消防法によって建築物の用途・規模・構造等に応じ、設置・維持することが義務付け られている屋内消火栓、スプリンクラーなどを「消防用設備等」という。消防用設備等のうち電源を必要とするものには、非常電源が付置されており、火災発生時の正常な動作が確保できるようになっている。ここでは消防用設備等の種類及びその非常電源、最近の非常電源にかかわる告示の改正等について概要を紹介する。
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消防用設備等には消防の用に供する設備、消防用水及び消防活動上必要な施
設がある。その種類は以下のとおりとなっている。(消防法施行令第7条消防用設備等の種類)
(1) 消防の用に供する設備
消火、通報又は避難のために用いられる設備であり、消火設備、警報設備
及び避難設備がある。
1. 消火設備: |
消火器、簡易消火用具、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、 水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化消火設備、粉末消火設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備 |
2. 警報設備: |
自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報器、消防機関へ通報する火災報知設備、警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレンその他の非常警報設備、非常警報設備(非常ベル等) |
3. 避難設備: |
すべり台、避難はしご、救助袋、緩降器、避難橋その他の避難
器具、誘導灯及び誘導標識 |
(2) 消防用水
火災時に必要となる水の供給源であり、防火水槽、貯水池その他の用水がある。
(3) 消火活動上必要な施設
消防隊の消火活動に用いられる施設であり、排煙設備、連結散水設備、連結送水管、非常コンセント設備及び無線通信補助設備がある。
建築物の用途(学校、病院、工場、事業場、興業場、百貨店、旅館、飲食店等)・面積・階数等に応じた設置基準が定められており、屋内消火栓設備についての例を示すと以下となる。(消防法施行令第6条防火対象物の指定、第11条屋内消火栓設備に関する基準)
1. 劇場、映画館、演芸場又は観覧場(延べ面積が500㎡以上のもの)
2. 飲食店(延べ面積が700㎡以上のもの)
3. 百貨店(述べ面積が700㎡以上のもの)
消防設備ごとに「設置及び維持の技術上の基準の細目」があり、非常電源につい
てもこの細目で規定されている。(消防法施行規則第12条屋内消火栓設備に関する基準の細目など)
消防法における非常電源には、非常電源専用受電設備、自家発電設備及び蓄電池設備がある。これらの非常電源については、以下の告示によって構造及び性能が規定されている。(後述の燃料電池設備を除く。)
(1) キュービクル式非常電源専用受電設備の基準(昭和50年告示第7号)
(2) 配電盤及び分電盤の基準(昭和56年告示第10号)
(3) 自家発電設備の基準(昭和48年告示第1号)
(4) 蓄電池設備の基準(昭和48年告示第2号)
(1) キュービクル式非常電源専用受電設備
高圧で受電し、非常電源回路及び高圧の受電設備として使用する機器一式を金属箱に収納したもので、共用キュービクル式(非常電源と一般の電源を共用)と専用キュービクル式(非常電源専用)がある。非常電源回路は他の非常電源回路又は他の電気回路の開閉器又は遮断器によって遮断されないようにする必要がある。
(2) 低圧で受電する非常電源専用受電設備(配電盤・受電盤)
低圧で受電し、開閉器、過電流保護器、計器その他の配線用機器等を金属箱
(キャビネット)に収納したもので、共用(非常電源と一般電源を共用)と専用(非常電源専用)がある。また、耐火性能によって第1種配電盤等と第2種配電盤等に区分される。非常電源回路は、他の非常電源回路又は他の電気回路の開閉器又は遮断器によって遮断されないようにする必要がある。
(3) 自家発電設備
