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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座
Presented by Electric Engineer's Association

電気技術解説講座 三相交流回路3~異容量V結線と相順~ 学校法人育英学園 サレジオ工業高等専門学校 非常勤講師 郷 冨夫


異容量V結線方式(以降、)V-V結線をV結線と称する)は、2台の異容量の単相変圧器をV結線して三相負荷と単相負荷に供給する非対称三相4線式配電方式である。単相負荷を進み相側の変圧器に接続する「進み接続」や、遅れ相側に接続する「遅れ接続」、更に「開放相接続」がある。単相負荷を接続する相は、共用変圧器の容量を低減できる方が良いが、「進み接続」か「遅れ接続」のどちらが有利かは、三相負荷と単相負荷の力率によって異なってくる。

既存講座(需要設備)「単相変圧器による異容量V-V結線方式の特徴」では、相順abcにおいて、三相及び単相負荷の容量が決まっているときの共用及び専用変圧器に必要な容量の計算式、また逆に、共用及び専用変圧器の容量が決まっているときの三相及び単相負荷に許容される容量の計算式などについて詳述されている。

本講座では、相順、力率及び進み、遅れ接続の違いで共用変圧器容量の低減が可能になる条件を、回路図及びベクトル図を用いて確認する。

異容量V結線(相順abcの場合)

第1図に回路図の例(相順abc)、第2図にベクトル図を示す。ここでは、ベクトル図や説明の煩雑さを避けるため、三相負荷及び単相3線負荷は平衡している条件で説明を行う。

第1図 相順abc 進み接続

第2図 相順abc 進み接続

(1)進み接続

第1図で単相負荷は、進み相側の変圧器(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))に接続(\(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\) に対して位相が進んでいるので「進み接続」と称する)されている。平衡三相負荷の力率を cosθ3(遅れ)、単相負荷の力率を cosθ1(遅れ)とする。

平衡三相負荷電流を \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\)、I3 = |\(\dot{I}_{3a}\)| = |\(\dot{I}_{3b}\)| = |\(\dot{I}_{3c}\)|、単相負荷電流を \(\dot{I}_1\) とすると、共用変圧器および専用変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{Vbc}\) は、それぞれ次式で表される。

\(\dot{I}_{Vab}=\dot{I}_{3a}+\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{Vbc}=-\dot{I}_{3c}\)

第2図のベクトル図のように、電流 \(\dot{I}_{3a}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差を φa とすると、余弦定理を適用して、

IVab = \(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_a}\) 、 IVbc = I3

ここで、φa = 30° + (θ3° − θ1°)

したがって、線間電圧 V = |\(\dot{V}_{ab}\)| = |\(\dot{V}_{bc}\)| = |\(\dot{V}_{ca}\)| とすると、共用変圧器および専用変圧器の容量 Ta、Tb はそれぞれ次式で表される。

Ta=Vab IVab=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_a}\) 、 Tb=Vbc IVbc=V I3

ここで、第2図のベクトル図が複雑になっているので、その描き方を概説する。

  • 基準ベクトルを \(\dot{V}_{ab}\) として、三相負荷の線間電圧 \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) を時計回りに順に描く。\(\dot{V}_{ab}\) は共用変圧器起電力、\(\dot{V}_{bc}\) は専用変圧器起電力、\(\dot{V}_{ca}\) は (\(\dot{V}_{ab}+\dot{V}_{bc}\)) とは逆向きの電圧 \(-(\dot{V}_{ab}+\dot{V}_{bc})\) に相当する。
  • 相順abcなので、線間電圧 \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) に対し大きさが 1/\(\sqrt{3}\)、位相角が 30° 遅れた三相負荷の相電圧 \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) を時計回りに順に描く。
  • 相電圧 \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) より位相角が θ3 遅れた三相負荷電流 \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 共用変圧器起電力 \(\dot{V}_{ab}\) に対し位相角が θ1 遅れた単相負荷電流 \(\dot{I}_1\) を描く。単相3線式の中性線には2つの単相負荷の差電流 \(\dot{I}_n\) が流れるが、ここでは2つの単相負荷が同容量であるとし、\(\dot{I}_n=0\) とする。
  • 単相負荷に電力を供給する進み相側(変圧器起電力 \(\dot{V}_{ab}\))の共用変圧器に流れる電流を、\(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vab}\) として描く。
  • \(\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{3a}\) の位相差 φa は、(\(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{E}_a\) の位相差)+(\(\dot{E}_a\)\(\dot{I}_{3a}\) の位相差)−(\(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{I}_1\) の位相差)、即ち、φa = 30° + (θ3° − θ1°) となる。
  • 遅れ相側(変圧器起電力 \(\dot{V}_{bc}\))の専用変圧器に流れる、\(\dot{I}_{3c}\) とは逆向きの電流 \(-\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 共用変圧器と専用変圧器の接続点 b から流れ出る電流 \(\dot{I}_{3b}-\dot{I}_1\) を描く。
  • 電源側の端子 a、b、c より流出する電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{3b}-\dot{I}_1\)\(-\dot{I}_{Vbc}\) のベクトル和は零である。

