(1)高圧受電設備の年代別保護装置取付け位置の変遷
高圧受電設備(CB形)の場合、過電流保護装置である過電流継電器、変流器と過電流遮断器の取付け位置は従前からほとんど変わっていない。しかし、Gである高圧地絡継電器、零相変流器と開閉器・遮断器の取付け位置は、昭和40年代は第1表(a)に示すように零相変流器は高圧受電設備の高圧母線貫通形方式のものが主に使用されていた。昭和50年代は高圧母線の貫通部分での絶縁劣化による短絡事故を防止するため、第1表(b)に示すように零相変流器はケーブル貫通形方式のものが多く使用されるようになった。昭和60年代以降、第1表(c)に示すように波及事故防止のため高圧ケーブルなどについても保護対象範囲とするG付きPASなどの取付け方式が採用され、現在に至っている。
Gが動作した場合には、前述のどの方式に該当するかを事前に把握して、対処することが大切である。
(2)高圧地絡継電装置が動作した場合の対応処置方法
Gが動作した場合の原因調査とその処置手順について紹介する。
(a)動作(表示)の確認
Gが動作したときは、遮断器(以下、CBという。)も動作し、停電することになる。その際はG及びCBの動作表示も忘れずに確認しておく。
(b)動作原因の調査
Gが動作し高圧受電設備が全停電した場合、地絡箇所を探査するには、設備の外観・観察点検と絶縁抵抗測定を中心として行うのが一般的である。
外観・観察点検は故障点究明への手掛かりとして電路及び機器の亀裂・破損・焼損、表面リーク痕跡などの異常状態の発見から地絡故障点を推定する。また、絶縁抵抗を測定し、高圧電路と大地間の絶縁抵抗が異常に低い場合には地絡故障があるものと判断する。地絡電流が数百mA程度で短時間の場合には痕跡などが生じにくく、外観・観察点検では分らない場合もある。
高圧電路において絶縁抵抗測定により地絡故障を判断する際には、次のような点についても留意する必要がある。
- 電路の使用電圧に比べて低い定格測定電圧の絶縁抵抗計を使用すると、高い絶縁抵抗値を示し正 確な測定ができない場合もあるので、なるべく使用電圧に近い定格測定電圧(1,000、2,000、5,000V など)の絶縁抵抗計を使用することが望ましい。
- 絶縁耐力試験装置などを用いて6,000 V程度の交流電圧を印加しなければ確認できない場合もあ る。
- 雨水浸入などで瞬時地絡が生じた場合、実際に絶縁抵抗測定時には数~数百MΩに回復すること もあり、原因が究明できない場合もある。
(c)動作処置手順
標準的な調査手順は第1図「高圧地絡継電装置動作による原因調査手順」のフローを基にして、主遮断装置(CB)から負荷側の高圧電路全体について地絡状態を確認し、地絡がある場合には高圧回路を 母線系統、変圧器系統、コンデンサ系統、高圧引出系統などに分けて、順次絶縁抵抗測定により地絡の有無を確認し、地絡箇所の特定とその原因を究明する。また、高圧回路全体の地絡調査で地絡が見付からない場合は外観・観察点検、その他の試験方法により更に地絡原因の調査を行う。 なお、高圧地絡継電装置が動作し、停電した場合には念のため近隣一帯の施設が停電していないか、 また必要に応じて電気事業者に照会し波及事故になっていないかを確認しておく。もし波及事故に至った場合には、その処置を行うとともに各地区の原子力安全・保安院 産業保安監督部長に対して、所定の手続きが必要になるので留意する。
(3)高圧地絡継電装置の動作原因を現場で実施できる試験・測定方法
Gの動作に伴い、高圧受電設備の配線や電気機器の異常を発見するために現場で容易に実施できる試験・測定方法として、既設設備の絶縁耐力試験、Gの動作特性試験(慣性特性試験を含む)をとりあげて次に紹介する。
(a)既設設備の絶縁耐力試験
高圧機器の絶縁不良で地絡によるものと推定される場合に、絶縁抵抗測定のみでは十分地絡状態を確認することができず、そのまま復旧することは不安になることがある。 このようなとき、その機器について次のような絶縁耐力試験を行い確認する。
( i )試験内容
高圧機器の絶縁性能確認のため行う絶縁耐力試験は、高圧充電部と箱体などの接地金属体との間に商用周波電圧を印加することにより、絶縁性能が健全であるか否か確認する。 竣工検査時には電気設備に関する技術基準に基づき、最大使用電圧の1.5倍の電圧(6kV機器の場合は通常10,350V)を印加するが、既設設備にこのような高い電圧を印加することは苛酷であり、絶縁 破壊を起こすおそれがある。したがって、絶縁破壊を起こしているか否かの確認は、電路の使用電圧6.6kVの場合は最大使用電圧6.9kV程度の試験電圧を印加して確認していることが多い。
( ii )試験方法
- 試験回路:試験回路例を第2図に示す。
