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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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照明の管理と省エネ 天野技術士事務所 天野 尚

照明設備の照度は点灯時間の経過に伴って低下していきます。これら、照度の管理と照明を設計するうえでの項目と省エネについて解説します。
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます

01.照明の管理

(1)照度管理

 照明設備の光源と照明器具から出力される光束は、点灯時間の経過に伴って低下していきます。これをランプの光源減退といいます。光源減退は、ランプ自体の減光の他に塵埃などの汚れが原因となります。この様子を表す光源と照明器具の光束維持曲線を第1図と第2図に示します。
 図より白熱電球は1,000時間、蛍光灯は約10,000時間が交換時間となります。この時点で蛍光灯の場合は光束が約80%に減退しています。
 照明器具の汚れによる減光は、一般的オフィスの場合でも、1年間放置すれば10〜15%程度減光します。したがって、定期的な清掃は照明の効率化にとって重要です。

(2)使用電圧管理

 電球は、第3図のように電源電圧変動の影響を大きく受けます。例えば100V用ランプを110Vの高い電圧で使用した場合には、光束は40%増えますが、寿命は定格寿命の30%で約300時間と極端に短くなります。電源電圧は、定格の±5%以内で使用することが推奨されます。
       
 第4図は蛍光灯の場合ですが、同様に定格電圧での使用が寿命より適切といえます。


02.照明設計

(1)全般照明の計算

 事務室のように部屋全体をほぼ一様な照度で照明する方式を全般照明といい、天井に取り付けられた多数の光源により照明します。
 全般照明の照明設計手順は、まず作業面の照度を決め、そこから総光束を求め、光源や照明器具を選び器具台数を計算します。
 部屋や作業面の必要な照度 formula001formula001 [lx]、部屋の面積を formula002formula002 [m2]、照明率を formula003formula003 、保守率を formula004formula004 とすれば、必要な総光束 formula005formula005 は次式で表されます。
formula006
formula006
 ここで、照明率 formula007formula007 は、光源の全光束がどれだけ作業面に達して利用されているかの割合です。保守率formula008formula008 は、光源がある点灯時間経過した後の初期照度に対する比をいい、光源の光束減退や器具の汚れなどによって光束が減少することを考慮した係数です。
  使用する照明器具1灯当りの光束 formula009formula009 [lm]が分かれば、照明器具の台数 formula010formula010 は次式で計算できます。
formula011
formula011

(2)照明設計の例

 開口10m、奥行き14m、天井高さ3mの事務所の照明を考えます。この部屋の天井反射率は70%、壁・床板反射率は各々50%、30%とします。

1)作業面の照度

 部屋や作業面の照度は、JISによって基準が決められています。第1表はその一部です。ここでは、作業面の照度を800lxとして設計します。

2)保守率

 保守率は、第2表のようにその目安が定められています。ここで、事務室の光源を蛍光灯とし、「中」の0.7を選びます。

3)照明率

 普通室指数と反射率から各器具ごとに照明率表が作られています。第3表は、40W蛍光灯2灯用器具の照明表の一例です。これにより、室指数、天井・壁・床の反射率から照明率を求めます。
 室指数は、部屋の形状を表す数値で次式で計算されます。
formula012
formula012
 ここで、 formula013formula013 :間口[m]、 formula014formula014 :奥行き[m] 、 formula015formula015 :作業面から光源までの高さ[m]です。
 作業面の高さを85cmとすると formula016formula016[m]となり、室指数 formula017formula017 は次のようになります。
formula018
formula018
 室指数2.71、天井反射率70%、壁反射率50%、床反射率30%から、第3表の照明率表より照明率 formula019formula019 を読み取ります(室指数2.5と3.0での値を補間)。

4)総光束

 (1)式から
formula020
formula020
と計算されます。

5)照明器具の台数

 40Wの蛍光ランプの光束を3100lmとして、2灯用器具より
formula021
formula021
が、必要台数となります。

6)器具の配置

 器具の取付け間隔は各照明器具ごとに最大間隔が決まっており、第3表より最大器具間隔 formula022formula022 です。
 したがって、 formula023formula023 [m]となり、この間隔以内が条件になります。
 第5図は、以上の計算をもとにした器具配置の例です。壁際は、取付け間隔を1/2にしました。


