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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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ポンプ・ファンの回転数制御による省エネの実際 天野技術士事務所 天野 尚

商用電源で運転中のポンプやファンをインバータ駆動にすると省エネルギー効果が得られます。従来、ポンプは定格運転を行い、バルブ(弁)により流量を調整していました。この調整の代わりにインバータ駆動で電動機を可変速運転することにより流量を制御します。まずポンプを例題にして流量制御と省エネルギーについて説明します。その中で回転数制御の効果についても検討します。

ポンプの流量制御

 第1図により、ポンプのQ−H特性曲線(流量—揚程特性),管路抵抗と流量制御について説明します。


第1図 ポンプのQ−H特性,管路抵抗曲線と流量制御

 ポンプのQ−H特性曲線は、図中の点線で示すように流量 がゼロの時を最高点として右下がりの曲線になります。また、管路抵抗曲線は実揚程を縦軸との接点とした流量の2乗にしたがった右上がりの2次曲線です。両曲線の交点が動作点です。
 ポンプの定格回転数におけるQ−H特性と管路抵抗曲線Rとの交点Aに相当する流量を基準とします。この時の全揚程はになります。ポンプを現場に取りつけた時の状態です。一般に、この動作点での流量は使用流量に比較して過多なので、現場調整により流量を使用流量のに縮小します。これには、次の2つの方式があります。
㈰ バルブの開閉による流量制御:バルブを絞り管路抵抗曲線をRから急峻なRにします。Bが動作点になります。
㈪ 回転数制御による流量制御:管路抵抗曲線はRのままとして、ポンプの回転数を下げます。Cが動作点となります。
 各々における所要動力を求めます。
ポンプの仕事量は、水量 を高さ(揚程) まで運び上げる量なので、× に比例することが定性的に理解できるでしょう。定量化のために比例定数Kを掛けておきます。さらに、ポンプ・電動機の効率をηとすると、必要な電力量は、
  =K・Q・η
で表されます。 ただし,K:定数 η:ポンプ・電動機効率です。
 上式を、第1図の各動作点に当てはめますと、所要電力は、効率ηが一定として、
 A点の運転状態では、
  =K・η
 B点で運転している場合は、
  =K・η=K・η+K・η
 C点で運転している場合は、
  =K・η
です。 これらより、回転数制御による省エネ量は、
  =K・/η
となります。


やや定量的な分析

 ここで、単位法を使って具体的に数値を使って効果を算出してみます。
 ポンプのQ−H特性曲線を2次曲線近似します。締め切り圧力(流量がゼロの時の全揚程)が基準の140%(pu=1.4)と仮定します。この値(pu=0,pu=1.4)と基準値(pu=1.0, pu=1.0)の条件より、Q−H特性はpu=1.4-0.4puのように数式化されます。
 一方、管路抵抗曲線は実揚程(pu=0のとき)が0.3puと基準値の条件(pu=1.0、pu=1.0)より、pu=0.3+0.7pu
になります。
 以上で準備が完了しましたので、各動作点での動力を計算します。
A点での運転の場合は、pupu =1 なので、
  =K・η =K×1×1/η=1/ηn
です。
バルブにより流量を50%に絞った場合のB点では、pu=0.5を代入して計算します。
  =K・η=K×0.5×(1.4-0.4×0.52)×1/η
    =K×0.65×1/ηp=0.65n
これより流量を半分にすることで、35%の省エネになります。
 さらに、回転数制御を行うと動作点はC点なので、管路抵抗曲線の式にQpu=0.5を代入してcを求めます。
  =K・η=K×0.5×(0.3+0.7×0.52)×1/η
    =0.238×1/η=0.238
が得られます。
 すなわち、基準運転に対して76%の省エネになり、バルブ調整に対しては、0.238/0.65=0.37なので63%の省エネになります。
 他の流量や固定揚程を変化させた場合に対しても同様に計算できます。


台数制御と回転数制御

 第2図は、実揚程をパラメータとしてバルブ調整に対する回転数制御の省エネ量を計算したものです。


第2図 回転数制御の省エネ効果

 図より、回転数制御の省エネ効果は、負荷率が約60%のところで最大になります。しかし、負荷率が50%以下になると回転数制御による省エネ効果が減少していきます。すなわち、回転数制御が有効なのは負荷率が40〜50%程度までと言えそうです。
 今までは、ポンプ・電動機の効率を一定として扱ってきましたが、第3図にポンプおよび電動機の効率と負荷率の関係を示します。


第3図 ポンプおよび電動機の負荷率と効率

 負荷率が40%以下ではポンプ効率が急に低下していきます。
 これらを総合して考えると回転数制御の適用範囲は、負荷率40%位が限界であり、それ以下では機器容量の見直しや台数制御との組み合わせが有効となります。


ファンの回転数制御

 ファンはトルクが回転数の2乗に比例する特性を持っています。これより消費電力は回転数(風量)の3乗に比例する、いわゆる3乗則にしたがった特性となります。
 このような特性には、回転数制御により大きな省エネが期待できます。
 第4図に各種の風量制御による部分負荷特性を示しました。可変速電動機によるファン駆動が部分負荷特性において優れていることがわかります。


第4図 送風機の部分風量における軸動力

 ここで、具体例として集塵器について効果試算した例がありますので紹介します。
 試算の条件である集塵機の運転パターンと駆動用電動機の特性などの諸条件を第5図に示します。


第5図 集塵機の運転パターンと諸条件

 第1表に試算の結果と試算過程をコメントとして付記しました。

第1表 風量制御別消費電力試算例

 可変速電動機駆動の場合、吸込みダンパー制御に対して約50%強の省エネとなっています。


まとめ

 電動機のの回転数制御は、実揚程が小さい循環系のポンプやファンで大きな省エネ効果が期待できます。しかし、負荷率により適正な適用範囲がありますので、台数制御との併用も考慮してシステムの構成や運用を検討すべきでしょう。

参考文献
  1. 久保島 毅 監修 インバータ導入実践ガイド 電気書院発行
  2. 尾形 俊輔 編著 ファン・ブロァ (財)省エネルギーセンター発行