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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
加法定理による三角関数の和・差・積の公式 東京電気技術高等専修学校講師   福田 務

 交流回路の計算では三角関数が重要であるが、やたら公式が多くどの公式を使ったらよいのか、なぜそういう公式が成り立つのか理解できないため、毛嫌いしてしまう人が多い。加法定理は、二つの角度の和・差に対する三角関数を、元の角度の三角関数の積の和・差で表す公式である。これを基に三角関数の様々な公式が導き出せるが、公式の運用がうまくいかずに交流回路の問題が解けない場合が多い。ここでは、加法定理から一連の関連公式を導き出す手順を解説する。

1 加法定理が基本

 〔例題1〕 第1図の回路で

formula001
formula001

とすると、合成電流iおよび、その実効値を求めよ。

 〔解答〕 解答を手がけるとまず最初に壁にぶつかるのは

formula002
formula002

 ここでは三角比から発展したいくつかの公式が使えないとどうしようもなくなる。正解例を示すと次のようになる。

formula003
formula003
formula004
formula004

 また、合成電流の実効値Iは、最大値が formula005 formula005 であるからI=5Aとなる

 さて、この例題1ではいくつかの式の変形を行なっているが、主なものは次の2項目である。

 (1) sin formula006 formula006 だけずれればcosになる。

 (2)  formula007 formula007 を適用する。ただし formula008 formula008

 この公式は瞬時値の和などに使う公式であるが、どうしてこの式が成り立つかについてはこのあとの加法定理を用いて証明できる。加法定理についてはこの公式ばかりではなく、いろいろな公式の基礎になっているので、しっかりつかんでいてほしいと思う。

2 加法定理を知れば、あとの公式はいもずる式に導かれる

 この定理は二つの角の和や差の三角関数すなわち

   formula009 formula009 がどんな式で表わされるかを示したものである。

  〔加法定理〕                   (複合同順) 

formula011
formula011

3 加法定理の証明をおぼえよう

 第2図αβの二つの角の和の三角関数 formula012 formula012 を求めてみよう。

 (着眼点)

 第2図において、三つの三角形△PQO, △PQR△QOLのそれぞれについて

  formula013 formula013  がどんな辺の比で表わされるかをしっかりつかむことが大切である。ここで、∠QOK=α△ONK∽△RNQ(相似)であることから、∠RQN=αとなり、さらに∠QPR=αとなることがわかる。

formula014
formula014

 ここでちょっとテクニックを使う。前の項の分母、分子に formula015 formula015 を、後の項の分母、分子に formula016 formula016 をかけると、

      formula017 formula017

 また  formula018 formula018

 ここで前と同じように分母、分子に formula019 formula019 をかけて

formula020
formula020

 以上のように、 formula021 formula021 および formula022 formula022 だけ記憶しておけば、あと積や和の公式は、この加法定理を変形していくだけで導くことができる。変形のしかたはつぎのように行えばよい。

  formula023 formula023    左式の右辺において

  formula024 formula024 であるから、βのかわりにβとおけば

    formula025 formula025    が得られる

 公式の右辺の組み合わせをよく見ると、sinの場合はサインコスコスサイン、またcosの場合はコスコスサインサインのように覚えやすい組み合わせになっていることに気がつくと思う。

4 加法定理をもちいた証明問題

 〔例題2〕第3図の対称三相回路において、

 ac間にW1bc間にW2の単相電力計を

 2個接続したとき、電力計の指示の和は

 負荷の三相電力を示すことを証明せよ。

  ただし、負荷の力率をcosθとする。      

 〔解答〕

 相電圧を  formula026 formula026  線電流を  formula027 formula027  とするとベクトル図は第4図のようになる。W1W2の指示をP1P2 とすると

 ベクトル図より   

formula028
formula028

とすれば 加法定理によって展開し

formula029
formula029

  formula030 formula030  が得られる。

 これは三相電力を測定するための電力計は2個でよいことを示す(ブロンデルの定理という)

5  formula031 formula031 の証明

 例題1で用いたこの式の一体どこから formula032 formula032 が出てきたのか考え込んでしまうかもしれないが、これも加法定理をうまく利用しようという考えから出ている。一方がsin(正弦)で他方がcos(余弦)なので第5図のような直角三角形を念頭に置き、加法定理を使ううえで、 formula033 formula033 を下記のように formula034 formula034 をくくり出した式をつくる。

formula035
formula035
formula036
formula036
formula037
formula037

 結果を見れば、じつに簡単な形にまとまっていますが、要点は加法定理が使えるような形に式を変形したわけである。

6 公式は自分で作れる

 加法定理

formula038   
formula038   

において α=β とすれば、2倍角の公式が得られる

formula039
formula039

 また加法定理

formula040
formula040

において、上記の公式 formula041 formula041 formula042 formula042 の和および差をつくれば次の公式が得られる

formula043
formula043

 同様に  formula044 formula044 formula045 formula045 の和および差をつくれば次の公式が得られる

formula046
formula046

 これらは積から和への公式となるものであるが、そのほか和から積の公式などこれらを変形することで求めることができる。三角関数は公式が多くて面白くないと思うかもしれないが、公式に振り回されるのではなく、公式を振り回すような積極的な姿勢で取り組んで欲しいと思う。