 〔rpm〕、回転子の回転速度を 〔rpm〕とするとき、電動機として動作する場合は必ず である。
両速度の差 を滑り速度という。電動機の特性を調べる場合滑り速度をそのまま用いることは少なく、これと同期速度との比を用いることが多い。これを一般に滑りと呼んでいる。すなわち、滑りをsとするとき、
であり、これを100倍した値を%で表すこともある。誘導機が電動機として動作する場合は であり、定格出力またはそれ以下の出力で運転しているときのsは非常に小さく、大容量機では0.03以下、小容量機では0.07以下である。
また、電動機の極数をp、電源の周波数をfとすれば、同期速度nsは、
である。
誘導電動機が回転している状態で、回転子を流れる電流(二次電流)がどのようになるか考えてみる。
まず、二次が静止しているときの二次1相の起電力を とし、滑りsで回転しているときの起電力を とすれば、 と は回転磁界と回転子の相対速度に比例するから、
であり、また二次の周波数も相対速度に比例し、
これを滑り周波数という。
定常運転ではsは非常に小さいから も小さく数Hz以下である。
ところで、二次電流I2は二次巻線の1相の抵抗をr2、漏れリアクタンスをx2とすると、
となり、この電流I2の位相はE2より だけ遅れる。ここで二次巻線が静止状態のときの漏れリアクタンスを とすれば、
となるから、
となり、この式の分母、分子をsで割れば、が得られる。
この(6)式の右辺は二次巻線が静止し、二次回路の抵抗が であるときの電流を示すことになるが、この大きさは(5)式と等しい。
(5)式の電流I2によって二次巻線内で消費される電力PCは、電圧がE2、電流がI2であるから、
となる。この値を求めると、
となり、これは二次巻線内の銅線として熱に変わる損失である。また、二次電流I2はトルクを発生し、速度Nrで回転しながら機械的出力を出している。
このトルクや出力を求め、これらが滑りsに対してどのような変化をするかを知るためにsの入った(6)式を用いて電力P2を調べる。P2は、
よって、(8)式から(7)式を引いたものが機械的出力Pmとなる。
すなわち、
を求めればよい。
ここで 及び を代入して整理すると、
が求まる。誘導電動機の回転子のトルクは出力を機械的角速度で割ったものである。角速度ωは、
と表せる。したがって、トルクTは、
となる。
ただし、このトルクは1相当たりの値であるから、3相分ではこれらの値を3倍する必要がある。
(9)式の出力Pm 及び(10)式のトルクTは滑りsに対して第2図のような変化をする。これが滑りあるいは速度に対する誘導電動機の重要な特性の一つである。
誘導電動機の速度制御をしたい場合、電圧、周波数共に一定の電源で運転している場合に速度制御は滑りの制御である。滑りの制御法のうち、二次回路の抵抗の加減による方法は比較的簡単なのでしばしば用いられる。これは(10)式のトルクTの式から分かるように、トルクは(r2/s)の関数になっている。つまり、(r2/s)が一定ならトルクも一定である。したがって、滑りをm倍に増し、元と同じトルクを生じさせるためには二次回路に抵抗を増しmr2とすればよい。
よって二次各相に追加すべき抵抗Rは、
とすればよい。
このように二次回路の抵抗を変えた場合、その変化割合だけ滑りも変化したところで、元と同じトルクを得られることをトルクの比例推移という。
つまり、巻線形回転子に外部抵抗を挿入し、その値を制御することによってトルクはその値のまま、滑り、回転数を制御することができる。この関係を示すと第3図のようになる。
コンベヤとかエアコンのコンプレッサのように、誘導電動機が商用電源で負荷を駆動している場合、回転速度が変っても負荷トルクは一定でなければならない。このような負荷の場合、もし電動機の電圧が低下すると、当然、回転数が下がり、トルクも低下することになる。しかし、ここで不思議なことが起こるのである。つまり負荷は回転数にかかわらず同じトルクを出すことを要求しているため、回転速度が下がると電動機の滑りが増加してしまう。滑りが増加すれば電動機の電流は増加することになる。結局、電圧が低下したのに電流が増加するということは、オームの法則、すなわち電気理論に矛盾する現象であるが、滑りによってコントロールされる誘導電動機の自然発生的に生ずる特異な現象である。