(2)遅れ接続

単相負荷を遅れ相側の変圧器(起電力 \(\dot{V}_{bc}\))に接続する「遅れ接続」の場合の回路図を第3図、ベクトル図を第4図に示す。共用変圧器に流れる電流及び専用変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vbc}\)\(\dot{I}_{Vab}\) は、それぞれ次式で表される。

\(\dot{I}_{Vbc}=-\dot{I}_{3c}+\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{Vab}=\dot{I}_{3a}\)

第4図のベクトル図のように、電流 \(-\dot{I}_{3c}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差を φc とすると、

IVbc=\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_c}\) 、 IVab=I3

ここで、φc = 30° − (θ3 − θ1)

したがって、共用変圧器および専用変圧器の容量 Tb、Ta はそれぞれ次式で表される。

Tb=Vbc IVbc=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_c}\) 、 Ta=Vab IVab=V I3

ここで、第4図のベクトル図の描き方を概説する。

  • 第2図と同様に \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) 及び \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) を描き、三相電流 \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 共用変圧器起電力 \(\dot{V}_{bc}\) に対し θ1 位相角が遅れた単相負荷電流 \(\dot{I}_1\) を描く。ただし \(\dot{I}_n=0\)
  • 単相負荷に電力を供給する遅れ相側(起電力 \(\dot{V}_{bc}\))の共用変圧器に流れる電流を、\(\dot{I}_{3c}\) とは逆向きの電流 \(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vbc}\) として描く。
  • \(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) の位相差 φc は、(\(-\dot{E}_c\)\(\dot{V}_{bc}\) の位相差)−(\(-\dot{E}_c\)\(-\dot{I}_{3c}\) の位相差)+(\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{I}_1\) の位相差)、即ち、φc=30°−(θ3°−θ1°) となる。
  • 進み相側(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))の専用変圧器には電流 \(\dot{I}_{3a}\) が流れる。
  • 共用変圧器と専用変圧器の接続点 b から流れ出る電流 \(\dot{I}_{3b}+\dot{I}_1\) を描く。
  • 電源側の端子 a、b、c より流出する電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{3b}+\dot{I}_1\)\(-\dot{I}_{Vbc}\) のベクトル和は零である。

第3図 相順abc 遅れ接続

\(\dot{I}\)vbc 拡大図

第4図 相順abc 遅れ接続 

通常、単相負荷には力率が1に近い電灯負荷を,平衡三相負荷には力率が遅れ力率70~90%程度の動力負荷を接続する。このように θ13 のとき、相順abcの場合には φac、即ち(第2図に示す「進み接続」での IVab)<(第4図に示す「遅れ接続」での IVbc)となり、「進み接続」の方が、共用変圧器容量が低減できることになり、有利である。これが、異容量V結線の最大のメリットになる。

反対に、θ13 のとき、相順abcの場合には φac、即ち IVab>IVbc となり、「遅れ接続」の方が、共用変圧器容量が低減できることになり、有利となる。

また、θ13 のときには、IVab=IVbc となり、「進み接続」「遅れ接続」共に共用変圧器容量は同じ大きさになる。

異容量V結線(相順acbの場合)

異容量V結線の電源の逆相順接続は、竣工試験にて相回転試験を実施し、接続が正しいことを十分確認し、また、万が一逆相順になっていたとしても三相電動機の逆回転等ですぐに発見されるので、逆相順のままで運用し続けることは通常は考え難いが、ここでは逆相順であったとして影響を考察する。