- 異常の有無確認:電圧計、電流計を見ながら徐々に電圧を上昇させ、所定の電圧で10分程度印加して、異常の有無を確認する。この場合、絶縁破壊から試験用電源の保護装置が動作することも 予想されるので十分注意して行う。
( iii )判定基準
電圧印加中に絶縁破壊を起こせば不良であるが、絶縁破壊に至らなくても、試験中、電圧計及び電流計の指示に不規則な変化が認められるときは、絶縁破壊などがあったものと推定する。
(b)高圧地絡継電装置の動作特性試験(慣性特性試験を含む)
( i )高圧地絡継電装置の動作異常
Gの動作異常は、Gの性能変化によるものとGの取付け設備の電気的諸条件から生じる不必要な動作によるものとに分けられる。
Gの性能変化による異常の例としては次のようなことがあげられる。
- 不動作
- 検出電流感度の変化(過敏または低下)
- 慣性特性の減少(不必要動作しやすくなる)
このうち、1.不動作、2.検出電流感度の変化は、検出感度電流試験により確認できる。また、3.慣性特性の減少については慣性特性試験で確認できる。
JIS C 4601(高圧地絡継電装置)によるとGの動作応答時間をあまり早くすると、自己構内の高圧開閉器の投入時における不ぞろい投入による見掛け上の零相変流や瞬間的に消滅する地絡事故なども全部拾ってしまい、不必要動作のおそれが多くなってくる。これらのことを防ぐため一定の不感度時間をもたせてある。
JIS C 4601では、「零相変流器に整定電流の、400%の試験電流を50ミリ秒間流した場合においてGが動作しないこと。」と定められており、この動作の時間特性を慣性特性と呼んでいる。
また、Gの取付け設備の電気的条件から生じる不必要動作としては、非方向性Gの零相変流器の負荷側に一定以上の太さ、長さの高圧ケーブルが施設されていると高圧配電線や他の需要家で地絡事故が発生したとき、いわゆるもらい動作を引き起こすことなどその例としてあげられる。
( ii )検出感度電流試験
(ア)試験方法
- 結線図は第3図に示す。
- Gの試験ボタンを押して遮断器の動作、Gの表示灯及びブザーの動作を確認すること。
- 零相変流器の試験端子に電流を流す。この場合、試験電流を零より徐々に増加しGが動作(遮 断器が動作)したときの試験電流を読む。
- 作試験は各タップについて行う。
- Gの動作試験終了後、Gの感度電流値を整定すること。
(イ)判定基準
原則として、タップ値の±10%範囲以内で動作すること。
( iii )慣性特性試験
(ア)試験方法
- 慣性特性の試験には慣性特性試験器( リレーテスターなど)を用いる。結線図は第4図による。
- 試験電流をGの整定タップ値の130%に合わせる。
- 測定レンジを「慣性」にする。
- 試験電流を通ずる時限を50ミリ秒に合わせる。
- 零相変流器に前述の電流を急に流し、Gの動作(遮断器が動作)の有無を確認する。
- 試験電流を通ずる時間を変化させて、Gが動作する通電時間の最小値を確認する。
- G設定値の400%の試験電流において、⑤、⑥の同様の試験を実施する。
(イ)判定基準
ZCTに整定タップ電流400%の試験電流を50ミリ秒流した場合においてGが動作しないこと。
( iv )感度電流の整定に関する留意点
非方向性Gは零相電流の方向に無関係に動作するが、方向性Gはある基準電圧に対し零相電流の方向(位相)を判別することにより、正動作ともらい動作とを区別する機能がある。(第5図)
非方向性Gは零相電流が一定の値以上のレベルになったとき動作し、高圧配電線または他の需要家での地絡事故の際にも零相変流器負荷側の対地静電容量を通して零相変流が流れると、不必要動作(もらい動作)をするおそれがある。したがって、特に構外(高圧配電線または他の需要家)の地絡が間欠アーク地絡の場合には、この零相電流に高調波成分が多く含まれているので、Gの感度電流の整定値はこれらの影響を考慮に入れて、動作レベルを設定する必要がある。
これによる整定値は、第2表により算出した構外の地絡に基づく零相電流(第5図A需要家の
に相当)が50mA以下であれば200mA、50~100mAであれば400mA程度に整定しておく。このようにすれば電気機器の地絡保護もでき、かつ不必要動作のおそれは少なくなる。構外での地絡に基づく零相電流が100mAを超える場合は、整定値は600mA程度になることがあるので、この場合には電気事業者と整定値について協議することが必要である。保護協調が困難な場合には方向性Gを設置することになる。
方向性Gは構外での接地による零相電流に影響されないから、ケーブルの太さ、長さに関係なく整定値は200mA程度とすることができる。
このような理由からもGのもらい動作による停電を防止するためには、方向性Gを設置することが賢明である。
なお、当然のことであるが、引込みケーブルはG付きPASなど引込み方式では地絡保護の対象に入るが、零相変流器が従前のケーブル貫通形方式ではこの保護対象に入らない。
注: