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某修理会社における高圧電動機固定子コイル修理の分析結果を第1図に示す。予防保全が49%で一番多いが、固定子コイルが関係する地絡、絶縁特性不良、レヤーショート、熱劣化、結線断線・リーク、異相間短絡、ウェッジ脱落など38%発生している。
高圧電動機巻線は運転中に種々のストレスを受けて、徐々に劣化し、絶縁耐力の低下から運転ストレスに耐えられなくなり、ついには絶縁破壊を起こして寿命に至る。このストレスは第1表の要因と現象にあげられるが、これらのストレスは、当然のことながら複合して作用し、劣化を促進させることが知られている。
(a) 熱的劣化
絶縁部材の基本的な劣化要因は「熱」である。材料の熱劣化は主として酸化や分解といった材料自身の変質によるものであるが、これによって絶縁層の構成変化(ボイド、クラックの発生など)が起こる。
(b) 機械的劣化
電動機の始動・停止あるいは負荷の変動などによって加熱・冷却の繰り返し、いわゆるヒートサイクルが発生する。通電部分でのヒートサイクルはコイル絶縁物の磨耗劣化の促進や、あるいはコイル絶縁の緊縛(ばく)部などにおける導体の疲労破断を誘発する。また、電磁振動、外部要因による機械的振動も劣化を促進する。
(c) 環境的劣化
絶縁材料は水(湿気)、雰囲気ガス、塵埃(じんあい)などの環境の影響を受けて劣化する。
(d) 電気的劣化
このように絶縁劣化した状態で電圧を印加すると、部分放電劣化(絶縁層内のボイドあるいは絶縁材料の表面での部分放電によって絶縁を侵食する劣化現象)、トリーイング劣化、トラッキング現象(絶縁材料の湿潤あるいは汚損に伴って局部的な電界の強さの高まりが起こり、沿面絶縁が低下していく劣化現象)が生ずる。
高圧電動機の寿命は25〜30年といわれるが、固定子コイルの絶縁破壊試験ではスロット端部からコイル曲がり部(コーナ部)での絶縁破壊の比率が多くなっている。経年劣化した高圧電動機の吸湿前と強制吸湿後の絶縁破壊電圧試験では、吸湿前の破壊電圧は高いレベルにあり、破壊箇所はすべてスロット部である。これに反して吸湿後では破壊電圧は大きなばらつきを示し、コイルの端部での低下が著しい。経年劣化した高圧電動機の固定子コイル絶縁は、スロット部よりもコイル端部の劣化が進んでいる場合が多く、コイル端部表面の汚損・吸湿条件によっては極端に低い破壊電圧を示す可能性があるといえる。このようなことから高圧電動機の固定子コイル絶縁は機械的な疲労劣化が主要因であることが考えられる。
(a) 電気的絶縁劣化診断の試験法
3章に示す劣化要因を電気的な非破壊試験により検出し、劣化の程度を調べるものが「電気的絶縁劣化診断」である。一般的に行われている試験法は、①直流電圧試験、②誘電正接(tanδ)試験、③交流電流試験、④部分放電試験がある。
絶縁物に交流電圧を印加した場合、流れる電流Iは損失があるため、電圧Vよりπ/2(電気角)進んだ充電電流より、わずかにδだけ遅れたものとなる。このδは誘電損角といい、その正接を誘電正接(tanδ)と呼ぶ。絶縁層内部にボイドがあると電圧印加により部分放電が発生し、tanδが上昇する。この電流が急増することから、これを絶縁劣化全体の指標として利用し、㊖tanδ、電流急増点Piを測定する。部分放電試験では最大放電電荷量(Qmax)が劣化指標とされることが多い。
劣化診断では電動機が安定した運転を継続するために必要とされる巻線絶縁の絶縁耐力が2E+1kVを有するかの劣化判定が行われる。
(b) 電気的絶縁診断の問題点
高圧電動機巻線の電気的絶縁診断は固定子巻線の主絶縁(スロット絶縁)が主対象である。しかし、固定子巻線は巻線を機械的に支持するくさび、スペーサ及び緊縛紐などの絶縁補強材料で構成されている。これらの補強材料が熱劣化によって機械的強さが低下したり、緩みが生ずると、スロット内では上下コイルの振動、コイルエンドではスペーサの磨耗などを誘発し、機械的損傷を絶縁層に与え、ついには絶縁破壊を生ずることが考えられる。
異常時の対処方法としては補修と新作を含めた代替機の採用がある。まず異常機器を所見して故障部位を確認し、補修の難易度と所要時間、運転制限の有無などを勘案して対処方法を決定する。
(a) 応急処置
故障部位が固定子コイルの場合は予備コイルとの取り替え、損傷コイルの切り離し、また損傷部位がコイルエンドで補修可能な場合は、その部分の局部修理などがある。
(b) 固定子コイル巻き替え
基本的にコイルを新作し、旧コイルを除去後に組み替えるものである。
[コイル巻き替え手順]
①分解 → ②固定子コイルのコイルエンド部で切断 → ③焼きなまし → ④冷却 → ⑤コイル製作 → ⑥亀甲形など成形 → ⑦対地絶縁巻き → ⑧スロット組み込み → ⑨口出線引き出し及び絶縁処理 → ㉂鉄心とともに真空加圧含浸 → ㉃加熱硬化
なお、②〜④は旧コイル除去の作業である。⑤以降は新規にメーカーで制作する工程と同じである。
(a) 真空含浸絶縁補強の信頼性
30年前から全含浸が一般的に採用されている。この結果、コイル巻き替えを行わないでコイル洗浄、真空加圧含浸してもエポキシ樹脂がコイル絶縁層のボイド部に浸入せず、絶縁回復が期待できないケースがある。
(b) コイル巻き替え短納期化
6章(b)項の「コイル巻き替え手順」の工程からも分かるように分解から修理・復旧までの修理期間は新品を製作するものとほぼ同じ工期を要する。
(c) F種絶縁のコイル巻き替え
近年F種電動機の事故が目立つ。この場合、F種はスロットとコイルの余裕がなくきつい。このためメーカー並みの薄肉絶縁システムの開発が求められる。
・OHM、2000年11月号、高圧電動機絶縁の寿命診断