θ13 のとき、「進み接続」として ab 端子間に単相負荷を接続した状態で、誤接続により電源の相順が acb になった場合には、実際には「遅れ接続」になり、最悪の場合、共用変圧器が過負荷になる。

異容量V結線方式では、相順がabcであるかacbであるかの違いによって、単相負荷を接続するのに有利な相は入れ替わるが、相の名称を読み替えるだけで基本的な関係は変わらないので、誤って逆相順にしてしまった場合の影響は容易に推定することができる。

【参考】

以降、参考として、相順acbの場合の「遅れ接続」及び「進み接続」についてのベクトル図を説明する。また、「例題」を通し、相順abcとacbの共用変圧器容量の違いの具体例を示す。最後に「開放相接続」の場合のベクトル図を説明し、「例題」を通して2台の変圧器の容量を確認する。

(1)相順acbの場合の「遅れ接続」

第5図に相順acbの場合の異容量V結線の回路図、及び第6図にベクトル図を示す。単相負荷は,遅れ相側の変圧器(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))に接続されている。第6図のベクトル図の描き方を概説して、相順acbと相順abcの違い(相違点 、注意点 )を確認する。

  • 基準ベクトルを \(\dot{V}_{ab}\) として、三相負荷の線間電圧 \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\)反時計回りに順に描く。
  • 相順acbなので、線間電圧 \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) に対し大きさが 1/\(\sqrt{3}\)、位相角が 30° 進んだ三相負荷の相電圧 \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\)反時計回りに順に描く。
  • 相電圧 \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) より位相角が θ3 遅れた(相順abcと同様に時計回りに θ3)三相負荷電流 \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 共用変圧器起電力 \(\dot{V}_{ab}\) に対し位相角が θ1 遅れた(時計回りに θ1)単相負荷電流 \(\dot{I}_1\) を描く。ここでも、単相3線式の中性線電流 \(\dot{I}_n=0\) とする。
  • 単相負荷に電力を供給する遅れ相側(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))の共用変圧器に流れる電流を、\(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vab}\) として描く。
  • \(\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{3a}\) の位相差 φa は、φa=30°−(θ3°−θ1°) となる。
  • 進み相側(\(\dot{V}_{bc}\))の専用変圧器に流れる、\(\dot{I}_{3c}\) とは逆向きの電流 \(-\dot{I}_{3c}\) を描く。

相順acb「遅れ接続」の場合の共用変圧器および専用変圧器の容量 Ta、Tb はそれぞれ次式で表される。

Ta=Vab IVab=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_a}\) 、Tb=Vbc IVbc=V I3

ここで、共用変圧器および専用変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{Vbc}\) は、相順abc「進み接続」の場合と同様の電流分布になるので、

\(\dot{I}_{Vab}=\dot{I}_{3a}+\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{Vbc}=-\dot{I}_{3c}\)

ただし、電流 \(\dot{I}_{3a}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差 φa は、相順abc「遅れ接続」の場合と同様、φa=30°−(θ3°−θ1°)
となる。

第5図 相順acb 遅れ接続

第6図 相順acb 遅れ接続

(2)相順acbの場合の「進み接続」

単相負荷を進み相側の変圧器(起電力 \(\dot{V}_{bc}\))に接続する「進み接続」の場合の回路図を第7図、ベクトル図を第8図に示す。

第8図のベクトル図の描き方を概説する。相違点を 、注意点を で示す。

  • 第6図と同様に \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) 及び \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\)反時計方向に順に描き、\(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) に対し位相角が θ3 遅れた 三相電流 \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 共用変圧器起電力 \(\dot{V}_{bc}\) に対し位相角が θ1遅れた 単相負荷電流 \(\dot{I}_1\) を描く。ただし、\(\dot{I}_n=0\)
  • 単相負荷に電力を供給する進み相側(起電力 \(\dot{V}_{bc}\))の共用変圧器に流れる電流を、\(\dot{I}_{3c}\)とは逆向きの電流 \(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vbc}\) として描く。
  • \(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) の位相差 φc は、φc=30°+(θ3°−θ1°) となる。
  • 遅れ相側(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))の専用変圧器には電流 \(\dot{I}_{3a}\) が流れる。

