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変圧器の寿命は一般に30年とされ、約30年運転された変圧器のコイルに使用されていた絶縁紙の平均重合度は、初期値の40〜60%に低下していることが報告されている。
一般に国内で使用されている油入変圧器の絶縁紙の初期値は1000前後であり、絶対値で250〜300程度まで低下すると絶縁紙そのものの機械的強度が期待できない。以上のことから、平均重合度の危険レベルとしては測定のばらつきも考慮して250以下としている。
また劣化の限界については、以下のような考え方も提案されている。外部短絡時にコイルに発生する電磁力はコイルの半径方向に生じる。この時、コイルに巻かれている絶縁紙には、その巻き方向に対して大きな引張り強さがはたらく。外部短絡時にコイルにかかる引張力をもとにすると、経年劣化の絶縁紙に必要な最低引張強さは初期値の60%が限界となる。したがって、絶縁紙の経年劣化による寿命は引張強さ残率で60%になるという考え方である。引張強さ残率が60%になるのは平均重合度残率では40〜45%程度になっているので、初期値を1000前後とすると、絶対値では400〜450程度になると考えられる。したがって、平均重合度の寿命レベルとしては測定のばらつきも考慮して450以下とした。
このように変圧器の運転で発生する熱によって、コイル絶縁紙の機械的強度が次第に低下し、遂には外部短絡時の巻線電磁機械力によって絶縁紙が損傷して絶縁破壊に至る。
劣化のメカニズムは、熱的要因、電気的要因、機械的要因及び環境的要因が単独または複合的に作用し劣化が進展していく。
変圧器の内部に生ずる事故は巻線の絶縁破壊によるものであるが、その形態はつぎのようなものである。
①.巻線の短絡あるいは層間短絡
②.巻線と鉄心間の絶縁破壊による地絡
③.高低圧巻線の混触
④.断線
このうちもっとも多いのは①である。
油入変圧器の内部異常が発生した場合、異常部位の過熱や放電現象により絶縁油や絶縁物が分解し、正常運転している変圧器では発生しない分解ガスが発生する。第1図は、熱分解によって絶縁油に近い炭化水素液体(C20H40)から生成するガスの組成を示す。
電気式である比率差動継電器で検出されない比較的小さな層間短絡を検出するため、変圧器内部の油圧変化率・ガス圧変化率や油流変化率で動作する継電器(それぞれ衝撃油圧継電器、衝撃圧力継電器、ブッフホルツ継電器第2段またはピトー継電器第2段)を使用する。
さらに鉄心成層絶縁の破壊による鉄心の局部過熱、鉄心締付ボルトの絶縁不良、接続部の接触不良などもっと軽微で徐々に進行する内部事故は、ガス検出継電器、ブッフホルツ継電器第1段、ピトー継電器第1段などの保護継電器で検出される。
また、変圧器内部の異常圧力を緩和するために放圧装置が取り付けられている。
機械的保護継電器が変圧器のどの部位に取り付けられているかを示したものが第2図である。
(1)ブッフホルツ継電器
変圧器の主タンクとコンサベータを結ぶ連結管の途中に取り付けられる。構造図を第3図に、動作原理を第4図に示す。軽故障時は、分解ガスが徐々にガス溜室に溜まり軽故障検出浮子を下げマイクロスイッチが作動する。重故障時は変圧器本体からの急激な油流によって浮子が下げられマイクロスイッチが作動する。
この継電器は動作が二次的現象によっているため重故障時の動作時間が遅く、また地震等の振動で誤動作しやすく、信頼度もあまり高くないので最近では警報回路のみに使用されることが多い。
(2)ピトー継電器
変圧器の主タンクとコンサベータを結ぶ連結管の途中に取り付けられる。構造図を第5図に示す。
軽故障時は変圧器の内部異常による発生ガスは連結管①を通り、ガス室⑧に集められ、これが規定量に達するとガスは導管⑦により防振覆内⑤に導かれ、ガスがたまるにしたがって浮子③が下降して磁石④によりリードリレーの接点②が閉路する。したがって規定量以下のガスのときは浮子の変位がないので振動によって誤動作することはない。
