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電気鉄道の設備のうち電動機応用と関係するのは電気車両と電気運転設備である。
運転設備には電鉄用変電所、架空電車線路などがある。電気車両には電気機関車と電車がある。今回は電験3種の対象として電気車両の電気的負荷について解説する。
(1)列車抵抗
列車を運転するときに発生する列車の進行を阻止する力を総称して列車抵抗という。一般に出発抵抗、走行抵抗、ずい道抵抗、こう配抵抗、曲線抵抗がある。
(a)出発抵抗
始動時に車輪の軸受と軸、電機子軸と軸受の間などに発生する摩擦抵抗で動き出すと急減する。運転計画では3km/hで走行に移るとして取り扱い、電車では3kgf/tとなっている。なお、1kgf=1kg×重力加速度g=9.8Nである。
(b)走行抵抗
列車が平たんな直線路を走行する場合に進行方向と逆方向に作用する抵抗力である。主なものとして車輪と軸受との摩擦抵抗、車輪とレールとの間のころがり摩擦抵抗、車輪の動揺による各種摩擦抵抗、空気抵抗がある。
(ⅰ)車輪と軸受との摩擦抵抗
軸受に加わる圧力に比例し、軸受と車輪の接触面積に逆比例するので、軽量な車両ほど小さくなる。
(ⅱ)車輪とレールとの間のころがり摩擦抵抗
車輪が線路上を運転するときレールのたわみや凸凹による抵抗、車輪とレール間の摩擦抵抗でほぼ速度と重量に比例する。
(ⅲ)車両の動揺による各種摩擦抵抗
車両が進行中に上下左右、前後に動揺することで各種部分に生ずる摩擦抵抗でほぼ速度に比例する。
(ⅳ)空気抵抗
走行中の列車に働く空気による抵抗で列車重量には関係なく、以下のものがある。
・列車と空気との摩擦抵抗でほぼ速度に比例する。
・列車の頭面における空気の圧縮、後面における吸気、車両連結部における空気のうず流などによる抵抗でほぼ速度の2乗に比例する。
このように走行抵抗には速度に無関係な抵抗、速度に比例、速度の2乗に比例する抵抗があるので、走行抵抗Rは一般に(1)式で計算される。
R=a+bV+cSV2/W 〔kgf /t〕 (1)
ただし、V:列車速度〔km/h〕
S:列車の断面積〔m2〕
W:列車の重量〔t〕
a、b、c:定数
走行抵抗を少なくするためには、
・車両の重量を軽くする。
・軸受の摩擦抵抗を少なくする。
・車両や線路を動揺の少ないものにする。
・列車の前頭部を流線形、つなぎ目をうず流の少ないものにして空気抵抗を少なくする。
などが取られる。
(c)ずい道(トンネル)抵抗
列車がトンネルに進入する場合、トンネル内の空気をかく乱し、圧縮又は真空の作用、列車と空気との摩擦抵抗増大などによって、普通の空間走行よりも抵抗が増大する。これをずい道(トンネル)抵抗といい、単線トンネルでは1kgf /t、複線トンネルでは2kgf /tである。
(d)こう配抵抗
第1図のように列車がこう配区間を運転するときは、重力の作用で上昇するときは走行抵抗以外に位置のエネルギーに該当する高低差に対応するけん引力が必要となる。これをこう配抵抗Rg〔kgf〕という。こう配は千分率n(パーミル)で表す。第1図から傾斜が緩やかな場合は∠CAB=θが小さく以下のようになるので、
BC/AB=bc/ab≒bc/ac
Rgとnの関係は車両の重量をW〔t〕から、
n=Rg/W(3)
Wが1t当たりのこう配抵抗をrg〔kgf /t〕とすると(3)式から(4)式となる。
rg=Rg /W =n(4)
すなわち、1t当たりのこう配抵抗rgはこう配の千分率nと一致する。
(e)曲線抵抗
列車が曲線区間を運転しているときに発生する以下のような摩擦抵抗を曲線抵抗という。
・車両の前方は内側、後方は外側へ滑るのでレールと車輪間に生ずる摩擦抵抗
・内側車輪と外側車輪は同回転数であるが走行長さが異なるので外側車輪がレールの上を滑ることによる滑り摩擦抵抗
・遠心力の作用による外側レールと車輪間の摩擦抵抗
曲線抵抗Rc 、曲線半径Rmとすると(5)式で表される。
(2)加速力(加速度抵抗)
列車を始動時並びに速度を上昇させるために必要となるけん引力で、走行抵抗に対するけん引力にプラスする力となる。これを加速力F2(加速度抵抗)という。
質量m〔kg〕の物体が加速度α〔m/s2〕で直進する場合の加速力F2は(6)式となる。
F2=mα〔N〕= 〔kgf〕(6)
列車には回転部分がたくさんあるので、加速するには質量mだけでない余分な引張り力が必要になる。このため、質量mが増加したとみたものを慣性重量をいい、mとの比を慣性係数γ(小数点)という。γは電車は0.09、その他は0.06である。これを考慮すると、(6)式は慣性重量分だけ質量が増加するので(7)式となる。
F=m(1+γ) α〔N〕= 〔kgf〕(7)