相順acb「進み接続」の場合の共用変圧器および専用変圧器の容量 Tb、Ta はそれぞれ次式で表される。

Tb=Vbc IVbc=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_c}\) 、Ta=Vab IVab=V I3

ここで、共用変圧器に流れる電流及び専用変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vbc}\)\(\dot{I}_{Vab}\) は、相順abc「遅れ接続」の場合と同様の電流分布になるので、

\(\dot{I}_{Vbc}=-\dot{I}_{3c}+\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{Vab}=\dot{I}_{3a}\)

ただし、電流 \(-\dot{I}_{3c}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差 φc は、相順abc「進み接続」の場合と同様
\(\phi_c = 30° + (\theta_3° - \theta_1°)\)
となる。

第7図 相順acb 進み接続

第8図 相順acb 進み接続

相順acbの場合、θ13のときにはφac、即ち(第6図に示す「遅れ接続」での IVab)>(第8図に示す「進み接続」での IVbc)となるので、相順abcの場合と同様「進み接続」の方が、共用変圧器容量が低減できることになり、有利である。反対に、θ13のときにはφac、即ち IVab<IVbcとなるので、「遅れ接続」の方が、共用変圧器容量が低減できることになる。また、θ13のときには、IVab=IVbcとなり、「進み接続」「遅れ接続」共に共用変圧器容量が同じ大きさになる。

(3)例題(相順abc及びacb)

【例題1】

【例題1】 第9図(相順abc)のように、2台の単相変圧器による電灯動力共用の三相4線式低圧配電線に、平衡三相負荷45kW(遅れ力率角30°)1個、及び端子abに単相負荷10kW(力率1.0)2個が接続されている。これに供給するための共用変圧器及び専用変圧器の容量の値 [kV・A] は、それぞれいくら以上でなければならないか。また、端子abに単相負荷を接続したままで、電源側が誤接続により相順acbになってしまった場合についても、同様に求めよ。

【解答】

第9図に相順abcの「進み接続」の回路図を示す。

\(\dot{E}_a\)に対し線電流\(\dot{I}_{3a}\)は30°遅れているので、\(\dot{I}_{3a}\)は進み相側の変圧器起電力\(\dot{V}_{ab}\)に対し60°遅れ、直列接続の単相負荷にかかる\(\dot{V}_{ab}\)が力率1.0のため単相電流\(\dot{I}_1\)\(\dot{V}_{ab}\)と同相であり、したがって\(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\)より60°遅れる。

単相電流 I1、三相電流(各相) I3 は、

I1=\(\frac{20}{V_{ab}}\)=\(\frac{20}{V}\) 、 I3a=\(\frac{45}{\sqrt{3}\,V_{ab}\cos30°}\)=\(\frac{30}{V_{ab}}\)=\(\frac{30}{V}\)=I3

また、上記より \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\) の位相差は60°であるので

IVab=\(\sqrt{(I_{3a}+I_1\cos60°)^2+(I_1\sin60°)^2}\)
=\(\sqrt{\left(\frac{30}{V}+\frac{20}{V}\times0.5\right)^2+\left(\frac{20}{V}\times0.866\right)^2}\)
=\(\sqrt{\left(\frac{40}{V}\right)^2+\left(\frac{17.32}{V}\right)^2}\)=\(\frac{43.6}{V}\) [A]

したがって

共用変圧器容量 Ta=Vab IVab=V×\(\frac{43.6}{V}\)=43.6[kV∙A]

専用変圧器容量 Tb=Vbc IVbc=Vbc I3=V×\(\frac{30}{V}\)=30[kV∙A]

第9図 相順abc 進み接続

第10図 相順abc 進み接続

次に、第11図は、電源側が相順acbになった場合の回路図(「遅れ接続」になる)を示す。

相順がacbである場合、電圧ベクトル図を描くと第12図のようになる。負荷の相電圧 \(\dot{E}_a\) に対し線電流 \(\dot{I}_{3a}\) は30°遅れるので、\(\dot{I}_1\) はV結線の遅れ相側変圧器起電力 \(\dot{V}_{ab}\) と同相になる。直列接続した単相負荷には \(\dot{V}_{ab}\) が加わるので、単相負荷の力率が1.0であることから単相電流 \(\dot{I}_1\)\(\dot{V}_{ab}\) と同相になり、したがって \(\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{3a}\) は同相になる。