重故障時は事故時の急激な圧力上昇により連結管①に生じた油流はピトー管(動圧)⑩、ピトー管(静圧)⑪によりベロー⑫の内外に圧力差を生じさせる。ベローが下降して磁石⑬によりリードリレーの接点⑭が閉路する。正常時はベロー内外に圧力差がなく、コンサベータの油面変動や内部封入ガス圧の変動によって誤動作することはない。
(3)衝撃油圧継電器
構造図を第6図に示す。故障によるガス発生のため絶縁油の圧力が異常上昇すると、それを機械的に検出して動作する。主タンクの側壁に取り付けられる。
(4)衝撃ガス圧継電器
構造図を第7図に示す。故障により発生するガスによりタンク内部の圧力が異常上昇すると動作する。変圧器油面上のガス室部に取り付けられる。
(5)放圧装置
さらに急激な事故に対しては第8図に示すような避圧弁によって機械的に保護する。放圧装置は変圧器の内部短絡事故などによって発生するガス及び油の膨張分を外部に放出し、タンク内の圧力上昇を防ぎ、タンクの変形破壊を避ける装置である。変圧器のタンクカバー等に取り付けられ、変圧器内部の圧力上昇が発生すると放圧板を壊して逃がす、又は受圧板を押し上げて逃がすと同時に電気接点を動作させて信号を出す。
変圧器本体の事故・障害に関するある実態調査では、機械的保護継電器に起因する事故・障害件数は三番目で、比率は約10%を占めており、このうち自然劣化・保守不完全が五割ある。機械的保護継電器の更新には、油の処理が伴うので、容易にはできないのが現状で、又、保守しにくい位置に設置されていることもトラブル発生の遠因になっていると考えられる。
事例1.衝撃油圧継電器端子口の腐食(使用期間20年)
衝撃油圧継電器端子口にて白い粉が詰まって端子が腐食し地絡・短絡となり10MVA変圧器がトリップした。
事例2.放圧装置の誤動作でトリップ
避圧弁本体の補強板が錆の発生により僅かに開いており、これにより引き外しローラーが動いてレバーが動作位置となった。
事例3.ブッフホルツ継電器の地震時の誤動作
1987年の千葉東方沖地震(M6.7)時に、非耐震形の同継電器が動作し、電解プラントを全停止させた。
事例4.ブッフホルツ継電器、ピトー継電器の1段警報が作動
窒素ガスは圧力が高くなれば、あるいは温度が高くなれば油への溶解量が増す。この状態で温度・圧力が低下すれば過飽和の状態となり、徐々に窒素ガスを放出し、変圧器の振動に刺激され、油中で気泡として析出され、ブッフホルツ継電器に蓄積され誤動作の原因となる。外気温度の低下(冬季)、変圧器負荷の減少時に1段(軽故障)が作動することが知られている。
計器・継電器の故障で最も多いのは、シールガスケットの経年劣化に起因する吸湿や浸水によるスイッチ回路の絶縁抵抗低下やその結果発生する短絡などである。さらに、マイクロスイッチについては機構部の経年劣化による誤動作があり、無用の警報や変圧器停止の原因となっている。計器・継電器類の主要構成部品を調査するとガスケットとマイクロスイッチはそのほとんどに使用されており、これらの寿命を決定づけるキーパーツとなっている。第2表にJEMの油入変圧器付属品の更新推奨時期を示す。
(1)ブッフホルツ継電器
ブッフホルツ継電器の機構部やリードスイッチなどは、ガスケットによってシールされた機密の部屋に収納されている。このシール用ガスケットは経年劣化で徐々に油面が低下し、シール効果を損なう恐れがあるため、一般に寿命は10〜15年といわれている。
(2)ピトー継電器
ピトー継電器もブッフホルツ継電器と同じ理由から一般に寿命は10〜15年といわれている。
(3)衝撃油圧継電器、衝撃ガス圧継電器
データ調査、分析の結果から動作不良などによって継電器の信頼性を低下させる根本的な原因は、各部の気密、油密シール材の経年劣化による密封性能の低下が主要因であった。その結果として、気密、油密が保てなくなり、本体内部に外気やガス、油が侵入してパーツが損傷を受け、再使用が不可能となっているケースがほとんどであった。機器の重要性から総合的に判断して10年とした。
(4)放圧装置
放圧装置内に取り付けられている放圧板に、金属、樹脂及びガラスが用いられているが、特に樹脂製の場合は、経年劣化によるひび、割れによる誤動作を防ぐため10年位で取り替えるのが望ましい。
・電気学会技術報告弟922号 経年変圧器の信頼性維持技術の現状と動向
・JEM-TR197 油入変圧器付属品の更新推奨時期