複雑で巨大な電力系統ネットワークにもし事故が発生した場合、事故による影響を最小限にとどめるのが系統保護の役割である。この系統保護の中枢となる装置が保護継電器であり、電力系統の発展とともに大きく変化・進展してきた。本講では、電力系統用保護継電器の変遷について、第2回目は、275kV外輪系統と500kV外輪系統について解説する。
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この時代の特徴は以下のとおりである。
- 電力系統は急激な需要増に対応するため、275kV系統が導入された。
- 保護継電器はメカニカル形からトランジスタ形に移行した。
代表例は送電線保護用の「マイクロ波回線伝送技術を活用したトランジスタ形電流位相比較継電器」である。
- ニューヨーク大停電事故を教訓に電力系統全体の信頼度向上が進められた。
- この結果を反映した位相比較継電器は今日の保護継電器技術の基礎となった。
(a)電力系統の概要
電力系統は急激な電力需要増に対応するため275kV直接接地系統(1)が導入され、
連系効果を高めるため高電圧側(275kV側)で系統連系された。
[注] (1) 直接接地系統
- 直接接地系統とは、変圧器の中性点を直接接地する系統をいう。
- これに対し、今まで説明した154kV以下のほとんどの系統は高抵抗で接地する高抵抗接地系統という。
(b)保護継電器の概要・技術の動き
275kV系統の導入当初(1950年後半)は送電線保護として電力線搬送方向比較継電器が採用された。
このような中でニューヨーク大停電事故(1965年)が発生した。この事故は約4,300万kW、最大13時間にも及ぶ史上最大の大停電であった。
この事故によって大規模・複雑化した電力系統では一つの事故が引き金となり、大停電事故に波及する事例として我が国の電力業界に対する大きな警鐘になった。これを機に全国大で保護継電器の性能向上、信頼性向上に関する検討が進められた
(2)。
[注] (2) 保護継電器信頼度向上などの委員会
- 主幹系統保護施設専門委員会 (電気協同研究会、第25巻、第43号)
- 保護継電器自動監視専門委員会(電気協同研究会、第28巻、第1号)
保護継電器の性能向上策としてマイクロ波伝送回線を用いたトランジスタ形電流位相比較継電器が開発され、1969年に初適用となった(第1図)。
この継電器は次のような面で今日の保護継電器技術の基礎となった。
- 自動監視技術の採用(誤動作と誤不動作の防止)
- 保護継電器の2系列化構成(誤不動作防止)
- 主検出とフェイルセーフのアンド構成(誤動作防止)
- 多相再閉路方式の採用(電力系統連系強化による信頼度向上)
このトランジスタ形電流位相比較継電器は、後述するディジタル形の電流差動継電器が開発されるまで標準的に採用された。
また、送電線保護継電器のほか母線保護継電器など様々な保護継電器もトランジスタ形が開発された。
これらのトランジスタ形保護継電器には当然ながら前述のような自動監視技術の採用、主検出とフェイルセーフのアンド構成などが採用され、保護継電器の誤動作や誤不動作が大幅に減少した(第2図)。
このような保護継電器の性能・信頼度向上、系統連系強化によって電力系統の信頼度は大きく向上した(第3図)。
(c)主な記事
- 1948~1949年:トランジスタ理論・試作開始
- 1951年:直接接地系統用の電力線搬送方向比較継電器初適用
- 1958年:275kV系統の一部運用開始
- 1960年:275kV外輪系統の完成
- 1964年:東京オリンピック
- 1965年:二ューヨーク大停電
- 1966年:保護継電器信頼度向上などの委員会設置
- 1969年:自動監視機能を組み込んだマイクロ波回線トランジスタ形電流位相比較継電器初適用
- 1971年:更に多相再閉路機能付きの標準装置となるマイクロ波回線トランジスタ形各相電流位相比較継電器初適用
この時代の特徴は以下のとおりである。
- 電力系統は更なる電力需要に対応するため、500kV系統が導入された。
- 保護継電器はトランジスタ形からディジタル形に移行した。
代表例は「マイクロ波回線PCM伝送技術を活用したディジタル形電流差動継電器」である。
- ディジタル形保護継電器は275kV以下の系統を含め全てにわたって標準的に採用されるようになった。
- 電力系統への重大な影響を極力未然に防止するための「電力系統安定化制御装置」も開発・適用された。
- 将来の1,000kV(UHV)系統時代に備え、主要な保護継電器が開発され、実証試験が行われた。
(a)電力系統の概要