単相電流 I1、三相電流 I3は、相順abcの場合と同じように、

I1=\(\frac{20}{V_{ab}}\)=\(\frac{20}{V}\) 、 I3a=\(\frac{45}{\sqrt{3}\,V_{ab}\cos30°}\)=\(\frac{30}{V_{ab}}\)=\(\frac{30}{V}\)=I3

したがって、上記より、\(\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{3a}\) は同相であるので、

共用変圧器容量 Ta=Vab IVab=Vab(I1+I3a)=Vab(I1+I3)=V(\(\frac{20}{V}+\frac{30}{V}\))=50[kV∙A]

専用変圧器容量 Tb=Vbc IVbc=Vbc I3=V×\(\frac{30}{V}\)=30[kV∙A]

第11図 相順acb 遅れ接続

第12図 相順acb 遅れ接続

 結論として、相順abcの場合、ab端子に単相負荷を接続する「進み接続」により第10図のように共有変圧器容量を低減できる。しかしながら、この接続のままで、相順がacbになった場合には、第12図に示すように「遅れ接続」になってしまい、変圧器容量はあまり低減できなくなる。この場合、最悪、共有変圧器が過負荷になる。

(4)相順abcの場合の「開放相接続」

第13図、第14図に示す「開放相接続」では、2台の変圧器双方に単相負荷電流が流れるので、共用変圧器、専用変圧器の区別はない。この場合、単相2線式で単相負荷に線間電圧が加わることになる。進み相側及び遅れ相側の変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{Vbc}\) は、それぞれ次式で表される。

第13図、第14図に示す「開放相接続」では、2台の変圧器双方に単相負荷電流が流れるので、共用変圧器、専用変圧器の区別はない。この場合、単相2線式で単相負荷に線間電圧が加わることになる。進み相側及び遅れ相側の変圧器に流れる電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{Vbc}\) は、それぞれ次式で表される。

\(\dot{I}_{Vab}=\dot{I}_{3a}+\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{Vbc}=-\dot{I}_{3c}+\dot{I}_1\)

第14図のベクトル図のように、電流 \(\dot{I}_{3a}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差を φa1 とし、電流 \(-\dot{I}_{3c}\) と電流 \(\dot{I}_1\) の位相差を φc1 とすると、

IVab=\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_{a1}}\) 、IVbc=\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_{c1}}\)

ここで、φa1=30°-(θ3°-θ1°) 、φc1=30°+(θ3°-θ1°)

したがって、進み相側変圧器および遅れ相側変圧器の容量 Ta、Tb はそれぞれ次式で表される。

Ta=Vab IVab=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_{a1}}\)

Tb=Vbc IVbc=V\(\sqrt{I_1^{2}+I_3^{2}+2 I_1 I_3 \cos\phi_{c1}}\)