原動機(ディーゼルエンジン、ガスタービン等)、発電機、制御装置等によって構成されるもので、キュービクル式(一つの金属箱または二つの金属箱に機器を収納)とキュービクル式以外のものがある。常用電源が停電した場合、自動的に電圧確立、投入及び送電が行われる。常用電源が停電してから電圧確立・投入までの所要時間は40秒である。
(4) 蓄電池設備
蓄電池(鉛蓄電池、アルカリ蓄電池等)と充電装置等(直流出力の場合)又は蓄電池、充電装置及び逆変換装置等(交流出力の場合)によって構成されるもので、キュービクル式(一つの金属箱に蓄電池を収納したもの又は充電装置、逆変換装置、出力用過電流遮断器等及び配線類を収納したもの)とキュービクル式以外のものがある。自動的に充電され、常用電源停電時には無瞬断で電気を供給できる回路となっている。
非常電源は火災発生時において消防用設備等を有効に機能させるものであることから、
1. 非常電源自体の防火性能
2. 十分な容量確保
3. 非常電源回路の確保
4. 適切な設置場所の選定
などに留意しなければならない。
1.については各非常電源の外箱は、屋外用は2.3mm以上、屋内用は1.6mm以上の板厚の鋼板(分電盤・配電盤を除く)であり、防火戸相当の防火性能を有しており、また、建築物の床に容易に、かつ、堅固に固定できるものとなっている。
(注) 分電盤・配電盤はその区分によって2.3、1.6、1.2、1.0mm以上の板厚の鋼板が使用
される。
2.については非常電源は、電気を供給する消防設備等の合計容量以上であるとともに、消防設備等ごとに定められた作動継続時間以上の連続運転が可能なものとする必要がある。主な消防用設備等に要求される作動継続時間と非常電源の適用をまとめると第1表(後述のナトリウム硫黄電池設備、レドックスフロー電池設備、燃料電池設備を含む)となる。
3.については配線用遮断器等の保護機器に係わるものであり、一般回路に過負荷・短絡が生じた場合に、非常電源回路に影響がないように保護協調が図られた回路構成とする。
4.については屋内にあっては不燃材料で区画された部屋内に施設するのが一般的である。また、非常電源の周囲に一定の保有距離を有することが要求され、キュービクル式の非常電源を屋内に設ける場合(分電盤・配電盤を除き)、操作面1.0m以上、点検面0.6m以上となっている。
「マイクロガスタービン」、「ナトリウム硫黄電池設備」、「レドックスフロー電池設備」、「燃料電池設備」が技術の進展を踏まえ新たに非常電源として扱われることとなった。(平成18年3月)
(注) 「マイクロガスタービン」については自家発電設備の告示改正(6号告示)、「ナトリウ
ム硫黄電池設備」及び「レドックスフロー電池設備」については蓄電池設備の告示改
正(7号告示)、燃料電池設備については告示制定(8号告示)が行なわれた。その他
所要の見直しも行われた。
6号告示では電圧確立及び投入までの所要時間、原動機の燃料供給、常用電源と非常用電源を兼ねる自家発電設備の1台設置等について見直された。
7号告示では停電時の回路自動切り離し、直交変換装置等について追加された。
8号告示では電圧確立及び投入まで所要時間、燃料供給、外箱、表示等について規定された。
「ナトリウム硫黄電池設備、レドックスフロー電池設備」及び「燃料電池設備」は常用で運転される設備である点が従前の非常電源との差異である。自家発電設備については常用電源と非常電源を兼ねる場合、従前は2台の設置が必要であったものが1台でよいとされた。
非常電源については登録認定機関制度があり、登録認定機関が認定審査を行い、審査に合格した機種については、登録認定機関の表示を付した認定銘板等を貼付して出荷される。この認定銘板等が貼付された機種は告示に適合したものとして取り扱われ、消防検査が簡素化される。(消防法施行規則第31条の4 消防用設備等の認定、第31条の5登録認定機関など)
非常電源に関する登録認定機関としては、下記がある。
1. (社)内燃力発電設備協会:自家発電設備
2. (社)日本電気協会:蓄電池設備、ナトリウム硫黄電池設備/レドックスフロー
電池設備、キュービクル式非常電源専用受電設備、配電盤及び分電盤
参考文献:
(1) 新消防と電気Ⅰ、東京消防庁予防部監修、(財)東京防災指導協会
(2) 消防設備点検資格者講習テキスト、(財)日本消防設備安全センター