電力系統は更なる電力需要に対応するため500kV系統が導入(1973年)され、やがて多重ループ構成化するなど巨大化・複雑化してきた。
一方で送電線建設費などの削減のため、500kV系統でも従来の2端子送電線に対し3端子送電線にするなど、あらゆる面でコストダウンが進められるようになった。
更に改正電気事業法の施行や自由化を契機に(部分自由化は2000年3月21日を皮切りに進展)、一段と設備投資が抑制され、現行の設備を最大限に有効活用する気運があらゆる面で浸透している。
(b)保護継電器の概要・技術面の動き
保護継電器はトランジスタ形からディジタル形に移行した。
その代表例は送電線保護用の「マイクロ波回線PCM伝送技術を活用したディジタル形電流差動継電器」の開発・適用である(第4図)。
500kV系統の導入後しばらくの間は前述の「トランジスタ形電流位相比較継電器」が採用されたが、ディジタル形のほうが微地絡事故時の保護性能、再閉路機能などが優れていることに加え、3端子送電線にも適用できることから標準的に採用されるようになった。
275kV以下の系統でもディジタル形保護継電器は保護性能、信頼性、スペース、コストダウン、保守の省力化などのあらゆる面で有利であることから、標準的に採用されるようになった。
更に電力系統の巨大化・複雑化に伴って事故によっては極めて大きな影響が発生するため、これを防止または未然に防ぐための「電力系統安定化制御装置」適用のニーズが高まり、保護継電器技術を駆使・活用した諸々の安定化制御装置が開発・適用されている(詳細略)。
将来の1,000kV(UHV)系統時代に備え、主要な送電線、変圧器、母線用の保護継電器も開発され、1996年から実証試験が行われた。
改正電気事業法の施行や部分自由化開始(2000年3月21日)を契機に一段と設備投資が抑制されていることから、保護継電器技術や安定化制御技術はますます重要になってきている。
(c)主な記事
- 1971年:マイクロプロセッサの開発
- 1973年:500kV系統の一部運用開始
- 1980年:500kV外輪系統ほぼ完成
- 1980年:世界初のディジタル形継電器の適用(66kV送電線)
- 1981年:PCM伝送ディジタル形電流差動継電器の初適用
- 1982年:ディジタル形保護継電器の標準適用開始
- 1994年:UHV系統保護継電器実証試験開始
- 1995年:卸発電部門への新規参入拡大などを柱とする改正電気事業法施行
- 1997年:COP3、京都で開催
- 2000年:改正電気事業施行、部分自由化開始(その後も進展)
保護継電器はどちらかというと分かりにくい範囲であり、しかもそれを100年も前から理解するのはとても大変である。
そのためここでは少しでも理解しやすいように年代を、
- 電力系統のはじまり (約20年)
- 長距離送電線による放射状系統のはじまり(約30年)
- 環状系統のはじまり (約20年)
- 275kV外輪系統のはじまり・拡充(約20年)
- 500kV外輪系統のはじまり・拡充(約30年)
に分け、それぞれの時代の特徴を簡潔に述べ、次いで電力系統の変遷と保護継電器の変遷を極力リンクして解説した。
これらの時代を振り返ってみると、
- 事故遮断時間は初期の数秒オーダーから、現在は0.07秒オーダーと大幅に改善されている。
- 保護継電器の誤動作、誤不動作件数はここ30年ぐらいをみても、大幅に減少している。多相再閉路による系統連系強化なども含めると、電力系統信頼度面での効果は極めて大きくなっている。
- 更に保護継電器のスペース、保守・点検業務も大幅に減少しており、多端子送電線などの建設費までを総合的にみるとコストダウン効果も極めて大きくなっている。
なお、紙面の都合上、配電系統は省略している。また、各種保護継電器の細かな原理などは省略し、極めて簡単な原理だけにとどめて解説している。更に電力系統の状況などについては一部の例(東京電力)を使用させてもらった。
最近の保護継電器はとても奥が深く、例えば電力系統計画の際にも早めに保護継電器面の検討をしている。建設費の削減や既設設備の有効活用を最大限にしていくには、保護継電器面との協調が必要になるからである。また、建設後の実運用や保守面でも保護継電器面との協調の必要性がいっそう増大している。
ここではそのような面までは解明できませんが、今後、多少なりともお役に立てば幸いです。現時点においても、信頼度向上とコストダウンのため新たなステップを目指して検討・研究を重ねていると思いますが、これらについては次の機会での紹介になります。
今回の「電力系統用保護継電器の変遷」の作成にあたっては、長い間にわたる「多くの資料や諸先輩のお話し」を参考にしました。
お世話になりました方々に心から感謝申し上げます。