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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
インバータ機器(4)トラブル事例・想定 (株)高岳製作所 監査役 松田高幸

インバータ機器は高性能・省エネ効果の面から幅広く採用されている。今回はインバータ機器によるトラブル事例を想定し、そのメカニズムを解説する。
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます

01 トラブル事例・想定

(1) 事例1(IGBT制御に関する想定)

㈰ トラブルに至る経緯(例)

  • IGBTのスイッチング周波数を変更した(例えば、1→2kHz)。
  • IGBTモジュールのダイオードのサージ電圧の傾きが大きくなる。
  • 傾き大によって高い周波数成分が増大する(モジュール内での共振がしや すくなる)。
  • ゲートとエミッタ間の耐圧(20V程度)を頻繁に超えるとゲートが劣化しやすくなる。
  • 最悪の場合はIGBTの破損のおそれがある。

㈪ 説明図の一例を第1図に示す。

(2) 事例2(IGBT保護に関する想定)

㈰ トラブルに至る経緯(例)

  • ターンオンが遅い場合、VCEの低下が遅くなる。
    例:VGEが高い素子の場合、VCE 低下に時間を要する。
  • VCEをみて素子の過電流を推定する場合、VCE 低下が遅いと(素子過電流大と)誤判定する(保護装置の電源電圧が低いと、判定するレベルも低下する)。
  • このようにして不要動作のおそれがある。

㈪ 説明図の一例を第2図に示す。

(3) 事例3(単独時の想定)

㈰ トラブルに至る経緯(例)

  • 系統の停電
  • 非常用負荷をいったん開放(このようなケースの場合)
  • (電池用)ヒータもいったん開放(容量アップのため)
  • 分散電源からみると「負荷なし(R=∞)で、LとCの回路」の状態
  • インバータからみると、共振などがあれば「電圧変動、制御不安定」しやすい状態
  • 単独運転できないおそれ

㈪ 説明図の一例を第3図に示す。

(4) 事例4(周辺装置、機器との整合面の想定)

㈰ トラブルに至る経緯(例)

  • 送電電力が一定値以下になったら、電源の出力を抑制
  • この場合、「受電電力が一定値以下」を検出する装置が不動作だと(逆電力になっても)運転を継続
  • 検出装置の一部、例えばTD(トランジューサー)などの機能チェックが必要

㈪ 説明図の一例を第4図に示す。

(5) 事例5(周辺装置のトラブル事例)

㈰ トラブルに至る経緯(例)

  • 近傍の系統でコンデンサを投入
  • 過渡的な電圧上昇(振動)
  • この過渡的電圧によって過電圧継電器が動作し、インバータ停止のおそれ

㈪ 説明図の一例を第5図に示す。

(6) 事例6(既設設備への影響・想定)


㈰ トラブルに至る経緯(例)


  • インバータ(モータ)を新設(既設設備に接続)
  • インバータを充電すると多くの高調波、高周波を含有
  • 既設設備に接続しているCR回路の電流増大
  • CR回路のトラブルのおそれ(R焼損など)

㈪ 説明図の一例を第6図に示す。




02 トラブル防止面からの考察

(1) 様々なケースのトラブルが発生


トラブルの傾向などは以下のとおり。
  • IGBTの制御面 → 制御の高度化に伴い素子の能力・耐量との関係(全体的にみて余裕が少ないケースがある)
  • IGBTの保護面 → 通常の保護よりも検出感度、スピードとも極めて早い(同様に余裕が少ないケースがある)
  • 単独運転に移行するときの制御面・整合面(かなり高度のものがある) → 「いったん単独運転にし、その後、系統並列する」、「いったん停止し、その後、再起動」などの諸々の方法について検討・整理が望ましい
  • 周辺装置や機器との整合面 → 「インバータ機器を用いる装置」と既設装置との整合面での課題がある
  • 近傍系統での電気的現象と保護・制御との協調面 → (後述のように)諸々の電気現象が考えられる
  • 既設設備への影響面 → インバータ機器からの高調波・高周波は広範囲の成分を含み、なんらかの形で(共振などによる電圧、電流の増大や振動)影響が出ている


(2)その他(今後の取組姿勢など)

 どちらかというと個別的な処理(トラブル対応)が多いので、次のような進め方・ 取組が期待される。
  • トラブルなどを持ち寄って整理・分析し、多くの分野で活かしていく必要
  • 電力系統の諸々の電気現象とインバータとの協調は技術的に相当奥が深い
  • 長期的な視野に立ち、(一歩一歩の)積み重ねが必要

以上のような取組によって、体系的な整理、実務上の指針や手引き類の整備望ましい