〜終わり〜
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(1) 高調波電圧波形例
(a) 第5次高調波10%の波形例
高調波波形に慣れるため、よく取り扱う第5次10%の波形を第1図に示す。第1図の合成波だけを見て、「高調波の第5次成分が10%程度」といえるようになれば、実務面で大いに役立つと思う。
基本波電圧 + 第5次高調波電圧 = 合成波
100% 10%
(b) 家電はん用品の高調波発生例
テレビなどの家電はん用品の高調波電流発生例を第2図の「発生元」、「高調波含有」の部分に示す。びっくりするほど多くの高調波電流を含んでいることが分かる。特に3次、5次、7次などが大きい。
(c) 整流器の高調波発生例
もう一つの大きな発生源である整流器についても、同様に第2図の「発生元」、「高調波含有」の部分に示す。ここでは理論値を示している。家電はん用品ほどではないが、大きな高調波電流発生源である。
(2) 高調波発生から対策方法までの概要
第2図に全体的な整理をしている。
① 発生元としては「家電はん用品」と「整流器」に大別される。
② これらは多くの高調波次数を有するが、電力系統側でみると5次が最も多く、次いで7次である。
③ 波形としては、第2図のテレビの例、整流器の例、電力系統の状況(5次が多い)がポイント。
④ ここで対策の考え方は要点を整理したものである。
⑤ 実務的にはこれほど簡単ではないが、全体の流れを理解するには役立つと考える。
(メモ)1
「第2図 電力系統の高調波と対策(まとめ)」に「発生元」、「高調波含有」、「電力系統の状況」、「対策の考え方」などを簡潔に示している。
高調波の発生から対策までの全体像をつかむのは簡単ではないが、第2図のように整理すると分かりやすい。
(1) 概 要
電圧フリッカについては、以下のように解説することが多かった。
① アーク炉負荷のような変動負荷がある場合、照明のちらつきが発生する。
② このような影響・現象を電圧フリッカという。第3図に直接式アーク加熱のイメージを示す。
③ ちらつきの尺度はΔV10(という定義)で表され、この値が0.45を超えると半数以上の人がちらつきを感じるので、負荷変動の発生源において必要な対策をとる。
しかし、実務面ではそれほど簡単ではなく、苦労が多いと聞いている。
また、最近ではインバータ負荷による電圧変動(電圧フリッカを含む)、高調波、高周波など課題も多い。
(2) 電圧フリッカの波形例
第4図に電圧フリッカ時の電圧波形例を示す。
① これは10Hz,10%含有時の波形である。実際はいろいろ混じり合った波形となる。後述のように、照明のちらつきからみると10Hz成分が一番感ずる(視感度係数を参照)といわれている。
② アーク炉も10Hz成分をもつが、インバータ機器の内、溶接機やクレーン車にも10Hz成分が多く、影響が出ている。
③ トラブル事例を調査する際、波形ベースでつかんでおくと、いざというときに助かることが多い。
(3) 電圧フリッカの評価方法
電圧フリッカの大きさ(尺度)はΔV10というものを用いて表し,この大きさで評価されている。
① ΔV10の意味合い
・ΔV10とは,フリッカをちらつき感の大きさで表したもので,電圧動揺を生じる10Hz正弦波変動の振幅の実効値として表現している。
・人間の目には10Hz程度がちらつきを一番強く感じ,それ以上でもそれ以下でも度合いは低くなるので,後述する視感度曲線を用いて,10Hzに換算した値を求めている。
② ΔV10の式 以下の式で表される。
(メモ)2
電圧フリッカ波形例としては第4図が参考になる。高調波(第1図)との違いに要注意。
(1) 瞬時電圧低下現象
変電所とお客さまB間で事故が発生した場合に事故により電圧が低下、その後遮断器で事故除去するが、その間お客さまAで瞬低が発生する。なお、お客さまBは停電となる。
