このページにおける、サイト内の位置情報は以下です。


社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
配線用遮断器の構造、性能、保護協調について 旭化成エンジニアリング(株) 電気設計部 大川 美彦

配線用遮断器は取扱いが容易で、操作ハンドルによって安全に電気回路の開閉が行え、規定以上の過電流で自動的に電路を開路するように設計製作された低圧電路用保護機器である。本講では、配線用遮断器の構造、性能、保護協調について解説する。

1.配線用遮断器の構造

 第1図に示すように高速で接触子を開閉する開閉機構部、電流を遮断する際に発生したアークを消弧する消弧装置、過電流で開閉機構を作動させる引外し装置、電流の入・切を行う接触子などを絶縁物のモールドケースに収めたものである。

2.消弧装置

 消弧装置の原理は第2図に示すようにアークによって発生した磁束によりアークはグリッドの切欠きの奥のほうへ駆動され、このためアークは引き伸ばされ、グリッドによって分断され、冷却作用によってアーク抵抗が大きくなり、電源電圧がアーク電圧を維持できなくなり消弧する。

3.引外し装置

(1)熱動 - 電磁式

 第3図に示すようにバイメタルが過電流によって発生するジュール熱により矢印方向にわん曲して、配線用遮断器の開閉機構に連動したトリップレバーとフックの係合を外しトリップさせる(熱動引外し)。また、短絡電流のように非常に大きな電流が流れると電磁石の可動鉄心が固定鉄心側に吸引され、フックの係合が外されトリップさせる(瞬時引外し)。

 以上から過電流引外し特性は、第4図に示すように熱動引外しによる時延特性(反限時特性)と電磁引外しによる瞬時引外し特性をもつ。

(2)完全電磁式

 第5図に示すように時延引外し要素としてオイルダッシュポット付き電磁石を用いたものである。引外しコイルに過電流が流れると可動鉄心が矢印方向に制動スプリングに打ち勝って動き、固定鉄心に接近すると可動鉄片の磁束量が大きくなり固定鉄心側に吸引され、可動鉄片のラッチ軸に対応する部分で配線用遮断器のラッチを外しトリップする。制動油の粘性抵抗による可動鉄心の制動を利用して反限時特性が得られる。一方、非常に大きな電流が流れると漏れ磁束の増加のため可動鉄心がほとんど動かない状態でも可動鉄片が瞬時に吸引しトリップさせる。

(3)電子式

 第6図に示すように過電流検出、演算・制御、引外し指令などの機能が電子回路によって行われる。

 ① 主回路に負荷電流が流れるとそれに比例した二次電流がCT二次側に流れる。

 ② 各相の二次電流を整流回路でそれぞれ整流し、それらに比例したアナログ信号を瞬時回路や相選択サンプリング回路へ送る。

 ③ 相選択サンプリング回路は各相信号をサンプリングし、A/D変換器でアナログ信号をデジタル信号に変換する。

 ④ マイクロコンピュータは各相ごとに実効値演算し、最大相の信号で長限時引外しやプレアラーム特性処理を行う。短限時引外しにはピーク値演算した値を用い、所定の時間後トリガ回路をONさせる。

 ⑤ 瞬時回路は各相アナログ信号のピーク値が所定値を超えていれば瞬時にトリガ回路をONさせる。

4.接触子

 接触子は定格通電時の温度上昇が低く、電流の開閉時に発生するアークで損傷することなく、極めて過酷な短絡電流の遮断、投入時のアークによって溶着、異常消耗がない良質な銀合金材料が選定されている。大容量の場合、第7図に示すように通電を目的とする主接点とアーク遮断を目的とするアーキング接点に分割されており、主接点は銀のパーセントが多い銀 - タングステン合金、銀 - グラファイト合金、銀 - ニッケル合金などが用いられる。アーキング接点はアークエネルギーによって消耗の少ないタングステンの多い銀 - タングステン合金系のものが用いられる。

5.配線用遮断器の性能

(1)定格遮断容量

 指定の回路条件の下で規定の動作責務(O - 2分 - CO)に従って定格遮断容量に等しい電流で短絡電流遮断試験を行い、その電流遮断の性能が確認されること。

 ただし、O:遮断動作、CO:投入動作に引き続き、猶予なく遮断動作を行うもの。

(2)開閉耐久性能

 定格電圧で定格電流を開閉する通電開閉と無通電開閉があり、指定された開閉頻度で通電試験と無通電試験の反復から成る連続開閉試験を行い、機械的、電気的に支障があってはならない。

6.保護協調

 高圧受電設備規程によると、「事故回路は確実にこれを遮断し、事故回路以外の健全回路には給電を継続する。また、負荷機器や回路機器さらには保護する遮断器が損傷しないように保護機器の動作特性曲線を調整する」ことが保護協調の定義とされている。

(1)選択遮断方式

 選択遮断方式とは、事故回路に直接関係する保護装置だけが動作し、ほかの健全な回路はそのまま給電が継続されることを目的とした保護方式である。第8図で、S2点の事故に対してはNFB2だけが動作し、上位のNFB1及び分岐回路NFB3は動作に至らない。

(2)電動機との保護協調

 第9図(a)に示すように電動機回路はNFB、電磁接触器及びサーマルリレー(熱動リレー)で構成される。第9図(b)は電動機回路の保護協調で、電動機の始動電流、サーマルリレー及びNFBの動作特性、電動機熱特性、負荷側及びNFB電源側電線の許容電流時間特性での関係を示す。

 ① NFBは短絡電流を確実に遮断できる遮断容量をもち、配線を短絡及び過負荷から守ること。電動機の始動電流で誤動作しないこと。

 ② サーマルリレーは電動機の過負荷及び拘束時の保護を確実に行える動作特性のものであること。

 [参考文献]

 ・三菱:ノーヒューズ遮断器・漏電遮断器技術資料集

 ・寺崎電気産業:TemBreak ノーヒューズブレーカ・漏電遮断機