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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
ディジタル計器の基本構成と測定原理 富士テクノサーベイ株式会社 山崎 靖夫

ディジタル計器の構成要素である入力変換部、アナログ量をディジタル量に変換する逐次比較形、並列比較形及び二重積分形のA/D変換部の原理を通した測定原理と、ディジタル計器の特徴について解説する。

1.ディジタル計器の構成要素

 ディジタル計器は、第1図に示すように測定されたアナログデータを計器内部でディジタルデータに変換して測定する。

(1) 入力変換部

 入力変換部は広範囲のレベルの信号を扱うことができるようにディジタル計器に入力される測定量を次段のアナログ - ディジタル変換部(A/D変換部)で扱えるレベルの直流電圧に変換する。この入力変換部では入力信号の種類に応じて以下に示すように変換される。

 ① 直流電圧:入力電圧が低い場合は電圧増幅器を用いて入力電圧を増幅する。逆に入力電圧が高い場合には、抵抗で分圧してA/D変換部の入力として適切なレベルになるように変換される。いずれの場合も入力インピーダンスを極めて高くすることができるので、測定回路に影響を与えず高精度の測定が可能である。

 ② 交流電圧:A/D変換部で扱えるレベルになるように電圧を調整した後、整流して実効値に比例した直流電圧に変換する。

 ③ 電流:測定回路に計器を直列に接続すると入力変換部に設けられた微小な値の抵抗(シャント抵抗)に電流が流れ、その両端に電圧降下が発生する。この電圧をA/D変換部に与えて電流を測定する。交流電流の場合には、この電圧を整流してA/D変換部へ与える。

 ④ 抵抗:一定電流を測定対象の抵抗に流したとき、この抵抗の両端に生ずる電圧降下をA/D変換部へ与えて測定する。

(2) A/D変換部

 アナログ量をディジタル量へ変換する回路でディジタル計器の心臓部といえる部分である。

① 逐次比較形A/D変換器

 第2図に逐次比較形A/D変換器の原理図を示す。変換器に入力された信号はサンプル&ホールド回路でいったん保持される。次に制御回路からの変換開始信号によって逐次変換レジスタの最上位ビット(bn-1)を1に設定するとともに、このビット情報をD/A変換器に与える。このときD/A変換器の出力電圧Voは、最大出力電圧の1/2のレベルの電圧を出力する。この出力電圧Voとアナログ入力電圧Viとが比較回路で比較され、制御回路にフィードバックされる。

 制御回路は、

 (a) ViVoであればbn-1を1のままにし、次の下位ビットbn-2を1に設定する。

 (b) ViVoであればbn-1を0に変更してbn-2を1に設定する。

 この状態で再びViVoを比較して、その結果を同様に制御回路にフィードバックする。このようにD/A変換器を用いて2分検索を行う。以後、この動作を繰り返すことでアナログ量をディジタル量に変換している。

 逐次比較形A/D変換器では2分検索を用いるため一つの比較回路で高分解能なA/D変換回路を構成することができるが、n〔bit〕の変換を行うためにはn回比較動作を行う必要があり変換時間が長くなる。

 このA/D変換器は常に出力電圧を比較してフィードバックしながら変換するので、帰還形A/D変換器ともいわれる。

② 並列比較形A/D変換器

 並列比較形A/D変換器は、第3図に示すようにディジタル量のビット数だけ比較器(コンパレータ)を用意して一度に変換する方式である。比較器の数は増えるが高速変換できるという特徴がある。

③ 積分形A/D変換器

 積分形A/D変換器の構成を第4図に示す。積分形A/D変換器は次の順序で変換動作を行う。

 (a) 変換開始時にスイッチ(SW1)を入力電圧側に切り換えてアナログ入力電圧Viを積分器に与えるとともにカウンタ1をスタートさせる。

 (b) この電圧ViによってCRの時定数を有する積分器で一定時間積分を行う。

 (c) 一定時間経過した後、スイッチを基準電圧側に切り換えるとともにカウンタ2をスタートさせる。

 (d) コンパレータが、CRの放電終了を検出するとカウンタ2に計数停止の信号を出力する。

 (e) カウンタ2の時間は入力電圧Viに比例するので、カウンタ2の出力はViに対応するディジタル値に変換される。

 (注) (d)のとき基準電圧Vrは入力電圧Viと逆の極性であるため、積分器のCRは放電動作を行う。

 積分形A/D変換器はアナログ入力電圧Viと基準電圧Vrについて、2回積分動作を行うことから二重積分形A/D変換器といわれる。この方式は時定数CRやクロックパルスが変動しても、それらが充電時と放電時で互いに打ち消され誤差にならないため、精度の高い変換ができるという特徴がある。

(3) 表示部

 A/D変換部でディジタル変換された計測量はディジタル信号(パルスまたはデータコード)として表示部に渡される。このデータをLCD(液晶ディスプレイ)、LED(発光ダイオード)などを用いて表示する。

2.ディジタルマルチメータ

 ディジタルマルチメータは第5図に示すようにレンジ切換スイッチを切り換えることで、直流電圧・電流、交流電圧・電流、抵抗などを測定することができる測定器である。この測定器の入力部は第6図に示すような構成をとる。

(1)電圧の測定

 A/D変換部へ与えるアナログ信号として適切な電圧範囲に収まるよう入力電圧を増幅または分圧する。交流は変圧または分圧した後、直流に整流してA/D変換部へ与える。

(2)抵抗の測定

 第7図に示すように測定する抵抗に電流を流すことによって発生した電圧降下をA/D変換部に与えて測定する。

3.ディジタル計器の特徴

 ① 測定値がそのまま数値で表示されるので、個人差による読取り誤差がなく、測定時間が短い。

 ② アナログ機器は有効数字が2〜3けた程度であるが、ディジタル計器は高精度の測定と表示(有効数字3〜6けた)ができる。

 ③ 測定値がディジタルデータになっているので、測定値の表示だけでなく、記憶、記録、演算処理などが容易に行える。

 ④ アナログ計器は単機能のものが多いが、ディジタル計器は多機能の計器やいろいろの物理量を1台の計器で測定できるものが多い。

 ⑤ 入力変換部の入力抵抗が高いので測定する回路に影響を与えにくい。

 ⑥ 測定したデータがディジタル化されているので、他の電子機器やコンピュータなどに接続することができる。

 ⑦ アナログ計器に比べて過電圧、過電流などの保護が容易である。

 ⑧ アナログ計器は測定量の連続的変化を指針の振れで視覚的に判断できるが、ディジタル計器では測定量が数値で表示されるため、変化傾向を直観的に判断しにくい。

 〔例題〕 ディジタル電圧計をアナログ電圧計と比較した場合、一般的な特徴として誤っているのは次のうちどれか。

 (1)測定データの記録、演算などが容易

 (2)表示の読取り誤差がなく、また、個人差もない

 (3)高精度の測定及び表示ができる

 (4)電流・抵抗測定などもできるマルチメータとしての使用が多く、やや高価となる

 (5)A/D変換器を使用するため、信号の変換に時間を要し、測定時間は長い。

 〔解説〕A/D変換器の変換時間は数ms程度と短い。

 〔正解〕(5)