03.照明の省エネ

(1)省エネルギー照明の7つの鍵

 照明設備の使用電力量[kWh]は、照明器具の消費電力[kW]、器具台数、点灯時間[h]の積になります。器具台数に設計で述べた(2)式を組み込んで、最終的に7個の要素に細分化します。これらを「省エネルギー照明の7つの鍵」といいます。
 すなわち、照明の省エネルギーは、これらの要素に及ぼす条件の効率化検討になります。
 第6図に以上を「省エネルギーの考え方」としてまとめました。
 図より分子の「①②③④の値をできるだけ小さく」、分母の⑤⑥⑦を「できるだけ大きく」すれば、使用電力量が少なくなり照明の賢い使い方になります。各要素の具体的改善策を図に併記しました。この内で㈪の点灯制御について次に解説します。この分野で注目されているのが、センサを応用した省エネ技術です。

(2)センサを応用した省エネ技術

 照明制御に使用されるセンサには、明るさセンサと人感センサがあり、これらを照明器具と組み合わせることで、在室検知や昼光利用による省エネ制御を安価で簡単に実現できるようになり、高い省エネ効果が期待されます。

1)昼光利用技術

 自然光を利用して、照明の出力をセーブする制御です。第7図に示すように、窓から入った昼光の照度分布は、窓際が明るく、部屋の奥に行くに従って暗くなっていきます。そこで、設定照度と比較して人工照明に必要な明るさは図中の矢印の部分だけとなります。ここの昼光量に対応して照明出力を調光制御すれば理想的な運用になります。
 昼光利用制御の省エネ効果は、窓の大きさによって変わり、一般的なオフィスでは10〜30%程度です。

2)初期照度補正制御

 初期照度補正とは、ランプの点灯初期の余分な明るさを調光により節約する制御です。その考え方を第8図に示します。
 照明設計は、前に述べたように光束減退を見込んだ保守率 formula004formula004 を考慮します。そのため、図中の色塗り部分はむだな明るさとなり、その分エネルギーが節約できることになります。
 蛍光ランプの場合、初期照度補正制御を厳密に行えば、約15%程度の省エネが可能です。
 制御には、明るさセンサを用いるものと、タイマーを内蔵して長期にスケジュール制御を行うタイプがあります。

3)在室検知制御

 在室検知制御は、赤外線センサや超音波センサなどによって、在室者の有無を検出し自動的に照明の点滅や調光を行います。
 トイレやロッカー室などでは、人の不在時に消灯して、消し忘れ防止として利用されます。また、消灯してしまうと不安感を与える廊下では減光(調光)するタイプが用いられます。
 在室検知による省エネ率は人の在室の程度によって左右され、トイレやロッカー室などでは70〜80%の省エネが得られますが、一般執務空間ではその用途によって効果が異なってきます。

4)スケジュール制御による省エネ

 設定した時刻によって、照明設備を点灯・消灯と明るさの調整を管理する制御方法です。オフィスでは、主に始業・終業・昼休みを区切りとして1日の制御が行われますが、1週間単位、1か月単位で行うスケジュール制御があります。

5)トータルコントロール制御

 上に挙げた制御による省エネ手法を複合してシステム化したものです。
 個々の器具にセンサを組み込むと共に、器具個々にアドレスを設けてネットワークを構成し、それぞれの器具が隣接する器具と通信しながら最適な照明状態になるよう制御されます。
 省エネ効果とフレキシビリティーを最大限に高めた、オフィスの近未来における照明制御の完成形として、最近の新築ビルを中心に導入普及が図られています。
参考文献
  1. 照明設計の保守率と保守計画(1987)照明学会
  2. 電気設計(コロナ社) 饗庭 貢 著
  3. 室内の照明計算 粉川 昌己 電気技術 2003 秋
  4. 照明システム設備の省エネ動向 今城 基 BE建築設備 ‘94/4
  5. 照明設備の省エネルギー 片山 就司 ユーザの視点での省エネと新エネルギーシステム (社)日本電気技術者協会編