第6図に瞬低と停電の違いを、第7図に瞬低と停電の電圧波形面の違いを示す。
(2) 機器の瞬時電圧低下耐量
機器の瞬時電圧低下耐量を第8図に示す。
① この中で、パワーエレクトロニクス応用可変速モータに着目すると、15%程度の電圧低下が0.01秒程度継続すると停止などの影響が発生することが分かる。
② また、電磁開閉器(マグネットスイッチ)に着目すると、50%程度の電圧低下が0.01秒程度継続すると停止などの影響が発生することが分かる。
③ 故障発生から除去までの電圧低下時間は、どんなに早い場合でも0.07秒程度なので第8図に示すように多くの機器が影響を受けることになる。
④ 154、66、6.6kVなどの電力系統では事故除去時間が長引くので、その分瞬低時間が長くなる。お客さま1軒当たりでは、地域や年によって大きく異なるが、年に数回程度発生している。
⑤ 影響を受ける機器は第8図は一部であり、実際は様々なものがある。
(3) 新しい動きに対する瞬低波形例(UPS方式、高速開閉器を用いる方式)
若干推定が入るが、電力系統側の電圧と対策付の部分の電圧を第9図に示す。対策付きの電圧は電圧の瞬時低下が極めて少なくなっている。
(メモ)3
瞬時電圧低下面では瞬低と停電の違い(第6、7図)、通常の瞬低と瞬低対策付きの場合の違い(第8、9図)などの電圧波形が参考になる。
(1) インバータの原理
第10図にインバータ回路の原理を示す。
(a)は回路、(b)は出力電圧である。
ここで直流電力を交流電力に変換する装置を逆変換装置またはインバータという。これに対し、交流電力を直流電力に変換する装置を順変換装置またはコンバータという。
(参考)
半導体素子 :サイリスタ、トランジスタ、GTO、IGBTなど
変換方式 :電圧形、電流形、(一般には電圧形)
出力波形 :正弦波出力、方形波出力、PWM波出力など
(2) インバータ機器の高周波、高調波波形
(a) 波形類の種類
第11図にインバータ機器に関する波形の種類を示す。
① 繰り返しパルス波形による高周波
・繰り返しパルスがある場合、このパルスの周波数のN倍オーダ(数倍程度)の高周波が発生する(フーリエ級数で求められる高周波)。
・インバータの場合は繰り返しパルス(スイッチング周波数f0)が20kHz程度なので、高周波は数十kHz程度になる(第11図(a)参照)。
② 近傍のLやCに流れる過渡現象波形
この近傍のLやCに流れる過渡現象波形は実情として数百kHz〜数MHz程度の高周波になる(第11図(b)参照)。
③ 合成波形
実際には前述の高周波のほかに高調波分がある。高調波分は6相整流器であれば第5次、第7次、第11次、第13次など数百Hzになる(ただし、PWM制御の場合、単純な6相整流器の場合と違いかなり少ない)。
以上から合成波形は第11図(c)のような波形になる。
(参考)・高調波は第2調波から第40調波程度までをいう。
・これ以上を高周波といっている。
(b) インバータ機器の波形によるトラブル事例
第12図にインバータ機器を新増設した場合の、前後の波形例を示す。
このときはトラブルも発生しており、併せて説明する。
① トラブルに至った経緯
・インバータ(モータ)を新設(既設設備に接続)
・インバータを充電すると多くの高調波、高周波を含有
・既設設備に接続しているCR回路の電流増大
・CR回路の障害発生
(原因は当初推定した高調波だけでなく、高周波も起因していた)
② 電圧波形例、設備状況例
(3) インバータ機器の省エネ効果と留意事項
インバータ機器の進歩、普及拡大には目をみはるものがある。
特に省エネ効果が大きい。インバータ素子も量産化されている。設備費、生産コスト、客先での経済効果も大きい(標準化が進んでいる)。
このようによいことずくめであるが、電気の品質面では留意事項がある。高調波、高周波に加えて電圧フリッカ、瞬時電圧低下などのトラブル事例も散見される。
