高圧自家用受電設備は、工場、ビルなどの負荷設備に電力を供給するため、電気事業者から高圧で受電する設備であり、結線方式としては、主遮断装置の形式により、CB形とPF・S形があります。本講では、高圧自家用受電設備の地絡保護及び過電流保護について解説します。
高圧自家用受電設備(以下、高圧受電設備といいます。)は、工場、ビルなどの負荷設備に電力を供給するため、電気事業者から高圧で受電する設備であり、結線方式としては、主遮断装置の形式により、CB形とPF・S形があります。第1図及び第2図は、CB形及びPF・S形受電設備に電気事業者との責任分界点に設置する区分開閉器を組み合わせた例を示したものです。
CB形は、主遮断装置にVCBなどの遮断器(CB)を使用し、受電設備に地絡、過負荷、短絡などの故障(事故)が発生したとき、地絡継電器(GR)または地絡方向継電器(DGR)、過電流継電器(OCR)などで検出しCBを遮断させ設備を保護する方式です。
PF・S形は主遮断装置を開閉器(S)と高圧限流ヒューズ(PF)で組み合わせたもので、地絡事故が発生したときはGRまたはDGRで検出し開閉器をトリップさせ、短絡事故のときは、短絡電流が数千A〜1万数千Aの大電流であるためPFで遮断する方式です。
受電設備容量は主遮断装置の形式と受電設備方式により制限があり、第1表に示す値を超えないことと定められています。JISキュービクルにおいては、変圧器容量の合計で、CB形は4000kVA以下、PF・S形は300kVA以下となっています。
高圧受電設備の保護には、地絡保護と短絡や過負荷などの過電流保護がありますので、これらについて概要を解説します。
2.1 地絡保護
高圧受電設備の構内で地絡事故が発生した場合、配電系統の地絡電流の流れは第3図のようになります。
地絡電流
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は、大地を通り系統各部の静電容量と配電用変電所の接地形計器用変圧器(EVT)の中性点に流れ込み、配電用変圧器の巻線を経由して地絡地点に戻るように流れます。地絡電流(
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)の大きさの分布は、配電線の静電容量が一様に分布していると考えると第4図のようになります。
地絡電流は、地絡点の電源側が最も大きな値となります。このような地絡電流の流れ方に対し、地絡保護は次のように行われます。
(1)地絡継電器(GR)方式
GR方式は、地絡電流を零相変流器(ZCT)と地絡継電器(GR)の組み合わせで検出し、主遮断装置を遮断させる方式で第5図のように構成して使用します。
この方式は高圧受電設備内での対地静電容量が小さい(構内の高圧電力ケーブル長が短い)場合に適用します。構内の対地静電容量がある程度大きいと、電源側(受電設備の外部)で発生した地絡事故によって、地絡電流の一部が大地を経由し構内の対地静電容量に流入し、母線内を通過しZCTを通って外部に流出するため、GRの整定感度以上の地絡電流が流入するとGRが不必要動作(もらい動作)します。GRが動作する電流の基準値(感度電流)は、受電設備の保護にとっては小さいほう(高感度)が良いのですが、あまり高感度にすると誤動作や不必要動作を招くことになり、一般的に200mAで整定されています。この場合、不必要動作する構内の対地静電容量の大きさは次のように計算されます。
GR感度電流:
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、1線の対地静電容量:
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、周波数:
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とすると、
この対地静電容量は、電力ケーブルの
6kV-CVT100sq
で計算すると、1心の静電容量が
0.45μF/km
なので、
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すなわち、ケーブル長は約124mに相当します。
GRの動作時間特性は、JIS C 4601(高圧受電用地絡継電装置)で規定され、第6図のような特性となり、電気事業者の配電用変電所の地絡保護継電装置との協調がとれるようになっています。
(2)地絡方向継電器(DGR)方式
構内の対地静電容量による充電電流が200mA以上になると、GR方式では電源側の地絡事故で、もらい動作する場合があるため、地絡電流の方向を検出できる方式が必要となります。そのため、第7図のように、零相電流をZCTで検出するほかに、零相電圧を接地コンデンサ(ZPD)で検出し、両者の位相を比較して零相電流の方向を確認する方式が採用されます。
不必要動作を確実に防止するためには、充電電流がGR感度電流の1/2以上になるとDGR方式を採用することがよいとされています。DGRの地絡事故判別は次のように行っています。
地絡電流のベクトルとDGRの位相特性を例示すると第8図のようになります。基準電圧
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に対し、
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の位相が0〜90度であれば、自構内の地絡事故であると判定されます。実際のDGRの動作領域は裕度を持たせて少し傾斜させてあります。
2.2 過電流保護
(1)過電流保護方式
