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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電力用半導体素子の種類と特性ダイオード、サイリスタ、GTO、IGBT 富士テクノサーベイ(株) 山崎 靖夫

パワーエレクトロニクスに応用される各種半導体素子(ダイオード、サイリスタ、GTO、IGBT)の構造、特性について解説する。

1. 半導体の基礎

 電力用半導体素子の材料となるシリコン(Si)元素は、最外殻電子が4個ある4価の元素である。このシリコンから電力用半導体素子をつくるためには不純物を取り除き、高純度のシリコン単結晶を精製する必要がある。精製された単結晶は真性半導体と呼ばれる。この真性半導体にごく微量の異種元素(不純物)を添加すると、添加した不純物によって性質の異なるp形半導体とn形半導体の2種類の半導体をつくることができる。

 真性半導体に3価の元素のボロン(B)、インジウム(In)などを添加したものをp形半導体と呼び、5価の元素のアンチモン(Sb)、りん(P)などを添加した半導体をn形半導体という。p形半導体とn形半導体の結合構造を第1図に示す。

 半導体中の電気伝導を担う要素をキャリアと呼ぶ。p形半導体では正孔(ホール)が、n形半導体では電子がキャリアになる。

2.	ダイオード

 ダイオードは、第2図に示すようにp形半導体とn形半導体を接合した構造をとる。p形半導体側に設けられた電極をアノード(A)、n形半導体側のそれをカソード(K)と呼ぶ。ダイオードは、アノード側にプラス、カソード側にマイナスの電圧を印加したとき電流が流れる。つまりダイオードは、カソード側に対してアノード側の電位を高くすると電流が流れる。このような電圧を順方向電圧(順電圧)という。これとは逆方向の電圧を印加すると電流は、ほとんど流れない。このような電圧を逆方向電圧(逆電圧)という。しかし、逆方向電圧をある一定以上の電圧値にすると電流が急増する。これをpn接合の降伏現象という。

 第3図にダイオードの電圧−電流特性を示す。

3.	サイリスタ

 逆阻止三端子サイリスタのことで、単にサイリスタと呼ばれることが多い。サイリスタは、第4図に示すようなpnpnの4層構造であり、中間のp層から制御電極のゲート(G)を取り出す。サイリスタは、ゲートを制御することによってアノード、カソード間に流れる主電流の制御をすることができる。

 第5図に示すようにサイリスタに順方向電圧を印加し、その電圧をしだいに高くしていくとある電圧に達したところで電流が急増してオン状態になる。この状態をターンオンといい、このときの電圧をブレークオーバ電圧という。一方、サイリスタに逆方向電圧を印加して逆方向電圧を増加していったときにも、ある電圧に達すると同様にサイリスタがオン状態になる。このときの電圧値をブレークダウン電圧という。通常、ブレークオーバ電圧とブレークダウン電圧の値はほぼ等しくなる。

 サイリスタにブレークオーバする電圧値より低い順方向電圧を印加しているとき、電流は流れない。このときゲートに電流を流すとサイリスタは、ターンオンして主電流が流れる。この主電流を流すきっかけとなるゲート電流はトリガ電流と呼ばれる。

 サイリスタは、一度オンするとゲート電流を取り去ってもオン状態を維持する。そしていったんオンしたサイリスタをオフするには、サイリスタのアノードとカソードの間に一定時間、逆方向電圧を印加するか、主電流を保持電流以下に抑える。

 アノードとカソード間の主回路とゲート回路との絶縁や、ノイズによる誤作動を防止するため、ゲートに電流の代わりに光信号を用いて制御するサイリスタを光トリガサイリスタという。

 サイリスタは直流送電や静止形無効電力補償装置、電動機の速度制御などに用いられている。

4.	GTOサイリスタ

 GTOは、ゲートターンオフ(gate turn off)の頭文字を取ったものである。GTOサイリスタは、逆阻止三端子サイリスタと同じpnpnの4層構造であるが、カソードの幅を狭くした構造として、その周囲からゲートを取り出している。

 GTOサイリスタは、逆素子三端子サイリスタと同様にゲート制御によるターンオンだけでなく、オフ制御(ターンオフ)ができる機能を備えている。しかし、ターンオフ時のゲート電流は、主電流(アノード→カソード間電流)の20%程度を要するので、大容量のゲート回路が必要である。

5.	GTOサイリスタ

 IGBTは、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタの略称である。IGBTは、主電流の制御用としてバイポーラトランジスタ(コレクタとエミッタ間)を、電流の制御用としてパワーMOSFET素子(ゲート)を組み合わせた素子で、第6図に示すような構造をとる。

 IGBTのゲートに電圧が加えられると、MOSFETがオンしてゲートのp層に電子が注入され、次いでバイポーラトランジスタがオンする。

 IGBTは、主電流部にバイポーラトランジスタを用いているので、MOSFETよりも高耐圧の素子ができる。IGBTのスイッチング時間は、MOSFETより長くなるが、一般のバイポーラトランジスタに比べスイッチング時間が短いという特徴がある。

 例題1.

 電力用半導体素子として(ア)を制御してアノード−(イ)間の主電流を制御するサイリスタ、ベース電流を制御して、コレクタ−(ウ)間の主電流を制御するパワートランジスタなどがある。また、サイリスタに分類される(エ)は、ターンオフができる電力用半導体素子である。

 上記記述中の空白箇所(ア)、(イ)、(ウ)及び(エ)に記入する字句として、正しいものを組み合わせたものは、次のうちどれか。

 

(ア)

(イ)

(ウ)

(エ)

(1)

ドレイン

ゲート

ソース

MOSFET

(2)

ゲート

カソード

エミッタ

GTO

(3)

ソース

ゲート

ドレイン

ダイオード

(4)

エミッタ

ベース

ゲート

サイリスタ

(5)

コレクタ

ソース

ベース

ダイオード

 答(2)

 例題2.

 サイリスタとは、一般に逆阻子三端子サイリスタのことを指し、アノード、カソードのほかに制御信号を加えるゲートがある。電極間に(ア)を印加した状態でゲートに制御信号を加えることにより(イ)状態から(ウ)状態に移行し、また、(エ)間に逆電圧を加えることによって(オ)状態に移行する。

 上記の記述中の空白箇所(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)及び(オ)に記入する字句として、正しいものを組み合わせたのは次のどれか。

 

(ア)

(イ)

(ウ)

(エ)

(オ)

(1)

逆電圧

オフ

オン

主電極

オフ

(2)

順電圧

オン

オフ

補助電極

オン

(3)

逆電圧

オン

オフ

ゲート−カソード

オン

(4)

順電圧

オフ

オン

主電極

オフ

(5)

逆電圧

オン

オフ

ゲート−カソード

オフ

 答(4)