なお、列車の速度は通常〔km/h〕なので、加速度αの単位を〔km/h/s〕、質量の単位をM〔t〕とすると、(7)式に1h=3,600s、1km=1,000m、g=9.8を導入すると、(8)式となる。
F=M×1,000(1+γ)α×1,000/3,600〔N〕=
=28.5Mα(1+γ)〔kgf〕(8)
(3)電動機の出力
第2図から列車の列車抵抗に対するけん引力F1と加速力F2を合算した合成けん引力F〔kgf〕、電動機台数N台、列車速度v〔m/s〕、動力伝達効率ηとすると、1台当たりの電動機出力P〔W〕は(9)式となる。
Fの単位が〔N〕の場合9.8は不要となる。
機械装置の主な負荷特性には第3図のように、
① 定トルク負荷特性(実線):トルクが回転速度に対してほぼ一定の特性で、エレベータや巻上機が該当する。出力は速度に比例する。
② 2乗トルク負荷特性(1点線):トルクが回転速度の2乗に比例する特性で、ポンプや送風機が該当する。出力は速度の3乗に比例する。
③ 定出力負荷特性(点線):出力=トルク×回転速度から定出力の場合は図のようにトルクと回転数は反比例の関係になる特性で、巻取機などが該当する。
直流電動機、誘導電動機には各種の速度制御方式がある。同期電動機は一定の同期速度である。
(1)直流電動機
(a)直巻電動機
第4図(a)の回路図から、回転速度n〔rpm‐1〕は電圧V、負荷電流I、界磁磁束φ、電機子巻線抵抗Raと界磁巻線抵抗Rs の合成抵抗R、更にφはIに比例するので(10)式となる。
n= 〔rpm‐1〕 (10)
(10)式からnは負荷電流にほぼ反比例して大きく変化するので、変速電動機と呼ばれ電車、巻上機、クレーンなどに用いられる。
(b)分巻電動機
第4図(b)の回路図からnは電機子電流Ia、電機子巻線抵抗Raとすると、(11)式となる。
n= 〔rpm‐1〕 (11)
(11)式から速度制御法には次のものがある。
① 界磁制御法:界磁磁束φ〔Wb〕を変えてnを制御する方法で、nはφに反比例するので、nはφを大きくすると減速し、小さくすると上昇する。φを変えるために界磁回路に界磁抵抗器の抵抗Rfを設け抵抗値を調整する.
② 抵抗制御法:電機子巻線に調整抵抗器を接続し、直列抵抗Rを調整してnを制御する方法である。損失が増加する。
③ 電圧制御法:電圧Vを変えてnを制御する方法である。方式にはワード・レオナード方式、静止レオナード方式がある。
詳細は電験問題「発電機と電動機の原理(3)」を参照してもらいたい。
(2)誘導電動機
回転速度n〔rpm‐1〕は周波数f〔Hz〕、極数p、滑りsとすると、(12)式となる。
n= 〔rpm‐1〕 (12)
(12)式から速度制御法にはs、f、pを制御する次のものがある。
① 滑り制御:二次抵抗を増減させてトルクの比例推移に基づきsを変える制御法。二次抵抗の増加は銅損が増加するので効率が悪い。
② 周波数制御法:電源側に周波数変換装置(主なものに可変電圧周波数変換電源装置、サイクロコンバータ)を設けてfを変える制御法。
③ 極数変換法:固定子巻線の接続を直列から並列に切り替えるなどで極数pを変える制御法。速度は連続でなく段階的になる。
④ 二次励磁制御:二次回路に二次電圧と平衡する外部電圧を加える制御法。クレーマ方式とセルビウス方式がある。
詳細は電験問題「誘導電動機の原理(3)」を参照してもらいたい。
運転中の機械装置の速度を抑制したり停止させる方法を制動法という。主なものに以下の方法がある。
① 摩擦制動:ブレーキ片を運動部分に押し付けることで発生する摩擦力での制動法。
高速度では電気制動で低速になると摩擦制動に切り替える。
② 発電制動:電動機の電源を切って発電機として動作させ、発生電力を抵抗で熱エネルギーに変換して消費することで発電機を回す力がブレーキとなる。
③ 逆転制動:電動機の電機子巻線の接続を逆転接続にして急速に減速させ、逆転する前に電源を切る。逆転接続時の過大電流、損失が大きいが欠点。
④ 回生制動:電動機の誘導起電力を電源電圧より高くすると、電流は電源側に流れるので発電機となる。回転エネルギーを電気エネルギーに変えて電源に返すもので回生制動という。損失は最も少ない。
各種機械装置に適合する電動機について第1表に示す。
第1表 機械装置に適合する電動機
機械装置 | 電 動 機 |
揚水機、ポンプ | 一 般:三相かご形誘導電動機 大容量:三相巻線形誘導電動機 同期電動機 |
送風機、空気圧縮機 | 一 般:三相巻線形誘導電動機 小容量:三相かご形誘導電動機 |
巻上機 | 一 般:三相巻線形誘導電動機 小容量:三相かご形誘導電動機 |
エレベータ | 一 般:三相かご形誘導電動機 |
エスカレータ | 一 般:三相かご形誘導電動機 |
電車 | 三相巻線形誘導電動機 直流直巻電動機 |
家庭電器 | 単相誘導電動機 |