高圧受電設備で短絡事故が発生すると、電源側から事故点に向かって短絡電流が流れ込みます。電力系統は単純化すると第9図に示すように、何段階かの過電流保護区分がされており、それぞれの区分点に過電流継電器(OCR)と遮断器(CB)が設置されています。このOCRの動作時間を、負荷側から電源側に向かって順次長く整定しておくと、事故点を最小範囲で除去できます。これを段階時限による選択遮断方式といいます。実際のOCRには慣性特性があり、これを考慮して動作協調を行っています。継電器の慣性特性とは、継電器の公称動作時間以下で継電器入力がストップした場合、慣性によって接点がメイクしない限界を示したもので、静止形OCRの慣性特性係数はJEC2510(過電流継電器)で0.9と規定されています。
(2)短絡電流の計算
電源からの配電系統を第10図のようなインピーダンス図で表すと、短絡電流は次のように求められます。
基準容量を10MVAとすると、電源から事故点までのインピーダンス
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は、
例えば、電源の短絡容量を
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とすると、電源のインピーダンス
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は、
計算上はこの短絡電流を遮断できるCBまたはPFが必要ということになります。
実際のCBまたはPFの遮断電流を選定するにあたっては、電気事業者の配電系統に対する長期的な視野に基づき推奨値が提示されますので、これに準じることが望ましいものと考えます。現在では、遮断容量160MVA(遮断電流12.5kA)が推奨されています。PFでは、これに対応するものとして、500MVA(40kA)が一般的に採用されています。
(3)配電用変電所OCRの動作特性(例)
配電用変電所OCRの整定は電気事業者が行うため、個別に確認しなければなりませんが、静止形OCRを採用した代表的な動作特性例を第11図に示します。動作電流値は360Aと720Aの2段階、動作時限は0.5秒と0.2秒の2段階の段時限整定となっています。高圧受電設備の過電流保護としては、この特性を基準にして協調をとる必要があります。
(4)CB形受電設備のOCR整定
OCRには瞬時要素と限時要素があり、過電流の大きさに対応して要素を使い分け、短絡領域では瞬時要素を動作させ、過負荷領域では限時要素を動作させるようにして、配電用変電所のOCRと協調をとるようにします。
瞬時要素の整定は、高圧受電設備の契約電力における負荷電流の1,000〜1,500%を目安とし、変圧器の励磁突入電流や電動機の始動電流などで動作しない値を選定します。
例えば、契約電力を200kW、受電CT比を30/5A、負荷力率を90%すると、瞬時要素の整定は次のように計算されます。
瞬時要素の整定倍率を契約電力の1,000%(10倍)とすると、整定計算値
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は、
瞬時要素のタップ値は40A(6.6kVで240A)となります。
瞬時要素の動作時間を50msとし、CBの遮断時間を3サイクルとすると、OCRとCBの合計遮断時間
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は、周波数を50Hzとして、
となります。これは、配電用変電所OCRの短絡領域における慣性動作時間0.18sよりも早く遮断することから、動作協調がとれていることになります。
限時要素の整定は、通常の負荷変動で動作しないように、契約電力の負荷電流に対して120〜150%で整定されています。同じ例で、契約電力を200kW、受電CT比を30/5A、負荷力率を90%すると、限時要素の整定は次のように計算されます。
限時要素の整定倍率を150%(1.5倍)とすると整定計算値
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は、
限時要素のタップ値は5A(6.6kVで30A)となります。
OCRのレバー(又はダイヤル)整定値は、変圧器二次側の過負荷後備保護として、変圧器一次PFの動作領域ではPFの動作より遅く、PFの小電流遮断不能領域ではPFより早く動作するように協調をとり選定します。
以上のようにしてOCRの整定を行った例を第12図に示します。
(5)PF・S形受電設備の受電PF選定
PFの特性には第13図に示すように、
の3種類があります。溶断特性は、PFに電流が流れてからヒューズエレメントが溶断するまでの電流−時間特性であり、アークが発生して遮断に至る前の段階です。遮断特性は動作特性とも呼ばれ、PFが溶断した後、アークが流れて消滅し電流が遮断されるまでの電流−時間特性であり、電源側すなわち配電用変電所OCRの動作特性との協調を検討する場合に用います。許容特性は、PFに電流が流れてもヒューズエレメントに性能劣化が生じないような電流−時間特性であり、負荷側の過渡電流、すなわち変圧器の励磁突入電流や電動機などの始動電流との協調を検討する場合に用います。
PF・S形受電設備では、三相および単相変圧器を一括して保護する形態が多いです。その場合、ヒューズメーカーから第2表に示すような選定表が提供されていますので、それを参考に選定します。
さらに、配電用変電所OCRの動作特性図に、PFの動作特性をプロットして協調がとれることを確認します。第14図に配電用変電所OCRと受電PFの協調例を示します。
PFで設備を一括して保護する場合に注意しなければならないことは、個別の変圧器の容量が比較的小さいとき、変圧器二次側直下の短絡事故時に、変圧器一次電流が小さいため、受電PFの遮断時間が長くなったり、PFの小電流遮断不能領域に入った場合、変圧器を焼損するおそれがありますので、そのときは変圧器個別にもPFを設置する必要があります。一般に、変圧器は定格電流の25倍の電流に2秒間耐えられるような短絡強度を持っていますので、これを考慮してPFを選定するようにしてください。