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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
絶縁油の管理 (株)高岳製作所プラント建設部 部長代理 水上 明

絶縁油は、油入変圧器や油入コンデンサなどの電気機器に広く使用されており、その主な役割は機器の絶縁と冷却です。油入機器の内部で異常過熱や絶縁劣化が発生すると、絶縁油から発生した分解ガスや絶縁物の劣化生成物が絶縁油に溶け込み、絶縁油の化学的特性に変化が生じてきます。絶縁油の管理は、油入機器の絶縁劣化状態を絶縁油の特性試験や油中分解生成物の分析などで把握し、油入機器の性能を維持・保全する目的で行われます。ここでは油入変圧器に使用されている絶縁油の管理方法について解説します。

絶縁油の種類

 絶縁油は鉱油、合成油、鉱油と合成油の混合油があるが通常の変圧器では鉱油系の第1種2号絶縁油が使用されています。鉱油は原油を精製したもので炭化水素を主成分とした高分子化合物です。第1表に第1種2号絶縁油の主な特性を示す。絶縁油は電気的特性に優れ、特に絶縁破壊電圧が高いことと冷却効果が高いことが要求されます。

 

絶縁油の劣化

 絶縁油は使用するうちに、最初淡黄色であったものが次第に茶褐色に変色し、ついにはスラッジ(絶縁油の劣化によって生成する泥状物質)を生成し機器のトラブルの原因となります。第1図に変圧器絶縁油の劣化過程を示します。

 変圧器が運転されると温度が変化し外気との間で呼吸作用が行われます。その際、ブリーザ(吸湿呼吸器)不良、パッキング劣化、シール部の締付不良、外装タンクの腐食等による気密不良や油漏れなどがあると、絶縁油に空気中の酸素や水分が混入します。絶縁油中の酸素や水分は変圧器内部の鉄や銅の裸金属に接触している状態で運転中の温度上昇が加わると、酸化が促進され絶縁油の酸価(酸性有機物質の総量)が増大します。酸価が進展すると絶縁油と金属やコイル絶縁物が化合しスラッジが生成されます。スラッジがコイル絶縁物、鉄心、放熱面に付着すると冷却効果が低下し、温度上昇が著しくなり絶縁物の熱劣化が加速されます。絶縁劣化した状態で運転を続けていると、過電圧などによって部分放電が発生したり、外部からのサージや外部短絡時の電気的または機械的ストレスで絶縁破壊に至ることになります。また、絶縁油自体も劣化生成物の溶解によって吸水性を増し、絶縁抵抗の低下やtanδの増加など絶縁特性が低下します。


絶縁油の試験

 絶縁油の試験としては、定期点検時に絶縁破壊電圧試験、全酸価試験が行われ、特に重要な変圧器では水分試験、油中ガス分析などが行われます。これらの試験データは経年的な変化の把握が重要であり、絶縁油が不良と判断された場合は、その緊急度合いによって、ろ過、浄油、再生または取り替えを行います。

(1) 絶縁破壊電圧試験

 絶縁破壊電圧試験は絶縁油を試験用容器に採取し、絶縁油中において油面下20㎜の位置で直径12.5㎜の球状電極間ギャップを2.5㎜に対向し商用周波数の電圧を毎秒約3kVの割合で上昇させ絶縁破壊電圧を測定する方法です。

(2) 全酸価試験

 全酸価とは絶縁油1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムの㎎数を云います。
 全酸価を測定するには、試料油をトルエン・エタノールの混合溶液に溶かし、アルカリブルー6Bを指示薬として水酸化カリウムの標準水溶液または標準アルコール液で滴定します。

(3) 水分試験

 水分試験は試料油を試薬による容量滴定方法または電気分解による電量滴定方法で行われます。容量滴定方法は、よう素、二酸化硫黄、ピリジン及びメタノールを主成分とするカールフィッシャ試薬が水と定量的に反応することを利用して水分を求めるものとがあります。電量滴定方法は、よう化物イオン、二酸化硫黄を主成分とするピリジン、メタノール混合溶剤に試料を加え、電気分解によってよう素を発生させて水と反応させ電気量から水の量を求めます。絶縁油中の水分は絶縁破壊電圧に大きく影響を及ぼす。第2図は油中水分量と絶縁破壊電圧の関係を示しており、30~40ppmを越えると絶縁破壊電圧が急激に低下するのがわかります。吸湿による絶縁油の劣化を防止するため、変圧器では吸湿呼吸器(シリカゲル・ブリーザ)、窒素密封式、隔膜式無圧密封式などが採用されています。


出典:日本電機工業会技術資料第155号 変圧器の保守

(4)油中ガス分析

 変圧器の内部で局部過熱や部分放電が発生すると、その部分の絶縁材料の種類と異常部の温度によって特有の分解ガスが発生し大部分は絶縁油中に溶解します。密封式変圧器の場合、分解ガスが大気に逸散せず絶縁油中に溶解した状態であり、この溶解ガスを分析することによって内部異常の有無やその状況を推定することができます。油中分解ガスは、対象変圧器から絶縁油を採取し試料油から溶解ガスを抽出しガスクロマトグラフで分析します。分析対象ガスは、非可燃性ガスでは、O2(酸素)、N2(窒素)、CO2(二酸化炭素)、可燃性ガスでは、CO(一酸化炭素)、H2(水素)、CH4(メタン)、C2H6(エタン)、C2H4(エチレン)、C2H2(アセチレン)、C3H6(プロピレン)、C3H8(プロパン)、i-C4H10(イソブタン)などがあります。変圧器内部での異常の状況によって第2表に示すガスが発生します。その特徴は次のとおりです。

  1. 比較的低温での絶縁油の熱分解ではCH4が生成されるが、温度が高くなるとH2が発生しC2H4が多くなる。さらに高温になるとH2の量が増加し微量のC2H2が発生する。

  2. 絶縁油中でアーク放電があった場合にはH2とC2H2が多く、次いでC2H4、CH4が発生する。

  3. 絶縁油中で部分放電があった場合にはH2やC2H2が発生する。

  4. 絶縁紙が比較的低温で長期間加熱されるとCOとCO2が発生する。組成比CO/CO2は温度によって異なり、低温では小さく高温では大きい。


絶縁油試験の管理値

 変圧器絶縁油に対する絶縁破壊電圧、全酸価値及び水分含有量についての管理値を第3表に示します。試験の頻度は測定値が正常値であれば3年周期で行えば良いが、要注意範囲に入った場合には1年ごとに実施し経過観察します。要処置域に入った場合は、絶縁油のろ過・再生または交換を行います。なお、劣化が急速に進行している場合は早めの処置が必要です。

 電気協同研究会では、変圧器絶縁油に対して可燃性ガスの総量(TCG)と各成分ガス量について、第4表に示す判定基準を提示しています。可燃性ガスはいずれか一つでも管理値を超過した場合には異常と判定し処置が必要です。なお、C2H2はアーク放電や部分放電に起因するガスであるため、微量でも検出された場合は異常と判定します。

~終わり~
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