通常使用する検電器は交流電圧専用のものが多い。直流回路を検電するには直流電圧専用または交直流電圧両用のものでなければ使用できない。
直流回路は普段あまり遭遇する機会が少ないため、うっかり交流電圧専用検電器を使用して、その結果、停電しているものと思い込み、活線の電路に手を触れて不測の感電事故を引き起こしかねない。ここでは自家用施設の電気工事や改修、点検・検査時などで直流回路に遭遇する事例、直流電圧用検電器の使途と取扱い上の留意点などについて紹介する。
自家用施設において直流電圧用検電器を使用して、充電状態を確認する対象として、主に次のような事例をあげることができる。
(1) 常時直流が使用される事例
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直流式電気鉄道・軌道の電車線、第三軌条及び当該変電所などの電路
- 電気めっき、電気分解、電気精錬などの設備の電路
- 地中ケーブルなどによる直流式特別高圧送電線路
- 発電所、変電所、受配電設備などの直流操作回路
- 非常用電源及び発電機起動用に使用される蓄電池回路
(2) 点検、測定及び試験の際に直流が使用される事例
- ケーブルなどによる直流絶縁耐力試験回路
電気設備の電気工事、定期点検などでの停電時における進相用コンデンサーなどの電路の残留電荷
電気設備の電気工事、点検、修理などの際には検電器の使用にあたっては、労働安全衛生規則 第339条(停電作業を行なう場合の措置)第1項第2号、第3号に次のような規定がある。 労働安全衛生規則 第339条(停電作業を行なう場合の措置)第1項
二 開路した電路が電力ケーブル、電力コンデンサーなどを有する電路で、残留電荷による危険を生ずるおそれのあるものについては、安全な方法により当該残留電荷を確実に放電させること。
三 開路した電路が高圧又は特別高圧であったものについては、検電器具により停電を確認し、かつ、誤通電、他の電路との混触又は他の電路からの誘導による感電の危険を防止するため、短絡接地器具を用いて確実に短絡接地すること。
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一般に作業現場に出向く際に、電気鉄道・軌道関係者以外は直流回路に遭遇する機会が
比較的少ないこともあり、直流電圧用検電器を持参するのを忘れがちになり、直流回路での感電事故原因になることがある。したがって、直流式電気鉄道・軌道関係(第1図参照)の場合は当然のこと、その他の場合も現地に出発する前に1の(1)、(2)に該当するような施設はないか、よく確認して装備品を用意することが安全面で極めて大切である。
直流式電気鉄道・軌道関係以外の場合で、一般の電気技術者が比較的多く遭遇するのは(1)の4、5と(2)の1、2の場合が多いと考えられる。そのうちでも特に注意を要する例を次に紹介する。
(1)直流絶縁耐力試験回路の電圧印加確認
近ごろ、電力会社の配電線等の地中化が進み、引込みケーブルについても太く、かつ長くなる傾向にあり、交流で絶縁耐力試験を行うには、定格容量の大きい試験用変圧器が必要になり、手持ちの試験用変圧器では定格容量不足になることがある。
このような場合に電気設備技術基準の解釈第15条第1項第2号に基づき、直流で絶縁耐力試験を行うことができるが、その際試験時の電圧印加を確認するため、直流用検電器が必要になる(第2図参照)。
(2)進相コンデンサーなどの残留電荷有無の確認
電気設備の電気工事や定期点検を行う際は遮断器や断路器を切った後、当該交流回路に残留電荷がないかを確認するため検電をする必要がある。この場合、直流用の検電器が必要になる。
一般に高圧進相コンデンサーは、高圧回路を切らない限り変圧器などの巻線によって直流的に短絡されているので、電荷はすぐに中和する。また、切った場合でも放電抵抗が並列に接続されているので、これによって放電し、残留電荷は消滅する。
したがって、接地線を付けてもほとんど火花は出ないのが通例である。これに反し、低圧回路で負荷設備の力率改善用の進相コンデンサーは、放電抵抗が接続されていないこともあり、仮に放電抵抗接地棒を使用して接地させても静電容量が大きい関係で、電圧が減衰するのにかなり時間を要する。(第3図参照)
したがって、停電時には直流電圧用検電器で充電状態を十分に確認してから作業を開始することを忘れてはならない。
直流電圧用検電器には直流電圧専用検電器と交直流電圧両用検電器とがある。いずれにしても第4図に示すように必ず接地線が付いているので、これを接地極に確実に取り付けて、検電器の先端を充電部に接触させ、充電の有無を確認すること。なお、検電器は種類によって取扱い方法も若干相違するので、「取扱い上の注意事項」をよく理解して使用することが肝要である。