トラブル事例の共有化、技術者育成などを通して改善していく必要性が一層高まっている。
(メモ)4
インバータ機器に関しては、第11図のような波形が潜在していること、このため第12図に示すようなトラブル事例があることなどを理解していると、実務面で役に立つ。
(1) 励磁突入電流のイメージ
第13図は変圧器を充電するときの様子を示している。第13図(a)は充電時の電気回路(実際は3相回路であるが、ここでは簡単のため単相回路で説明している)であり、第13図(b)はこのときの各相電流の波形例である。
このように変圧器を充電するときは、大きな電流が流れる場合があるので注意が必要である。この電流は励磁突入電流、インラッシュ電流などと呼ばれている。
(2) 励磁突入電流の説明
第14図は励磁突入電流の発生メカニズムをもう少し詳しく描いている。
・励磁突入電流は変圧器鉄心の磁束が飽和するため発生する。
・磁束変化は電圧変化によるが、残留磁束があると、その残留磁束を起点に磁束が変化し、その磁束が飽和磁束以上になると過大な励磁電流が流れることになる。
特に残留磁束が大きく、かつ充電時の電圧投入位相によってはすぐに飽和ポイントを超えるので、大きな電流(励磁突入電流)が流れることになる。
(3) 励磁突入電流の補足
更に若干の補足を加える。
① 第14図は励磁突入電流の発生メカニズムを示している。鉄心の飽和特性、残留磁束、励磁突入電流に注意が必要である。
② ここでは省略しているが、大きな励磁突入電流がかなり長い時間流れる。
・励磁突入電流の大きさは、大容量変圧器になるほど定格電流に対する割合は低下する。それでも10MVAの場合でみて、数倍にも達する(詳細は省略するが、片側の波形で比較するか、実行値で比較するかで数値は異なる)。小容量変圧器の場合(例えば100kVA)、20倍にもなることがある。
・時間が経つにつれて電流は減衰する。継続時間は大容量の場合で1秒程度のオーダに達することがある。小容量の場合は0.03秒程度と減衰が早い。
(メモ)5
このような励磁突入電流の影響として、「変圧器保護継電器の誤動作などの影響」、「励磁突入電流によって、近傍の電圧が瞬間的に低下する影響(いわゆる瞬時電圧低下影響)」、「励磁突入電流に含まれる高調波電流による影響」などが発生しており、実運用面での留意点になっている。
(1) VTの鉄共振例
鉄共振はいろいろな形態で発生することが知られており、それぞれのケースで実務的な対応策が採られている。しかしながら、実態としては今でも散見されるようであり、対策や解明に苦慮している話を耳にする。ここでは具体的な事例を基に、概要を説明する。
第15図はVTにおける鉄共振波形例である。
このようなVTの鉄共振については、負担を多くする(始めから抵抗分Rを接続)ことによりおおむね片付いた状況にあるが、それでもまれに発生している。
特徴のある波形(1/2調波、1/3調波など)なので、波形さえ見れば判断が付きやすい。
(2) 変圧器の鉄共振例
次に変圧器の鉄共振例であるが、第16図における電力系統例、実際の波形例を参考に、以下のように順を追って説明する。
① 第16図の電力系統において変圧器の充電を止めたとき(図の遮断器を開放したとき)、変圧器の異音、振動が発生した。
② 当初の段階では細かい情報はないので混乱したが、やがて事故記録結果などが分かり、鉄共振と判明した。
③ 変圧器容量が極端に小さく、一方で比較的長距離送電線などの特殊条件であった。シミュレーションでも鉄共振が確認された。
④ 異音や振動は発生したが、電圧の大きさ、周波数の低下具合(1/3程度)からみて変圧器の不具合はなし。
この場合も電圧波形をよく知っておけば、解明が早くなる。
(メモ)6
鉄共振による電圧波形も大変特徴がある。これらの波形例、トラブル事例を知っていることが実運用面で重要になる。
最終回として実務面でも重要な6点に的を絞り、電圧・電流の波形例を中心に解説しました。お役に立てば幸いです。