第13図 相順abc 開放相接続

\(\dot{I}\)vab\(\dot{I}\)vbc 拡大図

第14図 相順abc 開放相接続

ここで、第14図のベクトル図の描き方を概説する。

  • 相順abcであるから、第2図と同様に \(\dot{V}_{ab}\)\(\dot{V}_{bc}\)\(\dot{V}_{ca}\) 及び \(\dot{E}_a\)\(\dot{E}_b\)\(\dot{E}_c\) を描き、三相電流 \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(\dot{I}_{3c}\) を描く。
  • 線間電圧 \(\dot{V}_{ca}\) とは逆向きの線間電圧 \(-\dot{V}_{ca}=\dot{V}_{ac}\) に対し θ1 位相角が遅れた単相負荷電流 \(\dot{I}_1\) を描く。
  • 進み相側(起電力 \(\dot{V}_{ab}\))の変圧器に流れる電流を、\(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vab}\) として描く。
  • \(\dot{I}_{3a}\)\(\dot{I}_1\)の位相差 φa1 は、(\(\dot{E}_a\)\(\dot{V}_{ac}\) の位相差)-(\(\dot{E}_a\)\(\dot{I}_{3a}\) の位相差)+(\(\dot{V}_{ac}\)\(\dot{I}_1\) の位相差)、即ち、\(\phi_{a1}=30°-(\theta_3°-\theta_1°)\) となる。
  • 遅れ相側(起電力 \(\dot{V}_{bc}\))の変圧器に流れる電流を、\(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) のベクトル和 \(\dot{I}_{Vbc}\) として描く。
  • \(\dot{I}_1\)\(-\dot{I}_{3a}\) の位相差 φc1 は、(\(\dot{V}_{ac}\)\(-\dot{E}_c\) の位相差)+(\(-\dot{E}_c\)\(-\dot{I}_{3c}\) の位相差)−(\(\dot{V}_{ac}\)\(\dot{I}_1\) の位相差)、即ち、\(\phi_{c1}=30°+(\theta_3°-\theta_1°)\) となる。
  • 進み相側変圧器と遅れ相側変圧器の接続点 b から流れ出る電流は \(\dot{I}_{3b}\) である。
  • 電源側の端子 a、b、c より流出する電流 \(\dot{I}_{Vab}\)\(\dot{I}_{3b}\)\(-\dot{I}_{Vbc}\) のベクトル和は零である。

「開放相接続」の場合、θ13 のときには φa1c1、即ち IVab>IVbc となり、遅れ相側変圧器の方が若干小さな容量で済むことになる。反対に、θ13 のときには φa1c1、即ち IVab<IVbc となり、進み相側変圧器の方が若干小さな容量で済むことになる。また、θ13 のときには、IVab=IVbc となり、進み相側、遅れ相側の変圧器容量が同じ大きさになる。しかしながら、この「開放相接続」は2台の変圧器双方に単相負荷電流が流れ2台の変圧器の容量がほぼ同じになるので、1台が専用変圧器として小容量で済むメリットがなく、また単相負荷を単相3線式として接続することもできないので、一般には使用されない。

(4)「開放相接続」の例題

【例題2】

【例題2】 第15図(相順abc)のように、平衡三相負荷45kW(遅れ力率角30°)1個、及び端子acに単相負荷20kW(力率1.0)1個が接続されている。これに供給するためにV結線した2台の変圧器の容量の値 [kV・A] は、それぞれいくら以上でなければならないか。

【解答】

第16図にベクトル図を示す。

第15図 相順abc 開放相接続

第16図 相順abc 開放相接続

【例題1】と同じように,単相電流 I1、三相電流 I3は、

I1=\(\frac{20}{V_{ab}}\)=\(\frac{20}{V}\) 、 I3a=\(\frac{45}{\sqrt{3}\,V_{ab}\cos30°}\)=\(\frac{30}{V_{ab}}\)=\(\frac{30}{V}\)=I3

第16図に示すように、\(\dot{I}_1\)\(\dot{I}_{3a}\) は同相になるので、進み側変圧器容量 Ta は、

Ta=Vab IVab=Vab(I1+I3a)=Vab(I1+I3)=V(\(\frac{20}{V}+\frac{30}{V}\))=50[kV∙A]

また、\(-\dot{I}_{3c}\)\(\dot{I}_1\) の位相差が60°になるので、遅れ側変圧器容量 Tb 及び流れる電流 IVbc は、

IVbc=\(\sqrt{(I_{3c}+I_1\cos60°)^2+(I_1\sin60°)^2}\)

=\(\sqrt{\left(\frac{30}{V}+\frac{20}{V}\times0.5\right)^2+\left(\frac{20}{V}\times0.866\right)^2}\)

=\(\sqrt{\left(\frac{40}{V}\right)^2+\left(\frac{17.32}{V}\right)^2}=\frac{43.6}{V}\) [A]

Tb=Vbc IVbc=V×\(\frac{43.6}{V}\)=43.6[kV∙A]

結論として、進み側変圧器容量、遅れ側変圧器容量共に、【例題1】の専用変圧器容量30[kV・A]のような小容量には収まらず、50[kV・A]、43.6[kV・A]と共用変圧器容量に相当する容量が必要になってしまい、異容量V結線方式のメリットが得られない。

講座名 : 三相交流回路3~異容量V結線と相順~

執筆者情報 : 学校法人育英学園 サレジオ工業高等専門学校 非常勤講師 郷 冨夫