~終わり~
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(1) 無効電力の生ずる理由
第1図に示す半導体を利用した順変換器(コンバータ)を取り上げて検討してみよう。第1図で入力交流電圧の実効値をV〔V〕、制御角を〔rad〕とすれば、直流の出力平均電圧Vdは次式で示される。
ただし、
直流側のリアクトルLのインダクタンスが、十分大きくL = ∞であれば、直流側の電流Idは第2図に示すように一定値となる。したがって、交流側の電流Iaも一定値となり、Id = Iaの関係が成り立つ。このときの交流側の皮相電力Sは、
となる。一方、有効電力Pは(1)式から、
となる。よって、交流側からみた力率は次式のように求まる。
(4)式が示すように順変換器の制御角を大きくすると力率は悪化する。また、制御角 = 0 のとき、力率は最良となるものの、力率 = 1 にはならず無効電力を生ずる。これは変換装置で生ずる高調波電力によるものである。
次に逆変換装置(インバータ)について検討する。ここでは第3図に示す他励式インバータを取り上げる。他励式インバータは第1図における負荷の代わりに直流電源を設けたものであり、スイッチング素子に対する制御角を π/2 以上にすることで直流を交流に変換することができる。
第3図の回路において交流電圧の実効値をV〔V〕とすれば、次式に示す関係が成立する。
ただし、
このときの電流波形は第4図に示すようになり、交流出力電流は交流電圧よりも位相が進む。この位相の進み角をとすれば、
である。したがって、インバータとして動作する制御角は、(5)式からの範囲になければならない。よって、(6)式で表される進み角は、の範囲となる。
一方、直流側の電流をIdとすれば、交流電流の基本波I1は第4図の電流波形をフーリエ展開すれば、次式となる。
したがって、交流側への出力電力の平均値Pは、(5)式、(7)式を用いれば、
と求まる。したがって、交流側の平均電力は(8)式から直流側の平均電力に等しくなることが分かる。言い換えればこの式は、直流電力が交流側に変換されて伝達されていることを示している。一方、交流側の皮相電力Sは次式のとおりである。
したがって、交流側の力率は(8)式及び(9)式から次式のように求まる。
(2) 無効電力の影響
半導体電力変換装置は(4)式または(10)式に示されるように、順変換器または逆変換器のいずれも無効電力が必要である。また、負荷変動に伴って制御角を変化させると、それにつれて無効電力も変化し、制御角が大きくなるほど増大する。
この無効電力が電力系統の送配電線に流れると電力損失を生ずるとともに、無効電力の大きな変動は電力系統の安定度を損なう要因となり、特に電圧変動の要因となる。
(3) 無効電力の対策
位相制御に限度を設ける
制御角を大きくすると力率は低下して、無効電力が増加するため、制御角に限度を設ける。
複数の変換器の組み合わせ
大きさの等しいn組の変圧器を用意してそれぞれの出力が所定の位相差になるよう構成する。そして各変圧器の出力側にはそれぞれブリッジ整流回路を設け、各ブリッジ回路を同一制御角で運転する。このようにすることで1台の変圧器で運転したときに交流側に生ずるパルス数のn倍になるのでひずみ率を小さくすることができる。すなわち、力率が改善できる。
制御角の非対称制御
第1図に示す単相ブリッジ回路は単相半波整流回路を2アーム組み合わせた構成となっている。そして、それぞれのアームの半波整流回路は同じ制御角で運転される。このアームの制御角をそれぞれ異なる値にすることによって、ある程度力率を改善することが可能である。
強制転流方式の採用
順変換器(コンバータ)の出力電圧を下げるには、位相角(点弧角)を大きくすればよい。しかし、(4)式に示されるように位相角(点弧角)の増加に伴って力率が低下する。そこでGTO(ゲート・ターン・オフ)サイリスタやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの自己消弧素子を用いて、消弧角の制御も併せて行うことによって力率を改善する。更にパルス幅変調(PWM)方式を用いて力率及び出力波形が最良になるように調整する。
無効電力吸収源や無効電力補償装置の併設
交流側に流れる無効電流を補償するため、電力コンデンサや無効電力補償装置などによって半導体静電力変換装置による無効電力の影響を補償する。
(1) 高調波が発生する原因
第1図に示す順変換器(コンバータ)の交流電流をフーリエ展開すると次式を得る。
この式に示されるように交流電流には基本波に加えて3倍、5倍、・・・、n倍の周波数成分が含まれることが分かる。ちなみに第3図に示す逆変換器(インバータ)についても同様である。
(2) 高調波の影響
高調波が電力系統に流入すると通信線への電磁誘導、回転機のトルク振動、電力用コンデンサの過負荷、制御機器や保護継電器の誤動作など様々な悪影響を及ぼす。近年は半導体電力変換装置の適用拡大に伴って、系統に含有される高調波が増加の傾向にある。
1987年5月に出された通商産業省(現経済産業省)資源エネルギー庁長官の私的座談会「電力利用基盤強化懇親会」における報告書によれば、商用電力系統の高調波環境目標レベルとして、総合電圧ひずみ率が6.6kVの配電系で5%、特高系では3%が妥当であるとされている。
(3) 高調波対策
シャントフィルタの適用
交流側(系統側)に低域通過型フィルタ(ローパスフィルタ)を挿入して、高調波を吸収する。
変換器の多相化
変換器を多相化して、それぞれのアームの制御角を異なる値にする。例えば、大きさの等しいn組の変圧器を用意し、それぞれの出力が所定の位相差になるよう構成する。そして、変圧器の出力側に設けたブリッジ整流回路を同一制御角で運転する。このようにすると1台の変圧器で運転したときと比べ、パルス数がn倍となるため、低次の高調波を低減させることができる。
自励PWM方式の採用
自己消弧形素子を用いた自励PWM方式を採用することによって低次高調波の発生を防止する。
能動(アクティブ)フィルタの設置
能動(アクティブ)フィルタを交流側(系統側)に設けて高調波を低減させる。能動(アクティブ)フィルタは交流側に存在する高調波を検出し、その高調波と大きさの等しい逆位相の高調波を発生させ、この高調波と系統の高調波を合成して相殺することができる。
機器の設計段階での対策
商用電力系統の高調波環境目標レベルを考慮し、家電・汎用品を設計・製造するに際して必要となる「発生する高調波電流の抑制レベル」と「測定方法」などを示すものとして経済産業省から、「家電・汎用品高調波抑制ガイドライン」が出されている。これは300V以下の商用電源系統に接続して使用する定格電流20A/相以下の電気・電子機器(家電・汎用品)に適用される指標である。このガイドラインには家電・汎用品を四つのクラスに分類して、それぞれの高調波レベルが規定されている。
このガイドラインに準じて設計された商品の取扱説明書などには「高調波ガイドライン適合品」と表示がなされている。
電力半導体素子を用いた電力変換装置の利便性が大きく、その使用機器は年々増加傾向にある一方、このような装置が増加することによって電力変換装置の無効電力及び高調波が電力系統に与える影響も無視できなくなってきている。特に電力系統に接続されている機器、あるいは通信設備への半導体電力変換装置による高調波の影響がクローズアップされている。このため高調波対策機器を適用することや、能動(アクティブ)フィルタなどの高調波抑制装置を設けるなどして高調波を系統に出さないような対策を行うことが望ましいといえる。