複雑で巨大な電力系統ネットワークにもし事故が発生した場合、事故による影響を最小限にとどめるのが系統保護の役割である。この系統保護の中枢となる装置が保護継電器であり、電力系統の発展とともに大きく変化・進展してきた。本講では、電力系統用保護継電器の変遷について、2回に分け、第1回は、放射状系統と環状系統について解説する。
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この時代の特徴は以下のとおりである。
- 電力系統は小規模であり、保護継電器という特別なものはなかった。
- このため停電や周波数変動は日常茶飯事であったが、さしたる問題はなかった。
(a)電力系統の概要
当時の電力系統は当初の直流発電機(25kW、210V)、交流発電機(三相50Hz、300V)などを経て逐次拡大したが、発電所ごとに小規模ネットワークが点在する程度であった。
(b)保護継電器の概要・技術面の動き
この当時の保護継電器はヒューズまたは遮断器に付属したごく簡単なもの(過電流引外し機構付き遮断器)で、過大な電流が流れればその回路を単に自動遮断する初歩的なものであった。
当時を示す資料では1900年ごろは保護継電器という特別なものはなかったとしている。
ヒューズは事故検出と事故電流遮断の機能を兼ねるのに対し、過電流引外し機構付き遮断器は「事故の検出を過電流引外し機構、事故電流の遮断を遮断器で分担」しており、今日の保護継電器の原型ともいえる。
初歩的な保護継電器のため通常の負荷電流で不要動作して停電に至ったり、事故波及で停電範囲が拡大してしまうことは日常茶飯事のようであったが、一般の生活で停電や周波数変動はあたり前で、それほど大きな問題にはならなかったようである。
(c)主な記事
- 1878年:我が国初の電灯がともった。
- 1887年:東京電灯(株)電力供給開始(直流発電機による供給)
- 1896年:交流発電機による小規模ネットワークに移行
この時代の特徴は以下のとおりである。
- 電力系統は電圧55~110kV、こう長100~200kmと高電圧・長距離化してきた。
- これらの送電線保護のため、メカニカル形の保護継電器が誕生した。
(a)電力系統の概要
電力系統は変圧器技術の進歩によって電圧55kV、こう長76km八つ沢線や電圧110kV、こう長226km猪苗代旧幹線などの長距離・高電圧送電線が建設された。
これらは電力系統的には発電機ごとにそれぞれ独立していた(すなわち、それぞれの系統の連系なし)。
(b)保護継電器の概要・技術面の動き
これらの系統の保護のため電流が一定値以上になると、ある時間で動作する「プランジャー形過電流継電器」
(1)や「誘導円板形過電流継電器」
(2)が開発された。
保護継電器の誕生である(第1図)。
[注](1) プランジャー形過電流継電器
- 1901年アメリカ・GE社、WH社が相次いで開発した。
- これは電流が一定レベル以上になると、電流コイルの電磁吸引力によってプランジャーを吸い上げ動作する原理のもの。
[注](2) 誘導円板形過電流継電器
- 1914年GE社、WH社が相次いて開発した。
- これはアラゴの円板の原理で動作するもので、プランジャー形よりも保護性能が高く、その後も長い間、簡単な系統などで多く使用された。
前述の保護継電器の性能はそれほどではなかったが、電力系統がおのおの独立し簡単な放射状系統であったので、万一の事故の際、時間はかかったものの事故発生設備を選択遮断できるようになった。これによって系統全体が停電することは少なくなってきた。
(c)主な記事
- 1901年:世界初の保護継電器としてプランジャー形過電流継電器開発(GE社、WH社)
- 1907年:プランジャー形過電流継電器初適用(国産)
- 1914年:誘導円板形過電流継電器開発(GE社、WH社)
- 1920年:誘導円板形過電流継電器初適用(国産)
この時代の特徴は以下のとおりである。
- 電力系統は設備投資削減、供給信頼度向上などの面からおのおのの単独系統を連系する二一ズが増大してきた。
- このため送電線保護として事故区間を正確に、かつ高速に検出できる「電力線搬送方向比較継電器」が開発・適用された。
(a)電力系統の概要
電力系統は電力需要が増大するにつれて負荷切換えで電力融通を行うのも限界となり、変電所の負荷側(66kV側)に連絡線(タイライン)を設け、ここでおのおのの単独系統を連系するようになった(環状系統連系)。
(b)保護継電器の概要・技術面の動き
前述の電力規模の拡大、環状系統のはじまりによって保護継電器には事故区間をより正確に、かつ高速度に検出するニーズが高まり、高機能の誘導円筒形継電器と電力線搬送技術を組み合わせた「電力線搬送方向比較継電器」が開発された。
この保護継電器はその後も改良が加えられ、トランジスタ形保護継電器が開発されるまで20~30年にわたって154kV重要送電線などで適用された(第2図)。
これによって一般的な単純事故の場合には、事故除去時間が5~6サイクル(0.1~0.12秒)まで短縮したが、複雑事故では誤動作や誤不動作も発生した。
いずれにしても系統連系によって電源間相互の応援融通が可能となり、ある系統で需要が増大したり事故があった場合にも、ほかの系統から電力を応援してもらうことで、停電時間の短縮・運転予備力の縮小・設備投資の削減などの面で大きな効果があった。
このため前述のような連系効果の更に高い高電圧側(154kV側連系)ニーズが生じてきたが、当時の保護継電器技術からみて困難であった。
参考として誘導円筒形距離継電器の原理を第3図に示す。
(c)主な記事
- 1925年:66kV内輪系統の一部運用開始
- 1935年:66kV内輪系統の完成
- 1937年:誘導円筒形継電器開発(GE社)
- 1939年:誘導円筒形継電器国産
日本発送電株式会社発足
- 1941年:太平洋戦争はじまる
- 1943年:電力線搬送方向比較継電器初適用
- 1945年:終戦
- 1950年:誘導円筒形距離継電器適用
- 1951年:電力再編成